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演習終了

 雨に濡れた森で小鳥の囀りが微かに空気を揺らした。

 音は結界を通過し、光と共に朝の気配が満ちていく。


 ラぜメアは穴倉の中で目を覚ました。昨晩隣にくっついていたメルヴィは中々遠くに転がっていた。


 雷雲が去り、しかしまだ僅かに雲が残る空は透き通った青に輝いている。


 正面を見ると、青髪の混じった長い白金髪の人物が座っている。

 その人物___セノカが振り返った。


「起きたか」


「はい……あ、見張りご苦労様です」


「どうも。動けるなら他の者を起こすのを手伝ってくれ」


 セノカは静かに立ち上がり、まだ夢の中に居る仲間に近寄った。ラぜメアは転がるメルヴィの名を呼びながら肩を揺すった。


 ラぜメアが苦戦している中、セノカはテオの正面に立つ。

 そして軽く__セノカの基準で軽く__頭を殴った。


「痛あ!」


 文字通り叩き起こされたテオは頭を押さえて涙目になった。


 呻く弟には見向きもせず、セノカはネイズの正面に移った。次の標的である。

 ごく自然な動作で手を振り上げ、痛みが止んで制止しようとするテオよりも先に振り下ろす。

 脳天に攻撃が直撃した。


「ぐあっ⁈」


 小さく叫び、ネイズは肩を震わせて目を覚ました。

 自身の頭に手を当てながら、テオはネイズに近寄って頭を下げている。


「何だ……敵の襲撃か⁈」


「ごめん……姉さんの目覚まし手刀だよ……」


 セノカはそれを確認すると、じろりと左を見た。


 そこにはまだ目を覚まさないメルヴィと、起こされていないシャノンの姿があった。


 ラぜメアはその視線に気づき、首が取れそうなほど激しくメルヴィの肩を揺さぶり、シャノンの頬を痛くない程度に叩く。

 早い所起こしてしまわないと、二人の脳天に一撃入る。


 つかつかと足早に歩み寄って来るセノカの手が振り上げられる前に、何とかラぜメアの苦労は報われた。


「ほああ……おはようございます……」


「むあ……ラズ? 茸になったんじゃ……」


 ほぼ開いていない目で見詰めて来るメルヴィに、ラぜメアは安堵に満ちた笑顔を向けた。

 その横では、シャノンが口元を隠して控えめに欠伸をしている。

 セノカの目覚まし……否、手刀は不発に終わった。


「姉さんはもっと穏やかな目覚ましを研究しようね」


「何故?」


「アンタの手刀めっちゃ痛いんだよ!」


 ネイズが叫ぶほどである。あれを女子にお見舞いしたら絶対に泣く。


「それはすまん」


 セノカの謝罪には感情がこもっていない。

 謝りはしたが、「しない」とは言っていなかったことに横で二人の会話を聞いていたネイズは気づいていた。

 まだ頭が少し痛んでいる。


「朝食後は試験終了までここで待つ」


「終了…………えっ、終了⁈」


 寝ぼけていたシャノンが目を見開いた。

 ラぜメアとメルヴィも瞳を輝かせている。


「ようやくちゃんとしたお風呂に入れる……!」


「ロザリエ様にも会える」


 この二日間、湯で濡らした布で体を拭き、六人で孤独に過ごしてきた。それが今日、あと数時間で終わるのだ。


 一方でセノカはこの後に起こる面倒事について考えていた。

 一人別の班に入れられてしまったレイがしばらくしつこく話しかけて来るだろう。慰めの菓子を持って行って落ち着かせる必要がありそうだ。


 テオはと言うと「兄さんと会えるー!」と呟きながら飛び跳ねていた。

 前世から関わりが深かった故か、テオはレイによく懐いている。


 セノカは静かに保存食を食べながら背後の騒がしさを無視して外を監視した。

 雨の影響からか、魔力が充満して探知が難しい。昨晩から魔力探知を切っていないのも重なってこれ以上の魔力損失は流石に許容できない。

 普段の魔力探知ならレムノスからの魔力供給と自動的な自己回復によって魔力の消費量は無いに等しいのだが、昨晩は雨音で聴覚が使えなくなり防御結界も張っていたため、確実に減っている。

 食料でもある程度の魔力を得られるがそれでも完全な回復には程遠い。


 セノカ以外も保存食を食べ終え、決められた配置につく。

 魔力探知はテオに交代した。

 寝袋を畳んで器を片付け、積まれた石などの痕跡を消す。セノカは広範囲に張っていた蟲避けの結界を解いた。

 終了時刻が近づき、女性陣はその瞬間を待つ。

 ネイズとテオとセノカは周囲を見張る。


 不意に、テオが何かに気づいて顔を上げた。


「……獣が複数体」


 告げられた内容に、セノカとネイズは武器を取る。

 テオも短剣を手元に出現させ、立ち上がった。


「結構大きいね。穴倉に向かってきてる」


「移動の必要はあるか?」


「そうだね、終了は十七分後だけど、このままじゃ襲撃される。準備も整ったことだし、一旦離れよう」


 テオは短剣を持ったまま穴倉の出入り口に歩いた。


 蛇の灰は雨で流されてしまったようだ。小型の獣の気配が集まってきている。


 周囲を確認し、テオは腕を振って合図を出す。

 セノカを先頭に、一日目と同じ配置に並び、安全地帯へと向かう。行先はセノカが前もって示していたので迷うことは無い筈だ。

 足元のぬかるむ森の中を、静かに進んでいく。

 濃い魔力でラぜメアとシャノンは軽い頭痛を起こしていた。


「大丈夫?」


「これくらいなら問題ないわ」


「私も……」


 昨日の天気痛と比べれば大したものではない。


 姿を見せ始めた蟲を避け、森の奥へと潜る。障害物も無く、順調に目的地へと近づいていた。


 しかし、テオの表情が険しくなっていた。


「……ちょっとまずいかも」


「どうした?」


「大きな獣の群れの魔力が近づいて来てる。それもすごい速度で。狙いが穴倉ならまだ良かったけど、この感じだと多分オレたちを」



 その瞬間。


 左の木がなぎ倒されると共に、巨大な獣が咆哮と共に現れた。


 シャノンとラぜメアは声にならない悲鳴を上げ、他は即座に臨戦態勢に入る。


 獣は四人の倍ほどの体長がある狼だった。目は血走り、口からは涎が垂れている。気味の悪い咆哮が濡れた木の葉を揺らし、雫を散らせた。

 その背後からも同じような個体が何体も現れる。


 飛び出そうとするテオ、ネイズメルヴィを手で制し、セノカは武器を弓矢から刀へ切り替えた。


 獣が腕を振るう。土の塊が宙に舞い、強い風圧が地面から巻き起こる。

 動揺で動けなくなっている二人を肩に担いだセノカと他の三人は地面を蹴って攻撃を回避した。


「何で止めたの?」


 木々の上で止まったテオは女子二人をゆっくりと下ろすセノカに問う。視線は下に向いたままだ。


「あの獣の群れは寄生型蟲に操られている。普通に殺せば我々が次の標的となり、脳に入られて即死、つまり失格だ」


 腕輪の力で本当に死ぬことは無い。

 しかし誰も、痛覚は無くても頭を突き破って脳に蟲が侵入する感覚を味わいたくはないだろう。


「戦闘不能にして蟲を殺す。だが戦闘に炎は使うな。濡れているとは言え森だ、周囲に引火する可能性がある。それと獣本体はなるべく殺さないようにしろ。あの数と獣の種から察するに、この森の生態系の頂点だ。……そして厄介なことに、森の中にあの獣の反応は暴走した個体以外感じ取れない。後から来る冒険者から苦情を受ける真似はしたくないので、くれぐれも殺し尽くしてしまわないように」


「作戦は」


「シャノンとラぜメアは後方支援、他の者は戦闘。以上だ」


「随分単純なんだね」


「知性の無い獣相手に作戦が必要か?」


「それもそっか」テオは肩をすくめて笑った。


 テオは短剣に、ネイズは薙刀に、メルヴィは剣に、セノカは刀に魔力を纏わせる。

 シャノンとラぜメアは魔法式を構築した。


 体力と魔力を増強させ、セノカが張った立方体の結界の中に籠る。簡単な援助なら普通の学生の身でも可能である。


 二人が見送り、四人は咆哮の飛び交う森の中へと沈んでいった。


・・・


影の者(インザシャドウ)


 獣数体の足元に黒い魔法陣が出現した。

 魔法陣の中から黒い触手のようなものが飛び出し、獣を地面に押さえつける。

 木の上から飛び降りて来たテオが翳した手の前にもう一つの魔法陣を浮かび上がらせた。魔法陣からは白紫の光が漏れている。


「加減して、と……」


 腕に力を込め、魔法陣を拘束された獣へと向ける。


獄雷・波及ブライトレージ・スカッター


 電撃が浴びせられた。電気が全身を駆け巡り、獣が激しく痙攣する。

 ある程度経った頃、電撃が止んだ。獣は小さく痙攣を続けた後、地面に伏して動かなくなった。


 テオは踵を返して残りの獣の集団の正面に立った。

 現れた獲物に、獣の群れが牙を剥く。

 テオは短剣の先を真っすぐに地面に向けた。


〈魅惑の煙管〉


 地面に勢いよく短剣を突き刺す。


 その瞬間。桃色の脈が地面に走った。


 同時に獣が苦しみはじめ、その場から離れようとするが地面の脈から桃色の煙が噴射した。

 煙を吸った獣が脱力したように倒れる。


 テオは次の集団へと走って行った。

 少ししたところに、セノカの姿があった。


「ネイズさんとメルヴィさんは?」


「別の場所で戦っている」


 答えつつ、セノカは迫って来る敵に威圧をかける。

 知性を持っていなくとも感じる巨大な恐怖に怯む獣の前で、セノカは刀を振り上げた。

 背後から迫る獣に対処するテオが短剣を構える。


 二人は同時に武器を振るった。


〈姫紫玉〉


〈功女兜〉


 強い毒性を持つ魔力の波が刃から放たれた。

 セノカの刀からは水縹色の魔力の渦が。テオの短剣からは黒い魔力の波が、獣に押し寄せる。


 突然莫大な魔力を浴びた獣が気を失って倒れた。それを視認したとほぼ同時に、セノカの姿はそこから消えていた。


 テオはセノカとは別方向に向かった。


 二人とはまた別の場所で、メルヴィとネイズは互いの魔法で足場を補い合い、縦横無尽に森の中を動き回っている。

 メルヴィは魔物の集団の間を器用に縫い、小さな傷をつけていく。

 剣には僅かな血液が付着するが、魔力を帯びた風圧に攫われて地面に落ちた。


 メルヴィは集団を通り抜けた直後、再びその集団に向き直った。

 そして翳した手を軽く握った。


天与魔術(ホーリーギフト)・傷の因習〉


 次の瞬間、獣に付けられた傷から魔力が発生した。紛れもなくメルヴィのものだった。


 傷を源に、電流が体内を巡った。


 未だ意識を保ち、メルヴィを喰らおうとする個体が他の獣を引き摺りながら動く。

 そこに閃光が落ちた。


獄雷(ブライトレージ)


 電流で痙攣を起こす獣を見下ろしていたのはネイズだった。


(成程。後付けで付与魔法式を発動させる魔術か……)


 威力は低いが、自分が彼女と戦う際は距離を取った方が良いかもしれない。


 ネイズの視線の下で、メルヴィに一匹、特に大型の獣が飛び掛かった。

 ネイズは薙刀を振り上げ、投げ落とす。風魔法と電気を付与された薙刀は重力と風圧でまっすぐに落ちていき、メルヴィと獣の間に突き刺さった。

 メルヴィはその意図を読み取り、防御結界を張る。そのくらいの猶予はあった。

 薙刀から魔力を多く含んだ風が巻き起こる。風には刃が仕込まれ、獣に付いた傷から魔力が体内へと侵入する。

 体内に入り込んできた異物の魔力に、獣の体内の魔力循環が狂う。その影響は脳にまで及び、獣は地面に倒れ伏した。


 他の個体の持つ魔力は毒になり得る。学院以前に義務教育で教わる範囲だ。

 ネイズは薙刀を手元へ引き戻した。


「! ネイズさん!」


 メルヴィが叫んだ。

 ネイズが素早く背後を振り向く。


 そこには、鋭い羽を広げて迫る大鳥の姿があった。


 セノカが提示した地図を思い出す。すぐ近くに、夜行性の鳥の巣があった筈だ。この戦闘に巣を荒らされ、興奮した個体が襲撃してきたのだ。

 夜行性の獣は隠密に長けている。ただでさえ周囲の魔力が濃く、探知を地上に集中させていたために簡単に接近されてしまった。

 咄嗟に受け身を取ろうとする。


 その時、甲高い悲鳴が聞こえた。


 メルヴィとシャノンだ。結界に鳥の群れが近づき、二人を捉えようと結界を攻撃している。


 気を取られ、防御が疎かになった。


 防御魔法は常時発動させていたが、羽が腹に直撃し、ネイズは百メートルほど吹き飛ばされた。

 頭から木々に衝突し、獣の縄張りを破りながら速度を落とそうと進行方向に風魔法式を構築する。

 何とか止まることには成功したが、既に目の前には先ほどの鳥の嘴があった。


「く……!」


 高く跳びあがり付き技を回避する。

 しかしその背後にも別の個体が待ち受けていた。


(まずい……!)


 興奮状態の夜行性の獣は攻撃力が非常に高い。

 運が良ければまた飛ばされるだけで済む。運が悪ければ脱落だ。


 と、その時小柄な影が背中を覆った。


「危な!」


 短剣を持つ人影___テオは、押し出された足を柄で防いだ。

 一気に力を込め、鳥の足を振り払う。

 そして短剣に魔力を込めた。


〈功女兜〉


 傷がつく程度の軽い斬撃に、高密度の魔力を宿す。

 鳥が気絶し、姿勢を崩して地に落ちるのを見計らってテオは魔法陣を浮かび上がらせた。


〈転移〉


 鳥の体が魔法陣の中に消えた。

 二人を狙って来る鳥の大群を前に、テオはネイズに微笑みかけた。


「他者の心配が出来る人だったとは、驚きだね」


「フィオンたちはどうする。助けに向かうか?」


「大丈夫でしょ。先にオレたちはこっちを片付けなくちゃ、姉さんに怒られる」


「終了時刻は」


「六分後。鳥は興奮してるだけだから、倒した後は巣に転移させて」


「承知した」


 それぞれの武器を構えた二人の体からは魔力が溢れ出していた。

 笛のような鳴き声が響き渡るとともに、鳥の大群が二人に押し寄せた。


・・・


 ____その頃、シャノンとラぜメアは。


 鳥が結界を蹴り、つつき、壁面にひびが入り始めていた。

 魔力体力の増強魔法は解かないよう努めるが、結界外から睨んでくる鳥に二人は怯え切っている。


「このままだと……」


 ラぜメアの魔力が恐怖で揺らぐ。


 セノカ達は下で獣の相手をしているため助けは望めない。立体状結界など高度な技術を、学院内で平均以下の成績しかとったことの無い二人に扱うことも不可能だ。


 鳥の数は増え続け、執拗に二人を狙っている。


(セノカさんが来てくれたら……!)


 シャノンは観念したように目を閉じ、魔力の安定性が緩んでいく。


 ____しかし、その脳裏を過ったのは、自分が縋ろうとしたセノカの姿だった。


 セノカは自分たちを援助役として信頼し、態々結界を張ってくれた。

 それにあのセノカが、いくら徹夜直後とは言え付近に鳥の巣があることを忘れるだろうか。それに巣はシャノン達のほぼ真下だ。一番に襲撃されるのはどう考えても二人である。

 彼女がそんな重要なことを見落とす筈はない。


 彼女は見抜いていたのだ。シャノンの能力を。

 それの意味するところは、つまり______


(……正直、上手く扱える自信は無いけど)


 一旦補助の魔力を完全に断ち切る。


 集中する必要がある。だが自分には二つのことを同時に考えるほど器用なことは出来ない。


「シャノン……?」


 座り込んでいたラぜメアが、突然立ち上がったシャノンを心配そうに見上げた。

 シャノンは祈るように手を組み、目を伏せる。


「……耳を塞いでいて下さい。音響遮断とか、出来たら……」


「え……え?」


 混乱の中、ラぜメアは耳に音響遮断の結界を張り、特に意味も無くその上から耳を塞いだ。


 シャノンは大きく息を吸った。

 得体の知れない力に、空気が振動する。

 覚悟を決め、シャノンは目を開いた。


『仄かなる恐怖よ、哀れな子らを鎮めよ。憤怒よ、烈火の如く我の身を焼くが良い』


 明らかにシャノンとは異なる声が響き渡った。


 空気を揺らし、それは結界外の鳥に伝わる。


 シャノンはラぜメアを半ば睨むように振り返った。

 自分の耳を指差し、その意図を理解したラぜメアは音響遮断を解いた。


 その瞬間、シャノンが早口で叫んだ。


「ラぜメアさん鎮静用の精神魔法を私に!」


 ラぜメアはその剣幕に押され、即座に精神魔法式を構築した。


 魔法をシャノンにかける。シャノンは普段とは明らかに違う、怒り狂った表情をしていた。

 対照的に、鳥は甲高く小さな鳴き声を上げ、頭の向きを変えた。魔力探知で判明した巣の場所へとまっすぐに向かっていく。


 魔法の効果でシャノンが穏やかで気弱そうな表情に戻った。

 ラぜメアは呆然としたまま肩で息をするシャノンの背中をさすった。


「今のって……」


「は、はい……私の天与魔術で、〈感情の贄〉っていうんですけど……相手と自分の感情を交換するんです。ただ、私が相手の感情について、相手と同じ認識を持っていないと、ちょっとまずいことになるんです。今回くらい明確な場合しか使えないし、たまに他の人を巻き込んじゃうので、何というか……使いにくくて」


「そんな天与魔術が……」


「えへへ……でも、人のことは良く分かりませんし、獣相手にしか役に立ちませんけどね。セノカさん、このことが分かってて私たちにこの役割を振ったんだと思います」


 シャノンは苦笑しつつも援助魔法をやり直した。

 これ以上の攻撃は無く、二人の周囲は再び静まり返る。

 聞こえて来るのは、地上からの戦闘音だった。


・・・


「これで全部、かな!」


 テオは一匹に刃を振るった。

 刃を通じて濃い魔力を注入し、鳥を気絶させる。そしてすぐに転移魔法を発動させ、鳥を巣に戻す。


 魔力探知の結果からして、それが最後の個体で間違いない。


 ネイズは地上に目を向けた。


 疲弊しているが無傷のメルヴィと、余裕の表情で二人を見上げるセノカが立っている。

 その周囲には、戦闘不能となった獣の大群が地に伏していた。


 セノカは獣の大群に向き直り、より精度の高い探知を発動させた。

 生物の気配は勿論、体内まで見通す強力な探知魔法。魔力消費は激しいが、ほんの一秒でもセノカには充分だった。


 獣の体内に潜む蟲を全て見つけ出し、別の魔法陣を出現させる。

 そして、それを大群に向けた。


生灯(ファイア)


 体内の蟲だけを炙る。

 生命力の強い蟲でも、流石に焼かれればすぐに死ぬだろう。


 対象が小さいので、かなり魔法の範囲を絞った。常人ならば並々ならぬ集中力が必要な芸当にも関わらず、セノカは普段と何ら変わらない無表情でそれをやってのけた。


 やがて、獣から寄生型蟲の反応が消失した。

 それはメルヴィにも探知できた。


「……終わった?」


「ああ」


 セノカは掲げていた手を下ろした。


 その背後で、メルヴィは安堵の溜息を吐き、肩を下ろしていた。


 上空からネイズとテオの二人が地上に降り立つ。

 テオは持っていた短剣を簡易異空間内に収納した。


「シャノンさんとラぜメアさんを呼びに行って来る」


「必要ない」


「……あ、確かに」


「…………どういうこと?」


 分かっていないメルヴィが首を傾げた。

 セノカは藤色の瞳をメルヴィに向け、自身も刀をその場から消した。


「もうすぐだ」


 その時。


 六人が光に包まれた。


 光は腕輪から広がった。魔力は試験を管理する職員のものだった。


 転移魔法陣が足元に出現する。

 魔法陣が上へと昇っていき、六人の体を別の場所へと転移させていく。


 獣や蟲が光から遠ざかり、静寂が訪れる。



 そして、雨に濡れた森の中で、六人分の人影が消滅した。


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