山の魔物
「まずは状況整理」
レムノスは一丁前の探偵のように演技じみた身振り手振りで説明を始めようとした。
深い伽羅色の鳥打帽を被り肩掛けを纏い、その下にもそれらしい服が覗いている。
言葉を発する前にディウルカが口を挟んだ。
「何その服」
「テオ様に教えてもらった。スイリショウセツのタンテイの正装」
「スイ……、タン……?」
ゾルヴィアは聞き慣れない単語をどうにか処理しようとしていた。
レムノスは二人をよそに歩きながら説明を始める。
「昨晩私たちが異空間に潜った時、八八一歳の聖白竜、ハルクが行方不明となっていた」
「何その口調」
「タンテイ」
「あっそ……」
「それから現在まで半日が経過したが、ハルクの姿は無ければ連絡も魔力痕も無い。しかし先程町にて収穫があった。さて助手のゾルヴィア君! ここで問題である」
「我⁈」
「ハルクは何を買って行った?」
「……本と食料」
「正解である!」
真顔のまま突然大声を上げたレムノスに二人の肩が跳ねた。
苛立ち始めるディウルカと困惑するゾルヴィアの前で更に続ける。
「何の痕跡も無く消えたハルク! 奇妙な買い物! ここから導き出されるのは……!」
そこでレムノスの声が途絶えた。動きも止まった。
突然の異変を心配してゾルヴィアが歩み寄ろうとするが、その前にディウルカが腕を掴んだ。
レムノスはゆっくりと二人を振り返った。
「……」
「こっち見ても僕たちだって分からないよ」
「ごめんなさい」
「満足?」
「ん」
探偵ごっこを終えたレムノスの衣装が普段と同じものに戻った。
無駄に時間を消費されたディウルカは舌打ちをした。
ゾルヴィアは一人考え込んでいた。
「本と食料……脆仙に知り合いが? 否、だとすれば普段から外出している筈……レイに頼まれたならレイが落ち込む必要は無い……」
「ほら見なよ。君と違ってヴィアは真面目に考えてる」
「むう……」
年上二人が下らないやり取りをしている中、ゾルヴィアは顔を上げた。
「何か分かった?」
「定かではない。しかし、可能性としては高いと思う」
「ほんと?」
レムノスが目を輝かせた。三人の中でこの状況を最も楽しんでいるのは紛れもなく彼である。
ゾルヴィアは言い出すことに躊躇っているらしく、その表情は曇っていた。
「おそらく、聖___」
次の瞬間。
地鳴りと共に、地中から巨大な魔物が姿を現した。
魔物の足元から生える触手の三人を捕えた。
「オノレ野蛮ナ竜メ! コノ傷ノ恨ミ晴ラサデオクベキカ!」
「僕とこいつは竜じゃないけど」
「黙レ! 仲間モ道連レダ!」
聞き取りづらい叫びを上げる魔物の頭には巨大な爪痕が刻まれている。
その爪痕には、覚えのある聖脈が残されていた。
上下逆さに宙づりに慣れたディウルカは顔色を変えずに言った。
「ねえ魔物君、その傷をつけた竜って、若い聖白竜?」
「ソウダ。吾輩ハ油断シテイタノダ。デナケレバ山ヲ支配スル吾輩ガアノヨウナ若造ノ攻撃ヲ受ケル筈ハ無イ!」
「ならば何処に向かったかは分かるか?」
ゾルヴィアは拘束されたままの状態で尋ねた。
「舐メルナヨ!」
動じず質問を重ねて来た三人に腹を立てたのか、魔物の額らしき場所に青筋が浮かんだ。
数を増した触手がゾルヴィアとディウルカに絡み付き、力が強まった。
爪が無いことから察するに、得物を絞め殺して喰らう魔物なのだろう。
「待て服の中に入るな!」
「貴様ラ二人カラ殺シテ食ッテヤル! 娘ハソノ後ダ!」
「痛い痛い羽折れる。答えてくれないならこのまま殺すよ?」
「教エテヤル筋合イナド無イワ! ソノママ死」
言い終える前に、一筋の光がその場に走った。
魔物の頭かと思われる部位が縦に引き裂かれていた。
死体からは力が抜け、植物が枯れて萎れるように触手と共に倒れていく。
レムノスとディウルカは早々に拘束を解き、勢いよく飛び散る魔物の体液を避けて地表に着地する。
靴底に付着した液体にディウルカは顔を顰めた。
「ヴィアは?」
「……ここだ」
触手と体液のたまり場からくぐもった声が聞こえて来た。
直後、ゾルヴィアが体を起こした。触手が絡まり、解けないまま倒れてしまったらしい。
「今助け……」
レムノスは一瞬、動きを止めた。
複雑に絡まった触手と言い頭から被った体液と言い、まあ何ともアレな姿のゾルヴィアが服の中に入り込んだ触手を引き抜こうとしていた。
「何故こうなる」
「……複雑」
「?」
・・・
「で、ハルクは何処に行ったって?」
ディウルカが言った。
魔法によって体液を払い、纏わりついていた触手を残らず引きはがしたゾルヴィアは再び微妙な表情を浮かべた。
「言いづらい場所なの?」
「そういうわけではない」
レムノスとディウルカは同時に首を傾げた。
しばらく躊躇った後、ゾルヴィアは覚悟したように二人を真っすぐに見据えた。
そして告げた。
「___聖白竜の里……ハルクの故郷であり、『彼の者』の手によって暗黒竜の敵となった者たちの住処だ」




