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処刑されそうになった勇者を救ったのは、彼女がかつて打ち滅ぼした魔王だった  作者: 観葉植物
更なる力を求めて

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少女は対魔法武器を求めて、鉱石の街へと辿り着く


 鉱石の街アインヘルツの鍛冶街は、朝早くから活気に満ちていた。

 各所から聞こえる槌の音がリズムを奏で、煤けた空気が街全体を包み込んでいる。


 エリスは肩に乗った黒猫の魔王と共に、街一番の大きさを誇る鍛冶屋の前に立っていた。


「ここが、バルドルさんのおっしゃっていたお店ですかね」


《ふむ、見るからに多くの設備を携えていそうである。……確かめてみるぞ》

 

 エリスが手にしている黒樫の棒を、魔封石によって鍛え上げるためにここまで来たのだ。

 その目的が果たして叶うのか、確かめてみるのであった。




「ごめんください、ご相談があって参りました」


 鍛冶屋に入り、店主であるがっしりとした体格の男に挨拶をする。

 男は尋ねてきたのが華奢な村娘であることに目を丸くし、真っ黒に煤けたエプロンを拭いながら大きく息を吐いて応対する。

 

「ん? 珍しい客だな。お嬢ちゃんみたいな娘さんは中々に見ないが……で、何の用だ? 武器を買いに来たのか?」


「いいえ、実は精錬を行なって欲しいものがございまして……」


 エリスは背中の黒樫の棒を丁寧に取り外し、店主の前に差し出した。

 それを受け取り、店主じっくりと観察する。


「ほう、これは……黒樫とは、なかなか良い素材を使っているな。それもかなり樹齢の古いものを選んでいて、妙な力を感じるよ。よく気の付く職人に作ってもらったんだろう」


「はい。その村の腕一番の鍛冶職人の方が、特別に作ってくださいました」


「で、これをどうしたいんだ?」


「魔法への抵抗力を強めたいんです。できれば……かなり強力な魔法相手にも」


「魔法耐性か? 何だって、そんな物騒なものを……」


「え、えっと……ちょっと旅をしている最中に、魔法を使う魔獣に襲われることがあって、その対策です」

 

 エリスは苦し紛れのでっちあげをするが、真実味はあまりないように見えてしまう。

 魔王はその姿を見て「嘘が下手だな」と呆れるしかなかった。


 鍛冶屋の店主は訝しげにエリスを見たが、深く追求する必要もないと判断したのか、話を続けた。

 

「……まあいいけどよ。ただ特殊な加工になるから、材料からして高くつくぞ。特に魔法に強い物質である『魔導銀』や『精霊木』は貴重かつ高価なものだから、貴族しか持ってないと言われるくらいだ」


「そんな物もあるのですね……勉強になります」


「見たところ、この黒樫も妙な魔力を持っているようだし、一般的な武器よりも耐性はあるように見えるぜ」


《ほう、さすがは鍛冶の街の職人。冷静に見立てている》


 魔王が心中で店主を称賛する。

 客に寄り添うのも大事だが、現状を理解した上での選択肢を提示するのも、立派な職人の仕事だ。

 

 その話を聞いたエリスは、荷物袋からとある物を取り出した。

 それは、怪しげに煌めく石――魔封石であった。

 

「この素材、使えますか?」


「ん? ……まさかこいつは……!?」


 男が魔封石を確認すると、その表情が一瞬で変わった。

 淡い紫色を放つその石に、魅了されているかのように目を見開き始めた。


「これは……まさか『魔封石』か!? こんな貴重なものをお嬢ちゃん、一体どこで……」


「えっと、旅の途中で貰い受けました」


 エリスは曖昧に答えた。

 フィールからもらった魔封石の欠片、そしてバルドルから譲り受けた魔封石の大きな塊。

 バルドルが紹介してくれたように、きっと魔法に対して強力な対抗策へと変貌するに違いないと思い差し出したのだ。


「間違いねえ! これを棒に埋め込めば、強力な武器になる!」


「本当ですか!?」


「ああ、本当だとも! ……ただし」

 

 店主は真剣な表情になりながら、不敵な笑みを浮かべた。


「魔封石を直接埋め込む方法は限られているんだ。他の鉱石と同じようにやると、その性質ゆえかすぐに剥がれ落ちちまう。定着させるには、特殊な吸着材が必要になる」


「吸着材……ですか?」


「ああ。特殊な魔獣の皮を溶かしたものなら、魔封石をしっかりと固定できる。それに、その皮も魔法に強いからお嬢ちゃんの目的から見ても一石二鳥だろう」


「ちなみにその魔獣は、どこにいるんですか?」


「遠くに見えるあの山に、最近やたら増えていることを噂で聞いたことがある。探せばすぐに見つかるはずだが、物理にも魔法にも強い頑丈な魔獣なため、狩猟するためにはかなりの実力が必要だ。――お嬢ちゃんは旅人って言ってたよな?」


「はい。そこらに出没する魔獣程度なら敵ではありません」


 見た目は普通の村娘でしかないエリスが豪語しても説得力がない。

 と思いきや、鍛冶屋の店主は妙に納得したような表情を浮かべた。


「ふむ、この棒を操れるほどの技術があるなら、そうなんだろうな。今まで客として来訪してきた旅人の中でも、かなりの腕前と見える」


《……やはり見どころのある店主であるな。エリスの強さを、肌で感じ取ったか》


「よし、気に入った!!」


 気合いを入れた大声をあげ、店主はエリスの肩をバン!と力強く叩く。

 

「魔封石の加工なんて機会、これを逃しちゃおそらく今後もないだろうからな! 無料で受けてやる!」


「えっ、いいんですか?」


「勿論よ! だから他の店に浮気しないでくれよ? 魔封石を武器に使うだなんて贅沢する人間なんて、この広い世界の中でもきっとお嬢ちゃんくらいしかいないだろうからな!」


 武者震いをしながら魔封石の加工を待ち詫びている店主に苦笑しながらも、エリスは微笑みながら頷いた。


「とりあえず街の酒場に、魔獣の皮の採集依頼が出ているはずだ。魔獣の名前は紋鎧獣もんがいじゅうと言われてるので、その名前の依頼をくまなく探せば、自ずと見つかるはずだぞ」


「紋鎧獣、ですね……聞いたことない魔獣のお名前です」


「ここいらにしか生息しない魔獣だからな。かつて魔王が住んでいた城からそんな離れていないのも影響しているのかも知れん。手強い奴らだが、皮はあればあるほど加工し易くなるから、できるだけ多く採取してきてほしい」


 エリスはしばらく考えた後、決意したように頷いた。


「わかりました。その依頼に参加してみます」


「よし、お嬢ちゃんが行っている間に俺の方では下準備をしておいてやる……頑張ってこいよ!!」


「ありがとうございます。必ず、良い皮を持って帰ります」



◇ ◇ ◇ ◇



 

 鍛冶屋を出たエリスは、早速街の中心部にある酒場へ向かった。

 酒場は昼間から賑わっており、冒険者たちの活気ある話し声が聞こえてくる。


「すみません、とある紋鎧獣という魔獣の皮の採取依頼に参加したいのですが、どちらに掲載されていますか」


 エリスが声をかけると、酒場の主人がにこやかに答えた。


「おお、ちょうど良かった! 今三人組が同じ依頼を受けようとしていて、人数が足りずに困っていたところだったんだよ。あの奥のテーブルにいる奴らに声をかけてみるといい」


 すでにテーブルには、三人の冒険者が座っていた。


(久しぶりの共闘依頼ですね。……上手くいくよう、頑張ります!)


《ふん、いつものように、余が依頼者の見極めくらいはしてやる。……決して無理だけはするなよ》


(はい、ありがとうございます魔王)


 そう言ってエリスはテーブルに歩いていく。



 その表情は、新たなる力を求める一人の戦士としての、勇敢な決意が浮かび上がっているようにも見えた。

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