WBA世界バンタム級チャンピオン大場政夫 VS WBC世界フライ級チャンピオンミゲル・カント「写真三枚」
そして運命の日1975年7月12日(土曜日)に首都メキシコシティにあるアレナ・コリセオ(Arena Coliseo)で試合が開始される。大場政夫が試合会場に入場すると耳をつんざくような大ブーイングと、敵意むき出しの強烈な野次を浴びることになった。アレナ・コリセオ(Arena Coliseo)は、メキシコシティの労働者階級が多く住む下町(テピート地区)に位置し、「ペルー通り77番地の漏斗(El embudo de Perú 77)」という異名を持つ。すり鉢状の構造で観客席とリングが非常に近く、観客の熱気や声が直接リングに降り注ぎます。特に1970年代の「メキシコ vs 日本」の軽量級(バンタム級やフライ級など)のライバル関係は異常なほど熱を帯びており、外国人選手に対するアウェーの洗礼は苛烈を極めていた。具体的なブーイングや野次の内容は、以下のような非常に過激なものになる。飛び交うブーイングと野次の内容はこうだ。「チノ!」(¡Chino!)の合唱当時のメキシコ(および中南米)では、日本人を含むアジア系の人種を総称して「チノ(中国人)」と呼ぶ傾向がある。そのため「¡Pinche Chino!(ピンチェ・チノ!=クソのアジア人!)」や「¡Mata al Chino!(マタ・アル・チノ!=そのアジア人を殺せ!)」といった野次が会場中から飛び交っている。¡Mátalo!(マタロ!)「殺せ!」という直接的な怒号が周囲から聞こえてきた。 ¡Chinga tu madre!(チンガ・トゥ・マドレ!) 直訳すると「お前の母親を犯せ」となり、メキシコにおける最上級の侮辱言葉も聞こえていた。独特の指笛声だけでなく、「ピーッ・ピ・ピ・ピー・ピー」という独特のリズムの指笛が鳴り響いた。これは言葉を発さずに上記の「Chinga tu madre」を表現する、メキシコ特有の侮辱的なサインだ。大場政夫は未だかつてないほどの強烈な罵倒を浴びて萎縮していた。そして過度な減量により眩暈がしていた。
(意識朦朧の中でも俺は試合で勝ってみせる!)
その心意気はとても気高かった。
「ここがメキシコシティ....何て粗暴な観客だろう...」
大場政夫は緊張している。
「レディースエンジェントルメーーーンッ!今宵はお集まり頂きありがとうございます!これよりMasao Ohba VS Miguel Cantoの試合を始めます!」
リングアナウンサーが大声で言った。
「大場政夫選手はプロボクシング44戦41勝22KO2敗1分の戦績です。」
アナウンサーは隣同士で仲良く談笑する。
「そうですね!対するWBC世界フライ級王者ミゲル・カントはプロ戦績49戦42勝(13KO)4敗3分戦績なのでどうなるか楽しみですね!」
遂に大場政夫と WBC世界フライ級王者ミゲル・カントの火蓋が切られる。
「レディーーーーーーーーーーファイ!」
レフェリーの大声と共に試合の火蓋は切られた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第1R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第1R、開始のゴングと同時に、大場政夫は驚くべき俊敏さでリング中央に進み出た。眩暈によるふらつきと敵意に満ちた観客の声に押しつぶされそうになりながらも、彼の目には揺るぎない闘志が燃え盛っていた。対する王者ミゲル・カントは、冷静沈着に大場の動きを観察。メキシコの国民的ヒーローは、完璧な防御技術とカウンターの名手として知られていた。第1Rはカントが優勢に展開していた。鋭いジャブと正確な右ストレートが大場のガードを貫通し大場は必死に耐えるが、減量の影響か足元が定まらない。観客は「¡Mátalo!」「¡Chinga tu madre!」の叫びをさらに激しくし、リングに悪意の波動を送り込んでいた。大場は防戦一方のまま第1Rを終えた。
「大場、落ち着け!距離を取れ!」
セコンド席からトレーナーの声が響くが、大場の耳には届いていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第2R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第2R、大場はようやく自分のペースを取り戻し始める。左フックを軸にしたインファイトに持ち込み、カントの完璧な防御にわずかな隙を見出す。
しかし、カントは王者の風格はどんな攻撃にも冷静に対処し、的確なカウンターで応酬する。観客の大場政夫に対するブーイングはさらに激しくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第3R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第3R、大場はついにチャンスを掴む。カントのジャブを避け、強烈な左フックを王者の顎に叩き込む!カントがよろめく!アリーナ・コリセオが一瞬静まり返る。さりとて、カントはすぐに体勢を立て直し、逆に猛反撃する。大場は再び防戦に回る。
「大場をもっと応援しろ!」
日本からの少数の応援団が叫んだが、その声はメキシコ観客の怒号にすぐに消された。試合は中盤に入り、激しい攻防が続く。大場は減量の影響でスタミナが心配されたが、不思議なほどの粘りを見せる。
ゴングの音が、大場政夫の朦朧とした意識に突き刺さった。最初の3ラウンドは、まるで地獄だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第4R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第4R、メキシコの国民的ヒーロー、ミゲル・カントの完璧なボクシングは、彼の減量で弱った体を容赦なく切り裂いた。観客の罵声は、物理的な壁のように彼を押し潰そうとしていた。彼の左目はカントの鋭いジャブで腫れ上がり、視界は狭まる一方だ。
「もうだめか…」
その刹那、彼の脳裏に、日本の小さなジムで汗を流す仲間たちの顔がよぎった。そして、何よりも、決して裕福ではなかったが、いつも温かい握り飯を作って待ってくれた母の顔がよぎる。
「お袋…まだ、まだ俺は…」
第4R、大場はガードを固めたまま、リングを円を描くように動き始めた。それは、逃げるようにも見えた。メキシコ観客はそれを侮蔑し、「¡Cobarde!(臆病者!)」の合唱が始まった。カントは冷静に、彼を追い詰めようと距離を詰める。
しかし、大場の動きには、前ラウンドまでにはなかったわずかな変化があった。彼は、カントのリズムを、彼の呼吸を、彼の魂の鼓動を、全身で感じ取ろうとしていた。カントが踏み込み、鋭い左ジャブを放つ。その瞬間、大場の体が、まるで予見していたかのようにわずかに左に滑った。パンチは空を切る。カントの目に、初めての驚きが浮かんだ。
「今の…!」
大場はその隙を逃さなかった。滑り込むように、彼の全てを込めた左フックを、カントの脇腹の下に叩き込んだ!
「ブッ!」
カントから、初めて苦痛の声が漏れた。彼の完璧なフォームが、一瞬、崩れた。だがすかさずミゲル・カントの右ストレートが 大場政夫の左目を襲った。
たまらず大場政夫はダウンした。レフェリーがカウントを続ける。
「1...2...3...4...5...6!」
大場政夫は立ち上がる。アリーナ・コリセオの罵声が、不気味な静寂に包まれた。反撃を開始しようとしたら第4Rは終了した。第4Rは誰がどう見てもWBC世界フライ級王者ミゲル・カントが有利に立ち回った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第5R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第5R、カントは王者のプライドで立ち向かう。彼の攻撃は、より凶悪になり、よりパワフルになった。大場は再び防戦一方に追い込まれる。左目にカットが開き、彼の視界はほとんど真っ赤となった。セコンド席から「大場、距離を取れ!」の叫びが聞こえるが、もう彼には、その余裕はなかった。彼はただ、本能的に、カントのパンチを避け、カウンターパンチを狙い続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第6R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第6R、大場はロープに追い詰められ、カントの連打をガードに受ける。腕が痺れ、意識が遠のく。観客の殺意が、彼の精神を削っていく。
(もう限界か…)
その時、彼の耳に、奇妙な音が聞こえた。それは、メキシコ観客が発する、侮辱的な指笛「メンターダ・デ・マドレ」だった。それまで憎悪の音として聞こえていたそれが、今や、まるで彼を煽るための戦太鼓のように聞こえたのだ。
「そうか…お前たちが、俺をここまで立ち上がらせてくれたのか…!」
大場は、ロープを蹴って、自らの意志で前に踏み出した。カントの放った右ストレートを、彼はわずかに首を傾けて避け、そして、すべてを賭した左フックを、カントの顎に叩き込んだ。
グシャッ!
カントの首が、不自然に振れる。大場は、追い撃ちの右フックを浴びせる。カントがグラッと膝から崩れそうになった。アリーナ・コリセオが、凍りついた。メキシコの観客は、信じられない光景に目を凝らした。自分たちが憎むこの日本人が、自分たちの英雄を、まさにKOしかけていた。ゴングが、ミゲル・カントを救った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第7R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第7R、ゴングが鳴り響くと、カントは明らかに動きが鈍っていた。前ラウンドでの大場の猛反撃が、王者の心身に深い傷を刻んでいた。メキシコの国民的ヒーローは、初めてリング上で迷いを見せていた。大場はその隙を逃さなかった。彼の腫れ上がった左目から流れ出る血が、彼の頬を伝い、彼の闘志をさらに燃え上がらせていた。彼はもはや、眩暈に苦しむ減量で弱った体ではなかった。観客の罵声は、彼にとっての力となり、彼の魂を鍛え上げていた。
「お前らの憎しみが、俺を強くする!」
大場は内に叫び、リング中央へと進み出た。カントは慎重に距離を取ろうとするが、大場の足は、まるで地面を滑るように速かった。カントが放つジャブは今迄なら避けるだけで精一杯だったそのパンチを、大場は今見事に【パリング】し、その腕の内側から、鋭い左フックを叩き込んだ。カントのガードが、上に吹っ飛んだ。アリーナ・コリセオが、再び凍りつく。メキシコの観客は、自分たちの目を信じられなかった。自分たちが最も憎むこの日本人が、自分たちの英雄を、まさに打ちのめそうとしていた。
「終わらせる!」
大場の心臓が高鳴る。彼はすべてを賭した連打を開始した。左フック、右フック、そして再び左フックの猛攻によりカントはロープに追い詰められ、必死にガードを固めるが、大場のパンチは、そのガードを容赦なく貫通した。カントの体が、大きく揺れた。彼の目は、既に焦点を失っていた。
「止めろ!」
日本からの応援団の声が、初めて、アリーナ・コリセオに響いた。メキシコの観客は、もう誰も、何も叫べなかった。ただ、信じられない光景を、呆然と見つめているだけだった。大場は、最後の一撃を放った。彼の全身全霊を込めた、左ストレート。
そしてカントの顔を血に染めた。カントが、静かに倒れた。リングに倒れ込むその姿は、メキシコの国民的ヒーローとしてのプライドを、すべて失ったかのようだった。レフェリーが、カウントを始める。
「1...2...3...4...5...6...7...8...9...」
ミゲル・カントは立ち上がった。ここからミゲル・カントの逆襲が始まる。大場政夫の勝利を確信した日本のセコンド陣から歓声が上がった。
しかし、その声は途中で消えた。リングの中央で、揺らぐ体を必死に支えながら、ミゲル・カントが立ち上がっていたのだ。彼の顔は血に塗れ、右目はほとんど開かない。だが、その左目だけは、王者の誇りと、異様なまでの闘志を燃やしていた。メキシコの観客は、一瞬呆然とした後、信じられない光景に歓声と喝采を送った。彼らの英雄は、死んでいなかった。
「まだ…終わらねぇ…!」
大場は、驚きと同時に、湧き上がる疲労感に襲われた。最後の力を振り絞った一撃が、 KOを奪えなかった。その事実が、彼の体から残っていた力を吸い取っていく。レフェリーは、カントの目を凝視し、彼の顎を指で軽く叩いた。
「¡Estás bien?(大丈夫か?)」
カントは、力なく、しかし確かに頷いた。レフェリーは試合続行を指示し、ゴングが鳴った。第7Rは、カントの逆襲の幕開けと共に終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第8R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第8R、ゴングと同時に、リングの空気が変わった。これまで「殺せ」、「臆病者」と罵倒していた観客の声が、今や「¡Miguel! ¡Miguel!」という、カントを鼓舞する合唱に変わっていた。その声が、カントに新たな力を与えていた。カントは、もはや完璧なボクサーではなかった。彼の動きは、右目の視界を失ったためか、わずかにぎこちなくなっていた。さりとてその代わりに、彼のパンチは、死に物狂いの一撃となっていた。彼は、大場との距離を詰め、もはや防御を考えない、ただひたすらに殴りかかる野生の獣と化していた。大場は、疲労と出血で視界がぼやけていた。彼は、カントの猛攻を避けることに精一杯だった。カントの放つ、左フックが大場のガードを貫通し、脇腹に突き刺さる。
「ぐっ…!」
大場は、思わず呻き、足がもつれた。カントは、その隙を逃さなかった。彼は、大場をロープに追い詰め、渾身の右フックを振り下ろした。その一撃が、大場の顎をガッチリと捕らえた。大場の体が、大きくぶれる。彼の意識が、一瞬、途切れた。カントは、左、右、左と追い撃ちの連打を放つ。大場は、ロープに背を預け、必死にガードを固めるが、その腕は、もはや鉄壁ではなかった。彼の体が、カントのパンチに、まるで風に揺られる木の葉のように翻弄されていた。
「止めろ…」
日本のセコンド席から、トレーナーの悲痛な声が聞こえた。レフェリーは、大場の様子をじっと見ていた。大場の目は、すでに焦点を失っていた。レフェリーは、試合を止めようと、一歩踏み出す。その時、大場は、ロープを蹴った。彼は、自らの意志で、ロープを離れ、前に踏み出した。彼の目は、まだ闘志を燃やしていた。
「俺は…まだ…」
大場は、内に叫び、残された力をすべて振り絞り、カウンターパンチを放った。それは、鋭い、しかし力のない左フックだった。その一撃が、カントの傷ついた右目に、まともに命中した。カントが、痛そうに叫び、後ずさる。大場は、その隙に、間合いを取った。ゴングが、二人を救った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第9R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第9R、二人の選手は、もはや技術を競うボクサーではなかった。彼らは、ただ、相手を倒すことだけを考えた、闘争の化身だった。リングは、もはやスポーツの舞台ではなく、命がけの戦場と化していた。大場は、左目のカットがさらに深くなり、彼の視界は、ほとんど真っ暗だった。彼は、カントの気配を感じ、その声を聞き、本能的にパンチを避け、反撃した。カントもまた、右目の視界を失い、大場の動きを、全身で感じ取っていた。二人は、リングの中央で、もつれ合った。彼らは、もはや美しいコンビネーションを打ち合うことはなかった。ただ、近距離で、ひたすらに、相手の体を殴り続けた。それは、まるで、崖っぷちで、互いの腕を掴み合い、相手を突き落とそうとする、二人の男の最後の戦いのようだった。観客は、もう誰も、どちらを応援するのか分からなかった。彼らは、ただ、リング上で、命を削る二人の戦士の姿を、息をのんで見つめていた。ゴングが鳴り、二人は、お互いに離れ、自分のセコンドの元へと歩いた。彼らの姿は、まるで、古びた像のようだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第10R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第10R、試合は、さらに泥沼化した。大場は、スタミナの限界が来ていた。彼の足は、もはや自分のものではなかった。彼は、リングを、よろよろと歩くだけだった。カントもまた、右目の腫れがひどく、彼の動きは、さらに鈍くなっていた。二人は、リングの中央で、顔を合わせた。彼らの目には、もう憎しみも、怒りもなかった。ただ、試合を終わらせたいという、純粋な疲労感だけが浮かんでいた。カントが、ゆっくりと、左ジャブを放つ。大場は、そのパンチを避けることさえできず、ガードに受ける。その一撃が、彼の最後の残っていた力を、奪い去った。大場の体が、ゆっくりと、前に倒れ込んだ。レフェリーが、カウントを始める。
「1...2...3...4...5...6...7...8...9...」
今度は大場政夫が立ち眩みながら立ち上がった。試合は続く。カントがKOを逃した絶望と、大場がダウンから這い上がった執念でアリーナ・コリセオの観客は、もはや声を出うることを忘れ、ただ、リングの上で息をひそめる二人の姿を見つめていた。彼らは、これが、もはや勝敗を決める試合ではなく、互いの精神の限界を試す、残酷な儀式であることを理解していた。大場は、よろよろと立ち上がった。彼の意識は、明滅する灯火のようだった。左目は血で固まり、右目はただ霞んでいる。彼が見ている世界は、もはや現実のものではなかった。彼は、ただ、本能的に、敵の気配を感じ、その声を聞き、立ち向かうことしかできなかった。カントもまた、限界に達していた。彼の右目は、完全に塞がれていた。彼は、大場の動きを、全身の皮膚で感じ取っていた。彼の動きは、もはや王者のそれではなかった。ただ、相手を倒すことだけを考えた、野生の獣のそれだった。二人は、ゴングの音と共に、再び、リングの中央で向かい合った。彼らの間には、もはや技術も、戦略もなかった。ただ、倒れるまで、殴り合うという、原始的な約束だけがあった。カントが、ゆっくりと、左ジャブを放つ。大場は、そのパンチを避けることさえできず、ガードに受ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第11R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第11R、セコンド席から、大場の棄権を促す声が聞こえた。彼のトレーナーは、白いタオルを手に持ち、彼を救うことを考えていた。
しかし、大場は、それを断固として拒否した。彼は、リングに上がり、戦うことを誓った。彼の精神は、もはや、自分の体を、コントロールできていなかった。それは、ただ、戦うことを求める、原始的な衝動だった。カントもまた、セコンドに止められることを拒否した。彼は、王者のプライドを、最後まで守り通すことを誓った。彼の精神は、もはや、自分の体を、コントロールできていなかった。それは、ただ、戦うことを求める、王者の本能だった。二人は、リングの中央で、顔を合わせた。彼らの目には、もう何も映っていなかった。ただ、相手の顔だけが、ぼんやりと浮かんでいた。彼らは、もはや、言葉を交わすことはなかった。ただ、お互いの目を見つめ、次の攻撃を待っていた。カントが、ゆっくりと、左ジャブを放つ。大場は、そのパンチをクロスカウンターで迎え撃った。そして両者同時にマットに沈んだ。
「1...2...3...4...5...6...7...8...9...10!」
こうして両者引き分けでこの試合は幕を下ろした。
面白かったらブクマ・評価お願いします。




