誰も予期しなかった結婚の儀 2
大雨の結婚式なんて縁起が悪いなと思いますが。
東宮夫妻には雨がついて回ります。
思えば我が国の衰退はここから始まったのだと言えます。
どうぞお読みください。
幸子は潔斎の時から「嫌だ」と騒ぎ立てた。
女官に「潔斎しないと賢所に上がれません」と叱られたが「でも侮辱」と言い続ける。
「お妃教育は何をしてた?」とあらためてびっくりした女官は、きっぱりと
「ではやめますか」と聞いた。
そこでようやく幸子は黙ったのだった。
人生の中で人前で裸体をさらすなんてありえない・・・と思いつつ涙をこらえていた。
ようやく支度が整ったのは、予定の時間を10分過ぎた頃だった。
生中継のテレビも話題が尽き始めて、はらはらし始めていた。
ディレクターの「OK」が出て、漸くアナウンサーが
「ではここからカメラを切り替えます」と言った。
賢所に先に入って来たのは東宮しか着用が許されない「黄丹の袍」の東宮だった。
今まさに太陽が昇るという意味の赤が使われた華やかな装束。
そして続く幸子は女官に裾を持たれてやっと歩いている様子。
その装束は白小袖に濃色の精好織の長袴、濃色幸菱紋生固地綾の単、五衣は忍冬唐草と立涌を配した地紋の固地綾。
五衣の色は薄い青から始まり、青、白、山吹、そして濃山吹をとする「花橘」の重ね。
青とはいいながら黄緑に近い色で、要するに夏装束だった。
さらに表着は紅色に黄色を合わせた「支子色」《くちなしいろ》の重ね。
それに冠をつけ、檜扇を持ちながらやっとやっと賢所を歩く。
菜子が歩きなれたように賢所を進んだのと違い、幸子は東宮についていくだけで精一杯だった。
そしてやっと御簾が現れ、二人でその中に入る。
雨がさらに激しさを増して御簾をかすませる。
しかし、不思議な事に御簾の中は静まり返っていた。
東宮が「告文」を読み上げ、儀式は終了。
二人で御簾から出て来た所でテレビの画面には「東宮妃幸子さま」と大きく出た。
「宮内庁によりますと、幸子様のお印は夾竹桃という事でございます。幸子様の十二単にも美しい夾竹桃の柄が織り込まれています」
夾竹桃は暑さにも寒さにも負けずに花をつける強い花。
それを選んだのも哲也だった。
二人が退場すると、皇族方はやっと立ち上がることが許され、道がぐちゃぐちゃの中帰ることを余儀なくされた。
東宮と幸子は二人で記念撮影に臨む。
お雛様のように並んだ二人は、はっきりいって共通点が何一つないカップルだった。
ただ東宮は心から満足しているし、綺麗な装束を着ている幸子は少し機嫌がよくなった。
そして、支度部屋に戻ると「幸子様、おかえりなさいませ」と女官達に迎えられた。
「さま」を付けられる身分になったのだと自覚する。
新しく「東宮女官長」に就任した轟楓子が改めて幸子妃に挨拶をした。
「本日は誠におめでたく存じ上げます。東宮女官長に就任致しました轟楓子でございます。これからお妃さまのお世話をさせて頂きます」
楓子は背が高く細身で、和風な顔立ちで上品な目鼻立ちをしていた。
「大学はどこ?」
幸子は横柄に聞いた。
女官長はちょっとびっくりして、「地方の大学です」と答えた。
いきなりそれを聞くのかと思ったけれど、幸子は最初に学歴で人を計るのだとこの時に覚えた。
「地方ってどこよ」
「アンフェリータ女学院を出まして、それから院に進みました。心理学を専攻しておりました」
アンフェリータ女学院と言えば、地方だけれど有名なお嬢様学校で、富裕層で成績優秀でないと入れないところだ。しかも院まで出ているという。
幸子は黙った。
「さあ、時間がありませんって。着替えます」
女官達は楓子に挨拶すると、即座に幸子の着替えに入った。
一緒に楓子も女官のドレスに着替え、髪型を整えて貰う。
幸子はちらちら楓子を見た。
清楚な顔立ちをしているが、幸子が好きなタイプではない。
菜子と同じ空気を感じる。どうせ家柄もいいのだろう。
自分では気づかないが、幸子の中にはどろどろとした「血筋」「家柄」へのコンプレックスがある。
自分と自分の父親は完璧と信じているが、それでも持っている雰囲気が菜子や蓮宮とは全然違う事くらいは気づいた。
民間出身というなら菜子もそうだし。
修学院の学風なのか、それとも他にあるのか。何にせよ幸子は菜子を嫌いだった。
八又奇病とか富強化学の事は知っていたが、
「おじいちゃまは悪くない」と信じているし、自分には何の関係もないと思って居る。
だからなんらコンプレックスを感じる必要はない筈なのだが、今までの人生を振り返り生きづらさを抱えて来た自分がよそと違うと言われるのが本当に耐えられないのだ。
私は最高学府を出たし外務省にも入ったし、留学もしたし、今は東宮妃になった。
なのになぜ、こんなに不安でイラつくのだろうか。
「まあ、お綺麗ですね」
しらないうちに幸子は花森恵のドレスに着替えていた。
ドレスに東宮妃のティアラと、ネックレスがよく映えてキラキラしていた。
「すごい」
思わず幸子は口に出していた。
今まで見たこともない程、美しく着飾った自分がそこにいた。
外から「ご出発です」と声がかかる。
いよいよ朝見の儀だった。
お読み頂いていかがでしたでしょうか。
本気で「お妃教育」をやってのか?と女官が思いますが、まさにその通りです。
皇族の「妃」になるのは大変な覚悟が必要です。
しかし、秋月宮家の菜子はすんなりと溶け込んでいけたので、国民は幸子もと思ったに違いありません。
今後、どうなっていくのでしょうか。




