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処刑されそうになった勇者を救ったのは、彼女がかつて打ち滅ぼした魔王だった  作者: 観葉植物
更なる力を求めて

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突然の強襲に、少女は本当の強さを見せつける


 森の奥深くに進み、開けた場所である小さな渓谷の入口で、一行は作業を続けていた。

 これまでに採集した紋鎧獣の皮は、かなりの量になっていた。


 そんな中、エリスはローナから手ほどきを受けた皮剥ぎの技術を反復しながら、その手際をさらに磨いていた。

 

「エリスさん、もう完璧ですよ。私が教えることなんて、もう何もないんじゃないかな」


 ローナが感心したように言うと、エリスは照れくさそうに微笑んだ。


「いえ、まだまだです。ローナさんの技術には遠く及びませんから」


「もう、そうやって謙遜しちゃダメですよ。でも、その真面目なところがエリスさんの良いところなのかも」



「おーい、二人とも! そっちはどうだい?」


 谷間の向こう側で紋鎧獣を探していたケイオスが声をかける。キャリーはその傍らで、軽快に短剣を振りながら謎の踊りまで披露し始めていた。


「順調です! エリスさん、もう熟練者のような手捌きになってるかもです!」


 ローナの陽気な声が谷間に響き渡る。

 その朗らかな雰囲気に、エリスも思わず笑みをこぼした。


 ――こんな風に皆で協力して作業するのは、本当に楽しい。

 普段は一人(魔王含めれば二人ではあるが)で旅をしているせか、新鮮な気分を味わうたびにそう思うのだ。

 

 できればまだまだ、このような時間が過ぎ去っていかないでほしい。


 ――そう思っていた直後、エリスの第六感が鋭く何かを捉え始めた。

 

《エリス》


(はい。渓谷の空気が変わりました。これは一体……》


 魔王の声に冷静になりながら、エリスに周囲を見回す。

 さっきまで聞こえていた小鳥のさえずりが、ぱったりと止んでいる。

 風の音さえも、不気味な静けさに変わっていた。


 そして、急にエリスの身体中に鳥肌が立ち、背筋に冷たいものが走った。

 その途端、すぐに仲間達へ共有を行なった。


「皆さん、気をつけて! この渓谷、何かが――」


 エリスの叫びと同時に、渓谷の四方八方から異様な音が聞こえ始めた。

 ゴロゴロという地響きのような音が、次第に大きくなっていく。


 そして次の瞬間、渓谷のあらゆる場所から紋鎧獣が姿を現した。

 

 数は数十――いや、それ以上。


 目に見える範囲だけでその程度は軽く数えられるほどの大群であるため、実際に数えればその倍はいるだろう。

 それらが一斉にこちらを向き、低い唸り声を上げている。


「な、なんだ!?」


 エリスは息を呑んだ。

 紋鎧獣たちの様子が明らかにおかしい。先ほど遭遇した時のように警戒している様子ではなく、明確な敵意と怒りを向けている。

 何かに興奮しているかのようだった。


「なぜ……どうしてこんなに!」


 ケイオスが歯噛みするが、理由はわからない。

 ただ一つだけ確かなのは、このままでは全員が襲われるということだ。


 キャリーとケイオスは背中合わせになり、武器を構える。


「しゃあねえ、やるしかないな! キャリー、頼むぞ!」


「任せて! エリス、ローナ、後ろに下がってて!」


 しかし、キャリーの指示を無視するように、エリスは咄嗟に前に棒を構え、戦闘体制に入る。

 その姿を見てケイオスが注意を投げかけた。


「エリス! お前は後退してローナを護ってろ!」


「で、ですが……」


「ケイオスの言う通りよ! 私達がなんとかするから!」


 しかし、数の前にはケイオスとキャリーの奮戦も空しく、紋鎧獣の群れは少しずつ包囲網を狭めてくる。

 威力が強い回転攻撃を受けることはできず、避けた後に攻撃を仕掛けることしかできないため、当然であった。


 そしてキャリーが前方の数匹に意識を向けている時。

 死角からキャリーの隙をついて、襲撃しようと身体を丸めたのをエリスは気づいたのだ。


「キャリーさん、後ろ!」


 エリスは声を上げ、そして同時にその身体が風のように動いた。

 疾風の如く速度で瞬発的に動き、いつの間にかキャリーの背後に移動して、手にした棒で一閃する。


「ピャゥッ!!」

 

 パシッ! という乾いた音と共に、紋鎧獣の関節部分を見事に打ち抜いた。

 可愛らしい悲鳴をあげた紋鎧獣は、そのまま横になりながら悶え、そのまま気絶してしまった。


「……え?」


 キャリーが目を見開く。

 エリスの速度、そして攻撃への移行の滑らかさ、そしてその強さがあまりにも洗練されていたからだ。


「エ、エリス? 今のは……?」


「すみません、説明は後で! 今はまず、この状況をどうにかしましょう!」


 エリスの口調は相変わらず丁寧だが、戦士の迫力を伴っていた。

 棒を軽く構え、周囲の紋鎧獣の動きを冷静に見つめる。


「左から三匹、同時に来ますよ、ケイオスさん!」


「お、おう!」


 エリスの指示通り、左側から三匹の紋鎧獣が襲いかかろうと体を丸めようとする。

 ケイオスは大きく斧を振り回し、攻撃を未然に防ぎながら見事にまとめて撃退した。


「キャリーさん! 右の後方から、小さいのが足元狙いです!」


「う、うん!」


 キャリーもエリスの指示に素早く反応し、小さな紋鎧獣に狙われた足元を腕盾で守る。

 その小ささから威力は大したことはないが、守らなければ行動不能にはされていたかもしれない。

 キャリーは冷や汗をかきながら、攻撃してきた紋鎧獣を叩き、昏倒させた。




 エリス自身はというと、猪突猛進のように群れの中を真っ直ぐ駆け抜けていく。

 一見無造作に見えるその動きは、狙いがあってのもの。


「ピィィ!?」


 集団で固まっていた紋鎧獣達の中に、颯爽と飛び込んできたエリスは敵意の全てを向けられ始めた。


 だがそれが、エリスの狙いだったのだ。


 群れのほとんどをエリスが引き付け、ケイオスとキャリーはそれ以外の少数を全て叩きのめし、ローナが即座に剥いでいく。

 仲間全員が無事でいて、かつ確実に敵の数を減らすことが一番効率的であり、安全だったから。


「ピィィィッ!」

 

 群れのど真ん中にやってきたエリスに対し、紋鎧獣達は笛のような威嚇声をあげ、一斉に丸まり始めた。

 総突撃を仕掛けるつもりなのだろう。


 そんな敵の思惑を予期したエリスは数秒目を閉じ、そして周囲にいる紋鎧獣の座標を脳内に描き始めた。

 それぞれの紋鎧獣の位置と自分の位置を結びつけると、それがエリスの行動に繋がった。


(この子達の性質はただ外敵へと真っ直ぐに突進してくるだけ。――ならば、その直線上にいなければ回避できるということ)


 全ての紋鎧獣の突進のタイミング、そして速度を先読みするため、エリスの目つきが変わった。


「え、エリス……? お前、一体何を……」

 

 その全てを解析する視線は、ケイオスをはじめとした仲間に気迫として伝わっていく。


「……キュッ!!」


 一匹の紋鎧獣が鳴き声を上げ、我先にとエリスに突進を仕掛けた。しかしエリスは、ただ横への移動だけで回避する。

 攻撃を回避された紋鎧獣は、エリスの背後にいた同士を巻き込みながら大岩に衝突し、そしてぐったりと横に倒れてしまった。


「ピャウウウウッ!」


 一匹目の攻撃が失敗に終わったことに怒りを見せているのか。

 おそらく群れの主である大型の紋鎧獣は甲高い鳴き声を発し、群全体に指示を行き渡らせ始めた。


 そして一斉に丸まり始め、次々とエリスへと突進していく数十匹の、大中小様々な大きさの紋鎧獣達。

 しかし、その攻撃はただ興奮しながらの愚直なまでに真っ直ぐな転がりながらの突進でしかない。


 エリスは全ての位置からの、斜線上の攻撃でかない突進を難なく回避した。

 勢いが殺せないまま紋鎧獣達の一部は仲間同士衝突し合い、その衝撃に意識を失っていく。


 その中でも衝突の威力が軽く、再びエリスの攻撃を仕掛けようとする紋鎧獣はすかさず腹部に、側頭部に、そして脚の関節に棒が突き出され、動きを封じ込まれた。


 そして、最後に残ったのは群れの主である大型の紋鎧獣であった。


「ピ、ピギィ……ッ!?」


「ごめんなさいね。少しだけ、大人しくしていてくださいな」

 

 狼狽する群れの主の前に、エリスは瞬時に移動した。

 そして、ドスッ! という鈍い音を立てた鋭い急所突きにより、あっけなくその意識を飛ばし、巨体が地面に横たわった。



 

◇ ◇ ◇ ◇


 

 

 紋鎧獣が全て倒され、あれほど騒がしかった渓谷がいつの間にか静けさに覆われている。


 「ふう、終わりました」

 

 その中心には、呑気なまでに一息つく少女。

 そんな少女のそばに、いつの間にか仲間達が接近していた。


「エリスさん、お見事でした。あのような強さをお持ちだったとは……」

 

 想定していなかったエリスの余りの強さに、ローナは興奮しながらも冷静になるよう努めている。

 その言葉には、尊敬と称賛が滲み出ていた。

  

 エリスは一瞬息を整えると、申し訳なさそうに告げる。


「……ごめんなさい。ある程度戦うことはできるのですが、紋鎧獣が棒術の効かない相手かを判断するまで時間がかかってしまって、結局言い出せませんでした。……すみません」


 嘘をついていたと思われても仕方ない。

 言わなかったせいで窮地に陥りそうになったのだから、今回ばかりは自分の失態だ。

 そう思うエリスは肩を落とし、顔を合わせられない状態になってしまう。


 しかし、そんな小さくなった肩が気合を入れるようにバン! と叩かれた。


「なーにを謝ってるんだ! むしろあんだけ強いおかげで俺たちは助かったんだ! 素直に褒められろよな!」


「そうだよ! 水臭いんだから! もっと自分にできることをアピールして良いんだからね! めっちゃ頼っちゃうからさ!」

 

「ふ、二人とも落ち着いて……でもエリスさんがあのような強さを持っていること、本当に心強いんですからね」


 三人はそれぞれの想いを正直にエリスに投げつけてくる。

 しかし、その内容はどれも怒りや軽蔑といった負の感情を含まない、前向きなものだった。


「皆さん……ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げながら、三人に礼をするエリス。


 そして、次からはしっかりと自分にできることを前に押し出そうと誓うのであった。


 

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