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勇者 VS 勇者の剣を求める者

 魔王は目の前の魔族の少女に呆れ果てていた。


 まさか自分の配下が、的外れもいいところな方法で自分の復活を目論んでいるとは。


 呆れて言葉も出ないとはこのことなのだろう。


 そんな魔王をよそに、エリスは必死にパメラを説得する。


「パメラさん、お願いだからやめて下さい。万が一魔王が復活したとしても、また戦いが起きるだけです」


「戦い? ふふ、戦いこそがこの世界の真実よ! 戦いによって強きものが生き、弱きものは死ぬ。それこそが自然の摂理!」


《――随分と自信ありげな言葉を吐くことよ》


(でも、自信があることはいいことだと思いますよ。今回、それがちょっと歪な方向に行ってしまってますが)


 とりつく島もないパメラの態度に思う所はあるが、魔王とエリスは心の中で呑気に会話しながら様子を窺う。


 眼前の敵を、まるで脅威に思っていない。

 余裕としか思えない態度であった。


「だから、弱き者は排除しなくちゃね。今からちょっとしたお友達を呼んであげる!」


 エリス達の態度を知らぬまま、パメラは水晶玉を高く掲げた。


 周囲の空気が震え始め、水晶玉から不気味な光が放出されていく。

 やがて、その光は実体化し、八頭の魔獣の幻影となって現れた。


 それらは唸り声を上げながら、エリスとミリアを睨んでいる。


「わわっ!? な、なにこれ!?」


 ミリアが驚きの声を上げ、その様子にパメラが高笑いする。


「幻影だから本物ほど強くはないけど、立派な魔獣よ。この数に襲われて、耐え切れるかしら!」


「ッ! エリス、下がってて! 私がなんとかする!」

 

 ミリアは素手のまま構え、即座に戦闘態勢に入った。

 彼女はメイド服の裾をたくし上げ、幻影に向かって飛びかかった。


「せいやっ!」


 鋭い横蹴りが一頭の幻影に放たれるが、その動きはあまりにも速く、ミリアの攻撃はかわされた。


 なら今度は、と飛び蹴りを行い、着地の隙を消すように、身体を屈めて勢いをつけた回し蹴りを放つ。


 しかし、一向に当たらずミリアに焦りが生じる。


「くっ……動きが速い!」


 ミリアは必死に幻影を追いかけるが、逆に翻弄され、息を切らし始めていた。


「ミリアさん、落ち着いて。動きをよく見て、敵の攻撃を捌いてください」


 エリスが冷静な声をかける。

 そして、立てかけてあったモップの柄を軽く構えた。


「グオオオオッ!」


 突進してきた魔獣をモップの毛先で突き、抑えながら受け流す。

 そして背後を取り、柄の部分で強烈な痛打を行った。


 幻影は痙攣を起こし、そのまま動かなくなった。


「なっ!? ……ふん、たまたまに決まってる! ほら、どんどん行きな!」


 パメラは目の前の状況に目を疑うが、それでも自信は消えないままだ。

 残った魔獣がエリスに次々と襲いかかっていく。


「――この程度では、私を止められませんよ」

  

 今のエリスにとっては、もはや魔獣など敵ではなかった。

 流れるように攻撃を避け、柄の先で幻影の急所を正確に突き、その動きを封じていく。


 エリスの動きは、まるで舞を舞っているかのようだった。


 幻影の爪による攻撃を紙一重で回避し、同士討ちを誘導させながら、反撃が確実にできるよう回避していき、そして、撃つ。

 

 メイド服の裾が翻り、一糸乱れぬ動作で幻影たちを翻弄していった。


(な、なんなのよ、この娘……!? この動き、普通のメイドじゃない)


 パメラが目を見開いたまま、動揺の色を隠せないでいる。

 

 そして魔獣に取り囲まれていたエリスとミリアだったが、いつの間にか形勢が逆転し、残り一匹がエリスによって押さえつけられていた。

 

「ミリアさん、今です!」


 エリスの合図と同時に、ミリアが動いた。

 エリスが柄で幻影の動きを封じた隙に、ミリアの渾身の踵落が、全力で叩き込まれる。


「――せぇいっ!」

 

 踵が幻影にめりこみ、幻影が消えていく。

 召喚された幻影は、これで最後だった。


 パメラが歯ぎしりするが、その顔にはまだ余裕が残っている。


「ふふ……なかなかやるじゃない。でも、まだまだこの程度じゃ止められないわよ?」


 パメラが水晶玉を再び輝かせ、さらに多くの幻影を召喚し始める。

 

 しかし、エリスの表情には慌てた様子はなかった。


《弱き存在の数を増やすだけ、か。徒党を組むのは悪くないが――》


 魔王はエリスを眺め、微笑んだ。

 ――この程度、造作もないだろう? といいだけな表情だった。


 エリスに言葉が届いたのか、その顔に不敵な笑みが浮かび上がった。


「グルルルルルッ……!!」

「ギャウウッ!グアアアアッ!!」


 涎を垂らしながら、幻獣はエリスに飛びかかっていく。


 しかしエリスは相変わらず、疲労を感じさせない水の流れのような動きで、ただ幻影達の攻撃をかわし、反撃し、そして制圧していく。

 

 東棟は、夜中とは思えないほどの騒ぎとなっていた。

 こうもなれば、騒ぎに対して確かめにくる者も出てくるに決まっていた。


「な、何事だ!?」

「どうしたどうした!? 何があったんだい!!」

 

 焦りながら駆けつけてきたのは、オズワルド執事とアーサー領主であった。


 それに気づいたパメラと魔獣は、視線を二人に移し始めた。

 

(ッ! 魔獣の目標が変わると厄介ですね。――ならば!)

 

 エリスは深く息を吸い込み、柄を高く掲げて構えた。

 そして、大声で宣言したのである。


「――あなた達の相手は、この私です!」


 透き通るような声。

 それでいて、強き魂が具現化したような威圧感。


 それらは目に見えない闘気となり、魔獣の身体を貫いていった。

 

 そして、闘気に当てられた幻影たちの動きが一斉に止まった。

 エリスの放つ気配に圧倒され、動けなくなってしまったのだ。


「な……なにが起きたの!?」


「す、すごい……!! エリス、さっすがあ!!」


 歓喜の声を上げながら、ミリアは動けなくなった魔獣にトドメをさしていく。


 魔王は想定以上に強くなっているエリスに、誇らしい気分であった。

 

《強者の威圧を感知すれば、こうもなろう》

 

 パメラが慌てふためき、ミリアはエリスの勇姿に興奮しながら騒いでいる。

 


 場の異様な空気と、動けないままトドメをさされていく幻影たち。

 そして、常人でもわかるくらいの鋭い闘気を放つエリスの姿に、オズワルドは完全に言葉を失った。


「な、なんだこの気配は……エリス様、あなたは一体……」


 オズワルドの顔には明らかな驚愕の色が浮かんでいる。 

 

「なんだ今のは!!!!」


 一方、アーサーはオズワルドとは対照的に、目を輝かせて興奮していた。

  

「すごい! あの幻影たちが一瞬で動けなくなった! エリスさん、あなたいったい何者なんですか!?」


「え、えーっと……説明は後でいいですか?」


 エリスはアーサーの興奮した声をよそに、優しくパメラに声をかける。

 

「パメラさん、もういいでしょう? これ以上は無駄な争いです」


「だ、だめよ! まだ終わらない! 魔王様のためなら……!」


 パメラは涙目になりながらも、必死に抵抗する。

 しかし、必死に水晶玉を握りしめるが、情緒が乱れているせいか幻影が現れない。

 

 その隙を狙い、エリスは距離を詰め、そして水晶玉をモップの柄で弾き飛ばした。


「あっ!」


 水晶玉は転がっていき、ミリアの足元で止まった。

 そして、容赦なく拳が振るわれ、水晶玉は破壊された。


「ああああっ!!! わ、私の水晶玉が……!!!」


 もはやこれまでだった。

 パメラには抵抗する力も道具もなく、一方エリス側は強き者が揃って立ちはだかっている。


「パメラさん、もういいでしょう? 降参して――」


「こ、こうなったら……ッ!!」


 降参を促すエリスの隙をついて、突然パメラは背後にある最深部の扉を開けた。

 武器庫が開放され、冷たい空気が流れ始めると、そのままパメラは部屋へと駆け込んだ。


「待て!」

「パメラさん、もうやめましょう!」

「おお!!! なんてすごい展開なんだ!!!!」


 オズワルドが叫び、エリスが追いかけ、アーサーは興奮冷めやらぬ様子で小走りをしながら部屋に入って行く。


「……あっ!ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 ドタバタとまるで緊張感のない騒ぎにミリアは出遅れながらその後を追った。



◇ ◇ ◇ ◇



 そして、部屋の中には武器庫の宝箱をこじ開け、その中身を取り出したパメラが怪しく笑っていた。

 

「ついに……ついに手に入れた!」


 部屋の中にパメラの声が響く。

 勇者の剣を手にし、勝利の笑みを浮かべている。


「あははは! これで魔王様も復活できる! あなたたちにはもう止められないわ!」


 しかしエリスはその剣を見て、言い辛そうな顔をしている。


 剣そのものに対する脅威とは別の、困惑と戸惑いである。


「あの……非常に申し上げにくいのですが……」


「何よ? 今さら降参するつもり?」


「いいえ……実はその剣のことなのですが……」


 言いたくないけど言わなければならないこの辛さ。


 おそらく大金を積んで買った張本人がそばにいる中で、言わなければならないのだから。


 観念したエリスは、口籠もるように言葉を発した。




「実は、どこにでも売ってる安物で、銅貨5枚分くらいの価値しかありません」




 エリスの言葉に、場の空気が一瞬で凍りついた。


「……は?」


 パメラの笑みが固まった。


「え?」


 ミリアが首を傾げた。


「……何ですって?」


 オズワルドの目が見開かれた。


「な、なんだって!?」


 アーサーも驚愕の声を上げる。


 パメラは剣をじっと見つめた。

 よくよく言われてみれば剣の輝きが少しチャチな感じがしたり、刃の鋭さも目を凝らしてみると斬るというより叩いて使うように見える。


 それに、何より装飾が皆無。


 一瞬過った可能性を、パメラは否定するように被りを振って拒絶し、エリスを睨みつけた。


「ば、馬鹿なことを言わないで! これは伝説の勇者の剣よ! 魔王様を倒した聖剣だ!」


《……間違いではない》


 確かに己を討ち果たしたのは間違いなく事実である。

 しかし、それはあくまで武器のおかげでなく、勇者の異常な強さのせいだ。


 エリスは冷静にパメラを嗜める。


「貴女もおそらく理解したと思いますが、それは普通の鉄の剣です。町のどの武器屋でも売っている、子供の玩具のような剣……」


「な、なぜそんなことがわかるの!?」


「だって……」


 エリスは少し躊躇い、それから決意したように言う。



 

「だってそれは、――私の友人である『勇者』が、かつて使っていた剣ですから」

 

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