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遺跡探索を共にする仲間


 学院の控え室に足を踏み入れると、そこには四人の学生が集まっていた。


 それぞれが異なる装備を身に着け、異なる雰囲気を纏っている。


「じゃあまず私から紹介するね。この子がエリス。私の友達で学徒ではないけれど、今回護衛として手伝ってくれるんだ」


 ミリアの紹介をにこやかに受け止めた同行者達は、それぞれの反応を見せ始めた。


 最初に前に出てきたのは、筋骨隆々とした大柄な青年だった。

 身長は一般男性よりもかなり高く、分厚い胸板は革鎧の下でもはっきりとわかる。

 

「俺はハール。前衛担当だ。よろしくな」

 

 短い言葉だが、その口調には戦士としての自負が感じられた。

 エリスは軽く頭を下げる。


《ふむ……この男、肉体強化の魔法を使うようだな》


 魔王の声が、エリスの心の中で分析を始める。


《筋肉の質感、重心の位置、そして何より――全身を巡る魔力の流れから見て、今も多少の魔力を使用しているようだ》


(――魔王から見て、かなりの実力者ですか?)


《……単純な力比べならば、かなりのものだろう。ただし、間接魔法は苦手に違いない。接近できなければ、その力を発揮することはできないと思われる。……バルドルと似たようなものだと思え》


 エリスはハールの背中に視線を向ける。

 そこには、これまで幾多の戦いを潜り抜けてきた者の、確かな誇りがあった。



 次に、赤髪の少女がエリスの前に立つ。

 鮮やかな赤色の長い髪を背中に靡かせ、意志の強そうな碧眼を持っている。


「私はアーシャ。魔法担当で火を操ることを得意としてるよ。とりあえず攻撃はお任せあれ、ってね!」

 

 同時に、青髪の青年が一歩前に出る。

 短めの髪が涼しげな印象を受け、どこか優しげな雰囲気を漂わせている。

 

「フレイです。同じく魔法を担当します。水を操る魔法が得意です。よろしくお願いします」

 

《アーシャとフレイか。属性は火と水。感じ取った魔力量だけ見てもかなり優秀で、単独での戦闘力は期待できる。ただし――》


 魔王の声に、微かな懸念が混じる。


《二人とも攻撃魔法に特化しすぎている。防御魔法の心得があるかどうか。もし敵に接近された場合、どう対処するかが鍵になるだろう》


 最後に、小さな薬草袋を抱えた物静かな少女が、おずおずと顔を上げた。

 華奢な身体に、簡素な革のエプロンを付けている。


「サ、サリーアです。薬師をしています。……怪我をしたり、体の調子が悪かった時は即効性の薬草を提供できます」


 声は小さく、自信なさげだったが、その手は薬草袋をしっかりと握りしめている。

 指先には、薬草を摘んだ跡や、薬を調合する際の小さな傷が幾つもあった。


《薬師か。戦闘能力は期待できないが、回復役としては必要不可欠だ。知識はあるようだし、根性も備わっている。ただし――》


 魔王の声が、少しだけ厳しくなる。


《非戦闘員が一人混ざっているということは、それだけ守るべき対象が増えるということ。前衛一人では幾分かバランスが悪いようにも思える》


 総評としては、戦闘員はかなりの実力者だが、バランスが悪いとのことだ。

 

 しかし、古代魔法遺跡とは、そこまで強さを求められる場所なのだろうか。

 多くの学徒が向かう調査場所であるということは、そこまで心配しなくてもいいのではないか。


 そんな疑問を呈するかのように、エリスは心の中で魔王に問いかけた。


(魔王、古代魔法遺跡というのは、どのようなものなんですか?)


《ふむ……簡単に言えば、罠の宝庫だな》


 魔王の声に、どこか楽しげな響きが混じる。


《古代の魔術師たちは自分の遺産や知識を守るために、様々な仕掛けを施した。魔法陣による攻撃罠、空間を歪める迷路、そして――侵入した者達を撃退するための守護者だ》


 エリスの表情が強張った。

 想像していた以上に、危険な場所と思えたからだ。

 

(守護者とは、魔獣のことですか?)


《いや。古代魔法遺跡に配置されているのは、獣のような生き物ではない。無機物でできた巨大な人形や、魔力で動く兵器だ。奴らは疲れを知らず、命令を忠実に実行する。しかも、遺跡全体の魔力を糧にしているから、半永久的に動き続け――》


 興奮を感じられる口ぶりに、エリスは訝しげな目で魔王を見た。

 

(……あの、単純な疑問なのですが、古代魔法遺跡についてどうしてそんなに詳しいんですか?)


 一瞬、沈黙の後、魔王が何かを思い出すように、遠くを見つめる。


《――余が魔王として君臨していた頃の話だ。ふとした興味で発見した遺跡を探索したことがある》


 魔王の声に、珍しく懐かしむような響きが混じる。

 

《内部は驚きの連続だった。床には複雑な魔法陣が刻まれ、壁には見たことのない言語で知識が記されていた。迎撃部隊も数多く配置され、余興としては中々のものであった――ククク……今思い出すだけでも血が騒ぐわ》


 魔王の声がさらに興奮したものとなり、息つく間もなくつらつらとその時の状況を並び立てていく。

 聞かなければよかったかもしれない、と若干な後悔を覚えながら、エリスは苦笑した。


《……ふん。余談はこれまでだ》


 エリスの視線に気づいた魔王は、少し照れくさそうに言う。


《話を戻す。古代魔法遺跡の危険性は、お前が想像する以上だ。しかし――だからこそ、調査する価値もある》


(……ですが、それにしても危険すぎませんか?)

 

《――ほとんどは何の変哲もない、危険のない遺跡ばかりだ。……逆に言えば、それ以外は並大抵の冒険者では命がなくなる場所しかない》


(わざわざ学徒を向かわせる意味はあるのでしょうか? それこそ、高位魔術師の方だって……) 


 魔王は一瞬、言葉を詰まらせた。

 そして、少し呆れたような声で言った。


《……お前は本当に世間知らずだな。古代魔法遺跡は、世に数え切れないほど存在する。それだけ、古くから魔法が使われていたという証明であり――高位魔術師のみでは全てを調査しきれないという証拠なのだろう》


(な、なるほど……)


 魔王と心の声で会話をしていたエリスは、背中の武器へと注がれる視線に気づいた。


「エリスさん、武器は棒なんですね」


 アーシャがエリスの背中の棒に気づき、目を輝かせる。


「はい。護身用に、少しだけ操れます」


「棒術を使うって珍しいですよね。流派とかあるんですか?」


「えっと……自己流、ですかね?」


 エリスが言葉に詰まると、魔王の心の声が響く。


《自己流とは何だ、余が直々に教えた槍術の応用だろうが――ふむ! 魔勇一心流とでも名乗ってもいいぞ!》


(あはは……)

 

 乾いた笑いと共に、エリスは魔王の提案を無視。


 その態度に魔王は何やら苦情を連呼しているようだが、エリスは苦笑しながら耳から耳へ流していった。


「その実力、後で披露してもらえると嬉しいです!」


 フレイが穏やかな声で言う。エリスは「はい、よろしければ」とだけ答えた。




◇ ◇ ◇ ◇ 




 控え室を出る際、ミリアがエリスの手を握った。

 その手は、少しだけ震えている。 


「エリス、気をつけてね。絶対に無理はしないでね」


「心配ありがとうございます。……約束します」


「行ってらっしゃい!」


 ミリアの名残惜しそうな、それでも気丈に振る舞うような元気な声を背に、一行は魔法都市の門へと向かっていく。



 そんな中、魔王の声がエリスの心の中に響いた。 



《エリス》



 その口調は、かつてのような尊大さではなく、どこか真剣なものに変わっていた。



(はい、なんでしょうか)



《もし、万が一にでも違和感を覚えたとしたら――迷わず言え》



 エリスは少し驚いた。

 魔王がこうして前もって警告することは、これまであまりなかったからだ。



《絶対に遠慮をするな。余が力になってやる》



 その言葉は何の条件もなく、ただエリスを守ると言う意志が込められている。



(……ありがとうございます)



 魔王は肩の上で、静かに尾を振っている。

 

 しかしその心の中では、微かな胸の騒めきと――この旅で起きるだろう不吉な予感が漂っていた。

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