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古代魔術師が遺した言葉

 道は次第に勾配を増し、木々の間から、石造りの何かが見え始めた。


 苔むした壁。崩れた塔。

 そして、地面からせり出すようにして建つ、巨大な門。


「これが……」


 エリスは息を呑んだ。


 遺跡は、想像以上に大きかった。

 周囲の木々よりも高い壁が、鬱蒼とした森の中に忽然と現れている。


 門の上部には、風化して判別しにくいが、何かの紋章が刻まれていた。


「ようやく到着、だな」


 緊張と期待が混ざりながら、ハールが呟く。


 アーシャとフレイも、目を輝かせて遺跡を見上げている。


 サリーアは、少し怖そうにしながらも、その目はしっかりと前を向いていた。


《なるほど……確かに、ただの遺跡ではないな》


 魔王の声に、先ほどまでの余裕とは違う、真剣な響きがあった。


《この魔力の残滓……古代の魔術師たちが、相当な力を注いでいたことがわかる》


 ハールが前に進み、大きな石の扉の前に立った。

 そして、懐からペンダントに入った極々小さな宝石を取り出す。


 それは淡い紫色に輝く、美しい石だった。


「それは……?」

 

「ん? これのことか? 学院で借りた、遺跡の封印解除の石だ」


 ハールはその石を、扉の中央にある窪みに軽く当てた。


 するとその直後、紫色の光が遺跡全体を包み込む。


 古い石が軋む音がして、扉がゆっくりと動き始め、入り口が姿を現した。

 


 エリスは、ハールの持っていた宝石を見つめていた。

 見覚えがあったからだ。


(魔王……あの石は……)


《――ああ。間違いない。シルフィアが持っていたものと同じ『魔封石』だ》


 魔王の声が、低く響く。


 魔封石――それは、魔王の力をも封じることができる希少な石だ。


 大きさはシルフィアのものよりもだいぶ小さい。


 しかし、先ほど遺跡の入り口を制御していた魔法を封印したことからも、その力の凄まじさは健在だろう。


 それが、なぜ学院に?

 なぜ、こんな遺跡の封印解除に使われている?


「どうした、エリス?」


 ハールが振り返る。エリスは首を振った。


「いえ、何でもありません。ただ……その石、とても綺麗だなと思って」


 そう言って、無理に微笑むことにした。


「綺麗なだけじゃないぞ? 本来古代魔法遺跡は魔法で封印されているため、高位魔術師がいちいちその封印を解除しなきゃならなかった。けど最近は、この石のおかげでその手間も省けたってわけさ」


「私も何度が他の遺跡に出向いたことがあって、その時も使われてたよ」


「何にせよ、高位魔術師と同等の封印の力を持つ石ですから、貴重なものなのでしょうね」

 

 三人はそれぞれ『魔封石』に関する情報を述べていく。

 しかし、その名を知るものは一人としていなかった。



◇ ◇ ◇ ◇

 


「中は暗いから、気をつけて」


 アーシャが掌に小さな火の玉を生み出し、灯りとする。

 フレイも同じように、光の球を浮かべて周囲を照らした。


 エリスは相変わらず先頭を歩きながら、第六感を研ぎ澄ましながら索敵を行い始める。


 いつでも戦闘に入れるように、棒を構えたまま。


 すると、何か壁に描かれているのを認識した。


「あれ? これって……」


 エリスは絵のような、文字のような何かを指でなぞり始める。


 すると、ハールが突然大きな声を上げ、目を見開いた。


「お……おおお! こ、これは!!」


「なになに!? ハールもしかして読めるの!?」


 アーシャは興奮しながら尋ねる。

 しかし、ハールは急に真顔になった。


「…………いや、読めん」


「この馬鹿! 期待させるんじゃないよ!!」


「これは……古代文字でしょうか? 絵のように見えますが、おそらく何らかの法則があるように見えます」


 サリーアが描かれているものの全体を見回し、ところどころに同様の模様が一定の間隔で続いているのを発見する。


 しかし、その法則がつかめないようで歯噛みしながら項垂れてしまう。


 エリスは指で絵をなぞりながら、心の中で尋ねた。


(魔王)


《ああ、わかっている。読んでやるから余の言葉を復唱しろ》


 そして、魔王はゆっくりと解読を始め、エリスは後に続いた。


「『我らは、この地に永遠の栄光を刻む』」


 その言葉に、エリスを除いた三人が驚きの声を上げた。


「えっ!? エリス、読めるの!?」


「し、信じられん……」


「近しい言語体系のようなものも想像つかないですし、何より法則も全く掴めないというのに……」


 そのあまりにも驚かれた反応に、逆にエリスが狼狽してしまう。


「え、ええ……ちょっとだけですが、読めます。ええと、『時の流れが全てを変えようとも、我らの叡智は決して朽ちることなく、未来の者たちに語り継がれるであろう』とありますね」


「……何かの記録を残すための場所ってことかな?」


「おい! この先にも色々描かれてるぞ! エリス、読めるか?」


 エリスは魔王を引き連れ、壁面に描かれた文字を眺めていく。


《……あまりにも簡単に解読すると怪しまれるリスクは上がるが……それでも読むのか?》


(ええ、怪しまれないよう魔王の解読したものを辿々しく喋るようにしますので)


《……お前もそういった演技をするようになったのだな》


(ふふ、魔王に影響されたんですよ、きっと)


 エリスは微笑みながら、魔王に解読を促した。


「『我らは――と手を結び、共に新たな叡智を築いた』『――たちは、我らに新たな視点をもたらした。魔力の本質、そして世界の成り立ちについて』」


「……肝心な部分がよくわからないですね」


「へえ……けど魔術師にそうまで言わせる存在か。そういえばアルカディアはかつて独立した国で、魔法によってその力を誇示していたと聞くな」


「つまり、別の国と友好関係を結んだことが書かれているのかな? 今のアルカディアができる前身の様子?」


 魔法理論についての記載も描かれていた。


「『魔法とは現象を引き起こすものであるのが一般的だが、かつては理を再び――する行為であったことが判明』『もしこの理論が完全な形で復元できれば、魔法の常識が根底から覆される』」


「もう! 肝心なところが読めなきゃしょうがないのに!」


「落ち着け。エリスに愚痴っても仕方ない」


 アーシャの地団駄を踏む様子に、ハールが宥める。

 そのやり取りにエリスは苦笑しながら、次の壁画を読んでいく。




 そこには、魔法が使えない者に関する記載もあった。


 エリスが欲しかった情報であり、魔王が読んでいくのを固唾を飲んで見守り始める。


 しかし、そこに書かれていたのはエリスにとっては目を逸らしたくなる内容だった。

 

「『我らの世界には、全ての者に魔力が宿る。魔力なき者は、我らの世界の住人ではない』」


 魔力がない者は存在し得ない。

 自分はかつて勇者だったから、特異体質だから、魔力がないのだろうか。


 そう思ったエリスは、肩を落としながら目を伏せてしまう。


「我ら、というのは魔術師達のことだろうか。魔力がない者は珍しいと思うが、全くいないと言うのも些か信じがたいが」


「けど、ここまではっきり書かれてるなんて、これを書いた人も結構な高慢ちきだったのかもね」


「……エリスさん、どうかしました?」


 サリーアがエリスの様子に気づいたのか、そばに近寄り顔を覗き込む。


「い、いえ……なんでもないですよ」


 われにかえったエリスは必死に作り笑いをした。


 しかし、四人はその違和感を見逃さなかった。


「……エリス、何かあるなら言ってくれよな。そりゃ俺達じゃ、お前の役に立てるかどうかはわからないけど、話すだけでも何か変わるかもしれん」


 ハールは頭を掻きながら、エリスの助けになりたいことを表明する。


「そうだよ! ただでさえ、エリスの索敵にだいぶ助けられてるんだから! さあさあ何があったんだい? お姉さんに言ってご覧?」


 軽口を叩きながらも、アーシャは真剣にエリスへ向き合うとする。


「そうですよ。仮にも私達はアルカルム学院の生徒です。力になりますよ」


 フレイは優しい眼差しでエリスを見つめ、肩を叩いた。


「もし気分が悪かったり、疲れた時は言ってくださいね。リラックスできるような温かい薬湯を用意しますから」


 サリーアが上目遣いでエリスの心配をしている。



 誰もが、エリスのことを認め、そして力になりたいと願っている。

 その想いに、エリスは感謝しながら顔を上げた。


「……実は私、魔法が使えないのです。とある高位魔術師の方に教わってもだめでした」


 エリスの告白に、四人は目を見開いた。

 嘘だろ、という表情のまま、固まっている。


 しかし、それも少々のことだった。

 驚いたまま、ハールが大きな声を上げた。


「ということは、お前の索敵は魔法由来のものじゃないってことか!? 魔法使えないことよりもそっちの方が凄いじゃねえか!?」


「エリス……あなた一体何者なの!? むしろ魔法を使えるよりもそっちの才能が欲しかったんですけど!?」


「魔法を使えない、というのは確かに珍しいですが……けどだからどうしたという話です。実戦に使えず、魔法を使うことを諦める人も多くいる世に、使えないことが特殊だとは思わないです」


「わ、私も魔法は苦手で、普段は全く使いませんもの。幸い薬草の知識があったからこの場にいることができているくらいで……だからエリスさん! 気にすることないですよ!」


 ここまでの反応をしてもらえるとは、エリスは思っていなかった。


 言葉を失いながらも、胸に温かいものが込み上がってくるのを感じたエリスは、深く礼をした。


「……ありがとうございま――」


「だあああもう!! 謝るんじゃないよ! エリスは何も悪くないし、謝られるこっちが困るってば!」

 

 肩を組みながら距離を近づけるアーシャは、エリスの頭をくしゃくしゃとかきむしる。

 そのスキンシップの荒さに困惑するが、エリスにとってはありがたかった。



 エリスが、仲間の心を一つに結びつけている。


 これは、やはりこの娘の才能なのだろう。



 魔王は深く微笑みながら、その才能の開花を歓迎し、尻尾を優雅に揺らすのであった。

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