表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑されそうになった勇者を救ったのは、彼女がかつて打ち滅ぼした魔王だった  作者: 観葉植物
更なる力を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
148/169

少女は仲間達との絆を深め、無事目的を果たした


 翌日、野営を終えた一行は、更に森の奥へと進んていった。

 おそらく今日の日没一杯まで皮の採集をすれば、各々が満足いく程度の量になると思われる。

 

 そして、今日は今までと違いエリスが一行を先導する。

 彼女の異常発達した第六感で、紋鎧獣の群れを索敵するためである。


「むっ……この道をしばらく行くと、おそらく十匹程度の子達がのんびりと休んでいるかと思われます」


「よし、足音を消しつつ近づいていこう。そして見つけ次第、即座に気絶させていく。それでいいな」


「任せて! ……にしても、エリスってばこんなすごい特技を持ってただなんて、先に聞いとけばよかったよ!」


「あはは……一応、自己紹介の時に言ったつもりではあったのですが」


 確かに自己紹介の時に「何らかの気配を察知するのが得意」とは言っていたのだが、あまりにも自然すぎたようだ。

 もっとこんなことができると自分から率先してアピールすべきだったとエリスは深く反省していた。


《お前はもっと自信を持ち、自分のことを前に押し出せ。誰よりも強いことはこの魔王である余が認めているくらいなのだぞ》


(そんなこと言いましても……勇者の頃からこうでしたし)


 勇者である頃から、エリスは己の強さを主張したことはなかった。

 周囲が自然と称賛し、自分の代弁をしてくれていたから、主張する必要がなかったのである。


《とにかくだ! 今後も共闘依頼をすることがあれば事前に詳細に主張することだ。さすれば、当初から依頼も円滑にこなせるというものだ》


(わ、わかりました……うう、自分の力を誇示しているようで少し気が引けますね)


《何を言うか。他者より優れていることなど、大いに誇示するがいい。少なくとも余ならそうするぞ》


 それは魔王という身分あってこそのものだと思いますが、と言いそうになるがエリスはグッと我慢し苦笑するだけに収めた。


 そして、今後もきっと同じように他者との共闘依頼があるはずだから、その時には魔王の言う通りにしようと誓うのであった。


 

◇ ◇ ◇ ◇


 

 足音を消しながら進んでいくと、エリスの感知したとおり紋鎧獣の群れと遭遇した。

 数も十匹程度の群れであり、まさに察知した内容が的中したといえよう。


「……エリス、やっぱお前すげえよ。ここまで的確に読めるものなんだな」


「山という独特の空間だからかもしれません。風下であり、匂いや音なんかも向こうからやってくるようなものでしたので」


「流石はエリス! もーほんとに大好……むぐっ!!」


「大きな声を出すな……! 紋鎧獣達がまた怯えて混乱するだろうが……!」


 キャリーの口元を抑えながら焦るケイオスに、仲がいいんですねと微笑むローナ。

 エリスはというと、じっと紋鎧獣を眺めながらその動きを観察している。


 警戒心も何もない、日向ぼっこをしながらのんびりとしている。

 その姿に、これから襲いかかることに対して罪悪感を覚えるのであった。


 

「よし、ちゃっちゃと始めるか。いくぞ! 二人とも!」

「はーい。 エリス、よろしくね!」

「はい、頑張ります!」

 

 ケイオスとキャリーの掛け声と共に、エリスはためらうことなく前線に飛び出した。

 棒を構えながら目標である複数の紋鎧獣の元へと躍り込むと、当の魔獣は急に現れた存在に後ずさりをし始めた。


 しかし、攻撃準備をしようと丸まろうとした瞬間、エリスは頭部と脚部を棒で薙ぎ払っていき、命までは奪わずとも一瞬にしてその意識を奪う。


「ごめんなさいね。後で美味しい葉っぱを持ってきますからどうか大人しくしていてください」


 遠くではケイオスとキャリーが紋鎧獣を前に、エリスの戦闘を横目で見ていた。

 あまりにもあっさりと戦闘を終えた姿に、絶賛するしかなかった。

 

「す、すごい……あれがエリスの本当の実力……?」

 

 キャリーが短剣の動きを止め、見惚れるように呟く。


「ははっ! めちゃくちゃ強いじゃねえかエリス! ……というか、俺よりも強いな? ……ちくしょう負けねえぞ!」

 

 ケイオスは大笑いしながら、エリスに負けじと紋鎧獣と対峙していった。

 

 二人は手助けが必要には見えないくらいに余裕が見えているため、察したエリスは自分が倒した足元の紋鎧獣の皮を剥ぎ取る作業に取り掛かるのであった。


「エリスさん、もはや一人で何でもできますね……!」


 目標を気絶させ、皮を剥ぎ取るまでの作業の滑らかさに、側に駆けつけたローナは舌を巻きながら絶賛する。


「そんなことありませんよ。未だ皮を剥ぎ取る際に肌を傷つけてしまうことがありますので、まだまだローナさんには教えてもらいますね!」


「勿論。遠慮なく、どしどし聞いてくださいな!」


 

◇ ◇ ◇ ◇


 

 戦いが終わり、気絶した紋鎧獣をそれぞれ大量の藁や葉のついた枝で覆っていく作業の中、ケイオスは満面の笑みでエリスに近づいた。


「ありがとうよ、エリス。おかげですげえ楽に群れを処理できた。ここまで強いとは思わなかった」


「ケイオスさん……こちらこそ、ありがとうございました。お陰様で目的の素材を充分量採取することができました」


 エリスはすでに、自分の道具袋が剥ぎ取った皮でパンパンになり、ローナから貰った紐で皮を大量に結んだものを背中に背負い込んでいる。


 これだけの量があれば、きっと鍛冶屋も大満足で精錬に取り掛かってくれるはずだ。



 


 そしてその日の午後、一行は最後の紋鎧獣の群れを発見した。

 数は五匹ほどで、エリスの索敵とケイオス、キャリーの連携で、あっという間に片付けられた。


「これで最後だな。思ったより早く終わって何よりだ」


 ケイオスが満足げに頷く。

 キャリーも額の汗を拭いながら、爽やかな笑顔を見せた。


「エリスがいてくれたおかげだよ! 最初に会った時は『棒術を嗜んでいます』なんて控えめに言ってたのに、全然そんなレベルの強さじゃなかったじゃん!」


「す、すみません……その、自分から『強いです』って言うのも何だか気が引けてしまって」


「でも、むしろあんなに強いのに謙虚なエリスさんは、すごく素敵だと思いますよ。私も強くなった暁には、そうありたいものです」


 ローナの賛辞に、エリスは頬を赤らめて俯いた。

 そんな大したことはしていない、と内心思ったが、それを口に出せば全員から「そんなことない!」と問い詰められるに違いない。


 だがらこそエリスは、ただまっすぐに賛辞を受け止めた。

 


「さて、そろそろ下山するか。日が暮れる前に街に着きたいからな」


 ケイオスの言葉に全員が頷き、一行は山道を下り始めた。

 行きとは違い、帰り道は皆の表情が明るい。


 目的を達成した達成感と、互いへの信頼が空気を和らげていた。

 


◇ ◇ ◇ ◇

 


 街に戻ると、夕日が石畳を赤く染めていた。

 ケイオスたちはまず酒場へ向かい、報酬の受け取りと今後の打ち合わせを行うという。


「エリス、お前はこれからどうするんだ?」


 ケイオスが尋ねる。

 エリスは背中に背負った皮を眺め、微笑んだ。


「とりあえず、まずは鍛冶屋に行ってこの皮を届けます。そして……武器の精錬を行ったのち、次の街へと向かおうかと」


「そうか。またどこかで会うかもしれないな。その時は、ぜひご馳走させてくれよ!」


「……はい! 機会がありましたら、ぜひ!」


 キャリーがエリスのことをギュッと抱きしめ、背中をバンバンと叩きながら名残惜しそうに言う。


「エリス、すごく楽しかった! また一緒に冒険しようね! 絶対だよ!」


「ええ、必ず。キャリーさんも、どうかお元気で」


 解放されたエリスにローナも肩へと手を置いた。


「エリスさん。短い間でしたが、本当にありがとうございました。あなたから数多くのことを学ばせてもらいました。……これからも、どうかお気をつけて」


「ローナさん……ありがとうございます。ローナさんの教えがなかったら、ここまで素材を集められなかったと思います」



 

 そして最後に、三人はエリスと固い握手を交わし、別れを告げて酒場への道へと歩き出した。



 

 ケイオスたちの背中が、夕日に照らされながら遠ざかっていく。



 また一つ、他者との共闘で学ぶことができたことを、エリスは大切に胸にしまうのであった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ