大場政夫 VS WBA世界バンタム級チャンピオン洪景天홍경천(ホンギョンチョン)「写真四枚」
1974年11月16日(土曜日)大場政夫は桑田勲氏からWBA世界バンタム級チャンピオン洪景天がどういう選手か説明を受ける。
「彼は1970年代に活躍している韓国ボクシング界の伝説的なスターで、そのスタイルは一言で言えば「驚異的なタフネスと不屈の精神を武器にした、手数の多いアグレッシブなボクサーファイターだ!」
その特徴を紙に記した。
「彼のスタイルはどんなに打たれても、倒されても、執念深く勝利を狙い続ける泥臭いまでの根性が彼の最大の武器だ。」
「へぇーWBA世界バンタム級チャンピオンなのに結構泥臭くて好感持てますね!」
「無尽蔵のスタミナと手数が厄介だぞ!彼は一撃必殺のパワーというよりは、豊富なスタミナを活かした連打で相手を削っていくタイプだ!」
「長期戦は止めた方が良いですね。早めに倒すよう心掛けます。」
「スタミナがすこぶる優れていると考えていい。試合終盤まで落ちない運動量だ!」
「手数が多くジャブから始まる多彩なコンビネーションを絶え間なく繰り出し、相手に休む暇を与えないのも流石はWBA世界バンタム級チャンピオンだな。」
「WBA世界バンタム級チャンピオン洪景天はオーソドックスで俊敏な動きをよくする選手だぞ!基本はオーソドックス・スタイルで、サイドステップやヘッドスリップといった機動力も兼ね備えている。1974年7月3日のアーノルド・テイラー戦では、相手の強打を避けるために左右への動きと頭の振りを徹底するようにアドバイスを受け、それを見事に遂行して世界王座を奪取している。直感的な野性味もありながら、戦術を忠実に実行できる器用さもある真のチャンピオンだ。」
それでもやるしかないという気持ちが大場政夫の闘志に火をつけた。
「彼はハングリー精神が非常に強く、技術よりも「打たれても打ち返す」気迫が前面に出たスタイルだ。洪景天はその完成形の一人と言える。技術的な洗練さよりも、窮地に追い込まれてから真価を発揮する「逆転の貴公子」的なスタイルが、ファンを熱狂させた。」
真のチャンピオンはファンに好かれるということを大場政夫は知った。桑田勲氏はWBA世界バンタム級チャンピオン洪景天に勝てるように【WBA世界バンタム級チャンピオン洪景天攻略ノート】をあげた。
「これを隅から隅まで読め!そして勝つんだッ!大場政夫ォオオ!」
そこにはこう書いてあった。洪景天のような「驚異的な回復力」と「手数」を誇るボクサーを攻略するには、彼の精神的な勢いに飲み込まれず、肉体的・戦術的に「根を断つ」戦略が求められる。
1. 徹底したボディ打ちで「スタミナの根拠」を奪う
洪景天の最大の武器は、後半まで衰えないスタミナと手数だ。これを封じるには、序盤から徹底的にボディ(腹部)を叩くことが最も効果的だ。
狙い: 心肺機能にダメージを与え、自慢の連打に必要な「息」を止める。
効果: 足が止まれば、彼の機動力やサイドステップも封じることができ、後半の「逆転劇」を起こすエネルギーを削り取れる。
2. 「ダウン後の深追い」を制御する(冷静なフィニッシュ)
彼はダウンを奪われた直後に最も危険な「火事場の馬鹿力」を発揮する。
戦略: 彼をダウンさせた際、勢いに任せてラッシュを仕掛けるのは禁物だ。ガードを固めて反撃を誘い、彼が焦って大振りになったところに正確なカウンターを合わせ、完全に意識を断つ必要がある。
教訓: 「倒した」と思った瞬間こそが、彼が最も逆転を狙ってくるタイミングであることを忘れてはいけない。
3. ジャブによる距離の支配と「リズムの分断」
彼は一定のリズムで手数を出し続けることでペースを掴む。
戦略: リーチを活かした鋭いジャブで、彼が踏み込むタイミングを常にズラし続ける。また、クリンチや絶妙なバックステップを混ぜ、彼が得意とするコンビネーションの3発目、4発目を出させないようにせよ!
狙い: 自分のボクシングができなくなると、精神的な焦りが生まれ、ボロが出やすくなる。
4. 圧倒的な一撃必殺(ハードパンチャーの戦略)
洪景天は何度もダウンを奪われながら立ち上がる。それは裏を返せば「打たれ強さそのものよりも、回復力が異常に高い」ことを意味する。
戦略: 小刻みなダウンを重ねるのではなく、一撃で10カウントまで持ち込む、あるいはレフェリーが即座に止めるレベルの「一撃の重さ」で仕留める必要がある。そこにはとても小文字でこう書いてある。
【右ストレートパンチ解禁しても良いんだよ?】
具体例: 顎やテンプル(こめかみ)への正確な狙い撃ちで、脳を揺らし、立ち上がるための三半規管を麻痺させることが理想的だ。
結論
洪景天を倒すための最適解は、「熱くならず、冷静に彼を解体すること」だッ!彼と同じ土俵(激しい打ち合い)に立ってしまうと、彼の土壇場の強さが発揮されてしまう。「前半はボディで削り、中盤以降に冷静なカウンターで仕留める」という、冷徹なまでのタクティクスが有効だ。彼の弱点は技術に長けたアウトボクサーや、精密機械のようなカウンターパンチャーが最も相性が悪かったはずだ。
「このノートを参考にします!要するにボディを効かせまくれば勝機が見えるということですね!」
大場政夫は元気な声と共に猛特訓を開始した。
1975年3月13日(木曜日)に体重測定の日となった。大場政夫の体重は52.9kgになっていた。対するWBA世界バンタム級チャンピオン洪景天の体重は53.1kgになっていた。
そして運命の日1975年3月14日(金曜日)にソウルの奨忠体育館でプロボクシングの試合が始まる。大場政夫が試合会場に入場するとブーイングの嵐に包まれた。 大場政夫 はブーイングの嵐により筋肉は硬直し、動きがぎこちなくなった。会場はキムチの臭いが漂っていた。
「ここがキムチの聖地韓国....右ストレートパンチは使わずボディを効かせまくるパンチをしよう...」
大場政夫は緊張している。
「レディースエンジェントルメーーーンッ!今宵はお集まり頂きありがとうございます!これよりMasao Ohba VS 홍경천(ホンギョンチョン)の試合を始めます!」
リングアナウンサーが大声で言った。
「大場政夫選手はプロボクシング43戦40勝21KO2敗1分の戦績です。この会場で彼はアウェーです。」
アナウンサーは隣同士で仲良く談笑する。
「そうですね!対するWBA世界バンタム級チャンピオン洪景天홍경천(ホンギョンチョン)はプロ戦績28勝(11KO) 2敗 2分け戦績なのでどうなるか楽しみですね!」
遂に大場政夫と WBA世界バンタム級チャンピオン洪景天홍경천(ホンギョンチョン)の火蓋が切られる。
「レディーーーーーーーーーーファイ!」
レフェリーの大声と共に試合の火蓋は切られた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第1R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第1R、ゴングが鳴り響き、大場政夫はリング中央に一歩踏み出した。ブーイングの嵐が彼の神経を逆なでしたが、桑田勲氏のノートを思い出し深呼吸をした。
(冷静に、ボディから打つ!)
洪景天はオーソドックススタイルで軽やかにステップを踏みながら、ジャブを鋭く繰り出してくる。その動きはまるでリングを舞う蝶のようだった。大場はガードを固めながら、相手のリズムを観察した。
(来るな!)
洪景天が踏み込んできた瞬間、大場は左フックを鋭くボディに叩き込んだ。
ブンッ!
乾いた音が響き、洪景天の眉間に一瞬、しわが寄った。それでも彼はひるまず、逆に手数で押し返してきた。ジャブ、右ストレート、左フックのコンビネーションが止まらない。大場はガードを固めながらクリンチに持ち込み、レフェリーに分けられた。
(くそっ、手数が尋常じゃない。)
洪景天のパンチは一発一発の破壊力は高くないが、雨のように降り注ぎ、大場のスタミナを削っていく。ラスト30秒、大場は再びボディ攻撃に切り替えた。左フック、右フックを交互にボディに叩き込み、洪景天の動きをわずかに鈍らせた。ゴングが鳴り、第1Rは終了。大場の陣営は安堵のため息をついた。大場はコーナーで「息を整えろ!ボディを効かせ続ければチャンスはある!」と自らに言い聞かせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第2R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第2R、大場はより積極的にボディ攻撃を仕掛けた。洪景天のジャブを避けながら、鋭い左ストレートをボディに突き刺す。洪景天は苦しそうな表情を見せたが、それでも手数は衰えない。むしろ、苦痛を感じるたびに、より凶暴な表情で打ち返してきた。
「このタフネスは半端じゃない!」
大場は桑田のノートを思い出した。
「彼は窮地に追い込まれてから真価を発揮する。」
大場は焦らず、自分のペースを守った。ジャブで距離を保ち、踏み込んできたところにボディブローを叩き込む。このパターンを繰り返した。ラスト1分、洪景天の連打が大場のガードを破り、右フックが顎にクリーンヒットした。「ぐっ!」大場はよろめいたが、クリンチでしのいだ。洪景天はここぞとばかりにラッシュを仕掛けようとしたが、レフェリーに分けられた。ゴングが鳴り、第2Rも大場がなんとか凌いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第3R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第3Rに入ると、大場のボディ攻撃が効果を現し始めた。洪景天の足どりが少し重くなり、コンビネーションのスピードもわずかに落ちた。大場はそれを見逃さず、より強力なボディブローを浴びせた。
(うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)
大場の心の雄叫びと共に、右フックが洪景天の脇腹に深く突き刺さった。洪景天は初めて明らかな痛みの表情を見せ、ガードを下げた。大場はチャンスと見て、左フックをボディに、そして右フックを顔面に繰り出した。
しかし、洪景天は驚異的な反射神経で顔面のパンチを避け、逆にカウンターの左フックを大場の顔面に叩き込んだ。
「ぐわっ!」
大場はぐらつき、後退した。洪景天はここぞとばかりに追撃を開始した。連打が大場を追い詰める。大場はガードを固めるしかなかった。ラスト30秒、大場はクリッチに持ち込むことで、なんとか洪景天の猛攻をしのいだ。ゴングが鳴り、第3Rは洪景天が優勢で終えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第4R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第4R、大場政夫は自らを奮い立たせた。その勇士は見る者を惚れさせるカリスマ性を帯びていた。洪景天は勢いに乗り、より攻撃的になった。さりとて、大場はここで冷静さを失わなかった。桑田のノートを思い出し、【彼のリズムを分断せよ】と自分に言い聞かせた。
大場はジャブで距離を保ち、洪景天が踏み込んできたところにバックステップで避け、再びジャブを繰り出す。この動きで洪景天のリズムを乱した。洪景天は焦り、無理な距離からパンチを繰り出し始めた。
「来た!」
大場は洪景天の無理な右ストレートを避け、鋭い左フックをボディに叩き込んだ。洪景天は苦しそうに息をし、ガードを下げた。大場はチャンスと見て、右フックを顔面に繰り出したが、洪景天は必死に避けた。ゴングが鳴り、第4Rは大場が少しペースを取り戻した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第5R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第5R、大場のボディ攻撃がさらに効果を現した。洪景天の腕は明らかに重くなり、息切れの兆しが見え始めた。大場はここで勝機を見出した。大場はより積極的に前に出た。ジャブで洪景天を押さえ込み、ボディに連打を浴びせた。洪景天はガードを固めるが、大場のパンチはガードの下から鋭く突き刺さった。洪景天の顔に苦痛の色が濃くなった。
「うぐっ!」
洪景天の唇から苦しげな声が漏れた。大場はここで洪景天をロープに追い詰めた。連打が洪景天の体を打ち続ける。観客は息をのんだ。大場は右フックを顔面に繰り出したが、洪景天は必死に避け、クリンチに持ち込んだ。レフェリーに分けられたが、洪景天の体は明らかに限界に近づいていた。ゴングが鳴り、第5Rは大場が完全に主導権を握った。大場はコーナーで「もう少しだ!あと少しで倒せる!」と自らに言い聞かせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第6R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第6R、大場は勝負をかけた。開始と同時に、猛然と洪景天に襲いかかった。ジャブ、左ストレートだ。
更に左フックのコンビネーションが洪景天を追い詰める。洪景天はガードを固めるが、大場のパンチは容赦ない。
(うおおおお!)
大場の心の雄叫びと共に、右アッパーをボディに突き刺した。洪景天はガードを大きく崩し、膝から崩れ落ちた。「ダウンだ!」レフェリーがカウントを始めた。会場は静まり返った。大場はコーナーで冷静に息を整えた。桑田のノートの言葉が頭を巡る。
「倒したと思った瞬間こそが、彼が最も逆転を狙ってくるタイミングだ。」
「1....2....3....4...5...6...7…8…」
洪景天がロープによろよろと立ち上がった。彼の目は、もはや理性を失い、野獣のようにも燃え上がっていた。大場は冷静にガードを固めた。そして、予言通り、洪景天は火事場の馬鹿力で猛然と突進してきた。無防備なガードを破り、怒涛の連打を浴びせかける。大場は防御に徹するしかなかった。
しかし、洪景天のパンチは一発が顎にクリーンヒットした。
「ぐわっ!」
大場の足が宙に浮く。今度は大場がダウンした。会場は歓声に沸き返った。大場は頭がガンガンと鳴り、視界が揺れた。だが、彼はここで負けるわけにはいかない。日本のファン、桑田勲氏、そして自分自身の誇りをかけて。大場は懸命に立ち上がった。ゴングが鳴り、壮絶な打ち合いの第6Rが終了した。お互いにダウンを奪い合う、まさに死闘だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第7R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第7R、両者は息を切らしながらも、なおも打ち合いを続けた。大場は左目の上のカットが深くなり、血が流れ続けていた。洪景天も右の脇腹が紫色に腫れ上がり、明らかなダメージを受けていた。大場は桑田のノートを思い出した。
「彼の弱点は技術に長けたアウトボクサーや、精密機械のようなカウンターパンチャーだ。」
大場はここで戦術を変えた。無理な打ち合いを避け、アウトボクシングに徹した。鋭いジャブで距離を保ち、洪景天が踏み込んできたところにバックステップで避け、再びジャブを繰り出す。この動きで洪景天のリズムを乱した。洪景天は焦り、無理な距離からパンチを繰り出し始めた。大場はそれを見逃さなかった。洪景天の無理な右ストレートを避け、鋭いカウンターの左フックをボディに叩き込んだ。洪景天は苦しそうに息をし、ガードを下げた。大場はチャンスと見て、右ストレートを顔面に繰り出したが、洪景天は必死に避けた。ゴングが鳴り、第7Rは大場がペースを取り戻した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第8R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第8R、大場のボディ攻撃がさらに効果を現した。洪景天の足は明らかに重くなり、息切れの兆しが見え始めた。大場はここで勝機を見出した。大場はより積極的に前に出た。ジャブで洪景天を押さえ込み、ボディに連打を浴びせた。洪景天はガードを固めるが、大場のパンチはガードの下から鋭く突き刺さった。洪景天の顔に苦痛の色が濃くなった。
「うぐっ!」
洪景天の唇から苦しげな声が漏れた。大場はここで洪景天をロープに追い詰めた。連打が洪景天の体を打ち続ける。観客は息をのんだ。大場は左ストレートを顔面に繰り出したが、洪景天は必死に避け、クリンチに持ち込んだ。レフェリーに分けられたが、洪景天の体は明らかに限界に近づいていた。ゴングが鳴り、第8Rは大場が完全に主導権を握った。大場はコーナーで「もう少しだ!あと少しで倒せる!」と自らに言い聞かせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第9R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第9R、大場は勝負をかけた。開始と同時に、猛然と洪景天に襲いかかった。右ジャブ、左ストレートでWBA世界バンタム級チャンピオン洪景天홍경천(ホンギョンチョン)の顔面を血に染める。
そして左フックのコンビネーションが洪景天を追い詰める。洪景天はガードを固めるが、大場のパンチは容赦ない。
グュイインンッ!
大場の右アッパーをボディに突き刺した。洪景天はガードを大きく崩し、膝から崩れ落ちた。
「ダウンだ!」
レフェリーがカウントを始めた。会場は静まり返った。大場はコーナーで冷静に息を整えた。桑田のノートの言葉が頭を巡る。
「倒したと思った瞬間こそが、彼が最も逆転を狙ってくるタイミングだ。」
「1...2....3....4....5....6...7...8.....」
洪景天がロープによろよろと立ち上がった。彼の目は、もはや理性を失い、野獣のようにも燃え上がっていた。大場は冷静にガードを固めた。そして、予言通り、洪景天は火事場の馬鹿力で猛然と突進してきた。無防備なガードを破り、怒涛の連打を浴びせかける。大場は防御に徹するしかなかった。
しかし、洪景天のパンチは一発が顎にクリーンヒットした。
「ぐわっ!」
「1...2...3...4...5...」
大場の足が宙に浮く。今度は大場がダウンした。会場は歓声に沸き返った。大場は頭がガンガンと鳴り、視界が揺れた。絶対に彼はここで負けるわけにはいかない。日本のファン、桑田勲氏、そして自分自身の誇りをかけて大場は懸命に立ち上がった。ゴングが鳴り、壮絶な打ち合いの第9Rが終了した。お互いにダウンを奪い合う、まさに死闘だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第10R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第10R、両者は限界状態にあった。大場は左目の上のカットが深くなり、血が流れ続けていた。洪景天も右の脇腹が紫色に腫れ上がり、明らかなダメージを受けていた。大場は桑田のノートの一文を思い出した。
(彼の弱点は技術に長けたアウトボクサーや、精密機械のようなカウンターパンチャー。)
大場はここで戦術を変えた。無理な打ち合いを避け、アウトボクシングに徹した。鋭いジャブで距離を保ち、洪景天が踏み込んできたところにバックステップで避け、再びジャブを繰り出す。この動きで洪景天のリズムを乱した。洪景天は焦り、無理な距離からパンチを繰り出し始めた。大場はそれを見逃さなかった。洪景天の無理な右ストレートを避け、鋭いカウンターの左フックをボディに叩き込んだ。洪景天は苦しそうに息をし、ガードを下げた。大場はチャンスと見て、右ストレートを顔面に繰り出したが、洪景天は必死に避けた。ゴングが鳴り、第10Rは大場がペースを取り戻した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第11R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第11Rのゴングが鳴った瞬間、大場は決意を固めた。桑田のノートに書かれていた小さな文字が脳裏に焼き付いている。「【右ストレートパンチ解禁しても良いんだよ?】という悪魔の誘惑が脳裏によぎる。」今まで彼はボディ攻撃に徹してきたが、ここで一か八かの賭けに出ることを決意した。
「今だッ!」
大場はこれまでとは違う、鋭い踏み込みで洪景天との距離を一気に詰めた。洪景天はいつものようにジャブを出そうとしたが、その瞬間、大場の右ジャブが音速で顎を襲った。鋭い音が会場に響き渡り、洪景天の足がもつれた。
だがしかし、彼は倒れなかった。むしろ、その一撃で覚醒したかのように、目を血走らせて大場に襲いかかってきた。
「な、なんで倒れないんだッ!」
大場は内心驚愕した。洪景天のタフネスは、もはや人間のものとは思えなかった。彼は怒涛の連打で大場をロープに追い詰めた。
大場はガードを固めるが、洪景天のパンチは容赦なくガードを叩き、その衝撃は骨まで響いた。大場は意識が遠のきかけるのを必死にこらえた。ラスト10秒、大場は残された力を振り絞り、再び右ストレートをボディに叩き込んだ。洪景天は苦しげにうめいたが、それでも攻撃は止まらない。ゴングが鳴り、第11Rは洪景天の猛攻で終わった。大場はコーナーで、ふらつきながらも「まだ、まだいける…」と自分に言い聞かせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第12R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第12R、試合はさらに混沌としていった。大場の音速左ストレートが洪景天のガードを破り、左の頬をカットさせた。
今度は洪景天から血が流れ始めた。お互いに血まみれになり、リングはまるで殺人現場のようだった。洪景天は流血に怒りを燃やし、より凶暴になった。彼はもはやボクシングの技術など忘れ、本能のままに大場に襲いかかった。大場もまた、これ以上のテクニックは不要だと悟った。今やこれは、意志と魂のぶつかり合いだ。
「来い!洪景天ッ!」
大場は雄叫びを上げ、正面から洪景天と打ち合った。ジャブ、ストレート、フック、アッパーの連続コンボのありとあらゆるパンチが交差し、会場はどよめきに包まれた。一進一退の攻防が続く中、大場の左フックが洪景天のこめかみにクリーンヒットした。洪景天はよろめき、バランスを崩した。大場はここで追撃をかけようとしたが、洪景天は驚異的な粘りでクリッチに持ち込んだ。レフェリーに分けられたが、洪景天の足は明らかにふらついていた。ゴングが鳴り、第12Rは両者ともにヘロヘロになりながらも、なおも戦意を燃やしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー第13R開始ーーーーーーーーーーーーーーーー
第13R、試合は最終局面を迎えていた。大場と洪景天は、もはや自分の足で立っていることさえやっとの状態だった。しかし、彼らの目だけは、まだ闘志に燃え輝いていた。大場は桑田のノートを思い出した。
(彼と同じ土俵(激しい打ち合い)に立ってしまうと、彼の土壇場の強さが発揮されてしまう。)
それでも今やもう後には引けない。大場は決意を固め、リング中央に一歩踏み出した。
「洪景天!いい試合だった!だが、ここで終わりだッ!」
大場の声が、会場に響き渡った。洪景天もまた、日本語は分からなくとも、その気迫は理解した。彼はうなずき、最後の力を振り絞って大場に向かった。最後のラウンドが始まった。両者はガードも忘れ、ただひたすらにパンチを繰り出した。大場の右ストレートが洪景天の顎を捉え、洪景天の左フックが大場の脇腹を貫いた。お互いにダウンしかけるが、なんとか踏ん張る。これはもはやボクシングではない。命を削り合う、原始的な戦いだった。ラスト30秒、大場は残されたすべての力を右拳に込めた。彼はこれまで、桑田のアドバイスに従い、このパンチを温存してきた。今、使う時が来たと悟った。
(うおおおおおおおおッ!)
大場の魂の雄叫びと共に、左ストレートが、音速で洪景天の顎を貫くはずが首に当たってしまった。
※アマチュアボクシングでは首へのパンチは禁止されていますが、プロボクシングでは首へのパンチはOKです。
洪景天の目が見開かれ、時間が止まったかのように静止した。そして、ゆっくりと、彼の体は前に倒れ込んだ。
「ダウンだッ!」
レフェリーがカウントを始めた。会場は完全な静寂に包まれた。大場は自分の足で立っていることさえやっとで、洪景天を見つめていた。
「1....2...3...4....5....6....7…8…9.....10!」
洪景天は懸命に立ち上がろうとしたが、その体は動かなかった。レフェリーがゴングを鳴らした。試合終了だ。大場は勝利を確信したが、彼はガッツポーズをしなかった。彼はゆっくりと洪景天に近づき、彼の体を抱き起こした。そして、彼の耳元でこう囁いた。
「最高のチャンピオンだった。ありがとう。」
洪景天は弱々しく微笑み、うなずいた。大場は彼の手を握り、高く掲げた。会場は、最初はブーイングだったが、やがて大きな拍手に変わった。彼らは、自分たちのチャンピオンが負けたことを認めつつも、この壮絶な試合は終了した。大場が洪景天の手を高く掲げた瞬間、会場のブーイングは不思議な静寂へと変わった。やがて、その静寂を破るように、一人、また一人と拍手が起こり、やがて奨忠体育館全体を覆うほどの大歓声となった。彼らは、自分たちの誇りであるチャンピオンが倒されたことを認めつつも、このリング上で繰り広げられた魂のぶつかり合いに、最大限の敬意を払っていたのだ。
「レディー アンド ジェントルメン!13Rを戦い抜いた両者に、最大の拍手を!」
リングアナウンサーの声が響く。大場は洪景天を介抱し、彼のセコンドに引き渡すと、自らのセコンドの元へ戻った。彼の体はクタクタだったが、その目には勝利の光と、共に戦った相手への敬愛の念が満ちていた。
「そして、勝者…そして新…WBA世界バンタム級チャンピオンは…Masao Ohbaァア!」
アナウンサーの声が絶叫すると、大場のセコンドたちが彼を肩に担ぎ上げた。新チャンピオンの誕生だった。しかし、大場の心は複雑だった。彼は洪景天の健闘を称え、彼のファイトマネーの一部を彼の治療費に回すことを心に誓った。試合後の記者会見で、大場はこう語った。
「今日、私は一人のチャンピオンを倒しました。しかし、私の心の中では、洪景天選手は今もなおチャンピオンであり続けます。彼のタフネスと精神力は、私が今まで出会ったどの選手よりも強烈でした。彼に深く感謝します。そして、このベルトは、彼と私の両方のものです。」
大場の言葉は、韓国のメディアにも大きく報じられた。当初は「日本の挑戦者による王座奪取」という挑戦的な見出しが多かったが、大場の洪景天への敬意を示す発言を知ると、一変して「真のチャンピオンの風格」「スポーツマンシップの模範」といった賞賛の記事が溢れた。
数日後、大場はソウルの病院に入院中の洪景天を訪ねた。彼は持参したチャンピオンベルトを、洪景天の枕元にそっと置いた。
「洪景天選手、これはあなたのものです。私は、あなたを倒したことで、あなたの強さの一部を自分の中に取り込んだ気がします。このベルトは、その強さの証です。あなたが本当にのし、心から尊敬しています。」
洪景天は、ベッドの上でゆっくりと起き上がり、大場の手を握った。彼はまだ言葉を発することはできなかったが、その目には感謝の涙が光っていた。大場は、彼の肩を優しく叩き、病室を後にした。日本に帰国した大場は、国民的英雄として迎えられた。羽田空港には数千人のファンが詰めかけ、彼の凱旋を祝った。大場は、その歓声の中で、ソウルのリングで戦ったあの夜を思い出していた。ブーイングの嵐、キムチの臭い、そして、あの壮絶な打ち合い。すべてが、彼を新たなチャンピオンへと押し上げた原動力だった。
しかし、彼が最も心に残っていたのは、あのソウルの夜、洪景天と繰り広げた死闘だった。彼は、後のインタビューでこう語っている。
「ボクシングは、単に相手を倒すスポーツではありません。相手と魂を合わせ、互いの限界に挑戦し、そこから何かを学び取るものです。洪景天選手との試合は、私にそれを教えてくれました。彼がいなかったら、私は真のチャンピオンにはなれなかったでしょう。」
大場政夫と洪景天の試合は、ボクシング史に残る名勝負として語り継がれることになった。それは、単なる勝敗を超えた、二人のファイターが織りなす、魂のドラマだったのだ。そして、大場が示したスポーツマンシップは、国境を越えて多くの人々の心に深く刻まれた。真の強さとは、技術やパワーだけではなく、倒した相手に敬意を払うことのできる優しさと、自分自身の限界に挑戦し続ける勇気にあることを、彼らはそのリング上で証明したのだった。
面白かったらブクマ・評価お願いします。




