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そして少女達は、勇者の剣を求めて衝突する


 東棟に勇者の剣が眠っている。

 その事実を聞いてから、エリスは仕事をしつつ、どう潜入するかだけを考えていた。

 

「――ひょっとして、東棟に行こうと考えてない?」

 

 ミリアがこっそり近づきながら、周囲に聞こえないよう囁いた。

 

「ええ、勿論」


「だよねー。でも、領主様と執事さんしか鍵を持ってないとも言ってたね。どうしようか……」


 ミリアの言葉に、エリスは複雑な表情を浮かべる。


「……伝説の武具とまで言うくらいですし、簡単には見せてくれる筈がないですよね」


「私、今度領主様とお話ができた時に聞いてみよっかな。もしかしたら、あっさりと了承してくれるかも知れないし!」


 すると、ふと前方で物音がした。

 パメラがまた、単独行動をしながら掃除をしていたのだ。


 その動きの一つ一つが、やけに印象に残る。

 魔力を使用しているのか、それともパメラの特技なのかはわからない。


《エリス、まだ何もするな。様子見をしておけ》


(……はい)

 

 魔王の警告に、エリスは微笑みながら頷いた。

 パメラが視界の外へと動いていっても、エリスは内心では警戒を強めている。



 その姿を常に気にするよう、第六感が激しく作動し続けたのであった。



◇ ◇ ◇ ◇


 

 その夜、エリスはそっとベッドから起き上がり、事前に準備しておいたメイド服に着替えた。

 そしてこっそりと、東棟の調査を始めようと部屋を出る。

 

 ベッドで元気な寝息を立てているミリアを置いて、一人館内を音を立てずに歩いていく。

 

 月明かりだけが頼りの館内。

 水のように滑らかに動き、第六感によって見張りがいないことを確認しながら、前へ、前へと進んでいった。


「――ッ!」

 

 咄嗟にエリスは急に物陰に隠れた。

 視界の奥に、パメラの姿が映ったからだ。


 パメラは廊下を歩きながら、扉の数や窓の位置、警備の状況を記憶しているようだ。


(やはりパメラさんも……)


《ふむ、見事な気配の殺し方だ。あの女、中々やるではないか》


 いつの間にか足元にいた魔王が興味深そうに呟く。

 魔王もまた、勇者の剣をその目で確かめたいと思っていたのだ。



◇ ◇ ◇ ◇


 

 パメラはエリスに気づかず、慎重に廊下を進んでいく。

 その動きは、確かに訓練された者だけが持つ、高い技術のように見えた。


 その時――エリスの第六感が背後の存在を察知した。


(――人の気配!)


 

 勢いよく振り向き、エリスは戦闘態勢になろうとする。

 しかし、その人物を見た途端に戦意は喪失した。

 

「――やっぱりここにいた」


 そこにはミリアが立っていて、囁くような小さい声でエリスに尋ねた。


「部屋からいなくなったと思ったら、こんな楽しそうなことをしてるなんて」


「遊びじゃないですよ。危険かも知れないので、お部屋に戻って――」


「絶対嫌。だってエリスってば、一人だと無茶するから心配なんだもの。……大丈夫、自分の身くらい自分で守れる」


「ミリアさん……」


「ごめんね、わがままで。でも、友達だもの。放っておけないんだ」


 エリスの強さはよくわかっている。

 

 いざとなれば勇者の力を解放できる上、そうでなくとも身体能力から判断力、そしてあらゆる技術が突出しているのだ。


 だが、ミリアはそれがわかっていても心配だったのだ。


《雑談は終わりだ。……動き出したぞ》


 魔王の声が低く響く。


 東棟に向かっているパメラの姿は警戒心を最大にしながら周囲を見渡し、歩いていく。


(パメラさんが剣を盗もうとしているなら、止めなければなりませんね)


《ああ。だが焦るな。狐の尾を掴む好機だぞ》


 魔王の冷静な指摘に、エリスは深く息を吸い込んだ。

 

 一刻も早く捕まえないと。

 さもなくは、アーサーが剣を手に入れたことで示したかった想いが蔑ろにされてしまう。


 それだけは絶対に避けなければならなかった。


《それに、あの執事が放っておくわけがない。いざという時に執事も現場に駆けつけてもらうよう、時間稼ぎをするのも一つの選択肢として持っておけ》


 

 確かに、あの執事が無警戒であるはずがない。

 勇者の剣を盗むことに繋がる行動を行った証拠を得た時点で大騒ぎでもすれば、きっとオズワルドは駆けつけてくれるはず。


 そう思いながら、エリスは慎重にドアを開け、月光に照らされた廊下へと足を踏み出すパメラの姿を追っていった。



◇ ◇ ◇ ◇



 二人は息を殺しながらパメラの後を追い、東棟へと辿り着いた。

 

 石造りの廊下は昼間の優雅さとは打って変わり、月明かりによって浮かび上がる彫刻や肖像画が、まるで生きているかのように不気味に見えた。


 そして歩くこと少々の時間が経過した時。

 ついに、厳重にも扉が封印されている部屋へと辿り着いたのだ。


 物理的な閉鎖が施され、その上から魔法陣を描いたのか、魔法による閉鎖までされている。


 それを破壊しようというのか、パメラはどこからともなく道具を取り出した。


(水晶玉……ですか?)


 青白い輝きを放つ大きな石は、異様な魔力を放出している。

 

 それを扉に翳すと、幾重にも張り巡らされた魔法の障壁が崩れ落ちていった。


《……あの女を止めろ、エリス》


(了解です!)


「ちょ、ちょっと!」

 

 エリスが即座に走り出し、ミリアも慌てながらその後を追った。


「ふふふ……これでようやく手に入れることができる」


 パメラは肩を震わせながら呟く。


 追い詰められているのも同然であるのに、その余裕は崩れないままだ。

 

「パメラさん! 止まってください!」


 エリスの叫び声に、パメラはゆっくりと振り返った。

 その顔には、これまで見せたことのない冷たい笑みが浮かんでいる。


「遅かったわね。だけどもう障壁は破られた。これで勇者の武具は私のものよ」


「なぜそんなことをするんですか? 領主様はあの武具を平和の象徴として大切にしているんですよ?」


 パメラの笑みが歪んだ。

 

「平和の象徴? ふん、そんなものはどうでもいい。私はこの武具で、魔王様の復活を助けるのだ!」


「魔王の……復活?」


 ミリアの呆然とした言葉に、エリスと肩の上の魔王は同時に息を飲んだ。

 その言葉は、エリスにとっては複雑な思いを呼び起こすものだったからだ。


「ま、魔王って……あの魔王?」


 ミリアが驚きの声を上げた。


「そうよ! 偉大なる魔王様の力こそが、この世界を正しく導くの! でも、あの愚かな人間が魔王様を倒した……でも、この勇者の武具があれば、魔王様の魂を呼び戻せるかもしれないのよ!」


 パメラの目は狂気に輝いていた。


 しかし、エリスは内心で複雑な思いに駆られ、心の中で呟いた。


 ――そんなことをしても、魔王は復活なんてしないのに、と。


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