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少女は決意する。仲間をなんとしても守ろうと。


 遺跡の中をさらに進むと、徐々にひんやりと冷たい空気に包まれていった。


「……おかしいですね。何の気配も感じません」


「墓守の木偶人形でも出てくると思っていたが、何だか拍子抜けだな」


「まあまあ、無事がなによりだしさ。このまま最奥までいってさっさと終わらせましょ」


 サリーアを除く三人はその高い実力を持っているせいか、襲撃がないことに肩透かしを覚えるかの如き言葉をつぶやく。


 エリスは先頭で索敵を行いながら周囲を見渡し、歩いていく。

 相変わらず妙な違和感はあるが、それが何なのかはわからない。


(魔王は何か感じますか?)


《……いや、何も掴めぬ。むしろ魔法罠すらないことが、異常に思えてな》


(……となると、敢えてそうしている、ということも?)


《ああ。何が起きてもおかしくない、と想定しておくのが正しいだろう》


 エリスは無言で頷き、棒を握る手に力を込めた。


 

◇ ◇ ◇ ◇


 

 一行はさらに奥へと進む。

 薄暗い廊下を抜け、広間に出ると、そこには巨大な石の扉があった。


 扉には、複雑な魔法陣が刻まれている。


「ここが最深部か?」


 ハールが呟くと、アーシャが近づき、魔法陣を観察する。


「これは……かなり複雑な陣だね。解読するのに時間がかかりそう」


「私も手伝います」


 フレイがアーシャの隣に立つ。

 二人は集中して、刻まれた魔法陣を読み解いていく。


 エリスは少し離れた場所で、サリーアのすぐ隣に立ち、棒を構えたまま二人の作業を見守る。


《ふむ、この魔法陣は中々見どころのある。この複雑さからして、そこいらの魔術師とは訳が違うくらいに魔力が高かったのだろうな》


 魔王の声には、抑えきれない期待が込められていた。


「何か、わかったのか?」


 ハールが尋ねる。

 アーシャが顔を上げ、少しだけ嬉しそうに言った。


「完全ではないけど、入口の開け方はわかったよ。多分、この魔法陣に沿って魔力を通せばきっと……」


「なら、早速――」


 アーシャとフレイが、魔法陣に魔力を通していく。

 陣は光の線を描いていき、綺麗な模様となっていく。


 すると、突如魔法陣の前に、文字が浮かび上がった。


「エリスさん、これは……」


 サリーアがエリスに尋ねると、頷きながら魔王と共に文字を解読していく。


「……『守護者たちは、永遠に眠ることなく、この地を護り続ける』とあります」


「じゃあまさか、この奥に……」


 エリスの言葉に、アーシャが息を呑んだ。


「守護者……まさか、この遺跡にはまだ……」


「可能性はあります。ですが気配はまるで感じません。もしかして、長い年月の間で、魔力が霧散してしまったのかもしれませんが――」


 エリスはそう言って、皆を安心させようとしたが、誰一人として警戒心は解かない。

 危険を承知でここまで来たのだから、当然だった。


 しかし、エリスは万が一のことを考え、再び撤退を提起する。

 

「何か起きてからでは遅いです。一旦退くのを検討したほうが……」


「いいや、ここまで来たんだし、行くよ。死にそうな目にあったことなんて、今までも何度かあったし今更だい!」


 アーシャの危険を知らない言葉に、エリスは驚く。


 しかし、ハールもフレイも、何ならサリーアも、アーシャの言葉に同意している。


《エリス、諦めろ。お前の思っている以上に、この者たちは命を惜しんでいない》


(で、でもどうして……?)


《――今朝、お前に古代魔法遺跡は数えきれないほどあると説明したな?》


 魔王の言葉に、今朝のやりとりを思い出す。

 エリスは高位魔術師が遺跡に向かわず、学徒に向かわせる意図が理解できなかった。


 しかし、その意図を想定した魔王の口から説明されていく。


《学徒が古代魔法遺跡の探索に行くことで、実戦や魔法解読の経験を得させるのだろう。時には窮地に陥った時の状況判断を、時には運を味方につけながら、窮地を脱する決断力を養わせる。――何とも合理的だろう?》


(でも、わざわざ命懸けの場所でなくても……)


《――いつか、余のような強大な敵が現れた時はどうする? 生ぬるい環境で実戦を積ませても、おそらく生死を賭した実戦では役に立たないだろう。そういった意味でも遺跡調査は丁度いいのだろう。むしろ平和になった今の世だからこそ、必要なのだ》


 魔王は遠い目で、ハールを含めた三人を眺める。


《今はもう、余のいない平和な世界だ。若い人間が多少、事故死しても特に問題は起きない上、代わりはいくらでもいる。何より生き残った者こそが上に立ち、後世にその名を残すのが道理というものだ》


(…………)


《冷酷だと思うか? だが、それがこの世界の仕組みだ。生き残った者が、次の時代を担う。遺跡調査は、それを選別する場でもあるのだろう》


 選別。

 この人たちはただの学徒なのに、と言う思いが過ぎるエリスに対し、魔王は続ける。


《高位の魔術師は確かに強い。一人で遺跡の調査をこなすことも可能だろう。しかし、奴らは研究に、教育に、そして王都からの依頼もある。そんな奴らに、数え切れないほどの遺跡調査を全て任せることはできない。だからこそ――》


 魔王の声に、微かな皮肉が混じる。


《学院は、未熟な学徒たちに依頼をする。リスクを承知の上で、だ。もし成功すれば、学徒はかけがえのない経験を得る。もし失敗しても、高位の魔術師が失われるよりはマシ――ということだろう。非情だが、それが現実というものだ》


 エリスは、四人の学徒たちを見た。

 この人達は、その危険を知っていて、それでもここに立っている。


 報酬のためだけではない。何か、もっと大きなもののために。


 ハールの傷跡は、彼が何度も死線を越えてきたことを物語っている。


 アーシャの赤い髪と燃えるような瞳には、魔法への飽くなき探求心が宿っている。


 フレイの穏やかな口調の奥には、水のように冷徹な計算が感じられる。


 サリアの聡明な瞳からは、命懸けで学んできた知識の数々が溢れ出てた。


 

 皆、この遺跡調査に本気なのだ。

 自分の命を懸ける価値があると信じている。



「……本当に、この奥へと進むのですね?」


「――ああ、勿論」


 ハールの瞳が、決意の光を宿す。


 アーシャは大きく頷きながら、腕まくりをする。


 フレイは抱えていた本を荷物入れにしまい、深呼吸をする。


 サリアは薬草袋の中身を今一度確認し、自分にできることの確認を行う。



 それぞれが、どんなことが起きても全力を尽くそうという気概に溢れている。



 その心意気に、エリスは苦笑した。

 しかし、得も言われぬ高揚感が湧き上がり、その覚悟を尊重しようと微笑んだ。

 

 

「――わかりました。でしたら私も、お供しましょう」


 背中の棒を抜き取り、くるりと回転させ、構える。


 何があっても全力で守ろう。


 ――だからこそ、自分がいるのだから。


 エリスはそう、強く誓った。


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