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沈む皇室  作者: 弓張 月


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偽りの出自 

マスコミで色々言われているけど、あの人のホントの姿は何?という事は多々あると思います。

実際会って見ると違っていたとか。

変えられない出自ですら変えてしまう一族がいる事を知って頂きたいです。

東宮と幸子の記者会見は社会的に「よし」とするものがいる一方「だめ」という人も沢山いた。

「東宮様を差し置いてべらべらと喋るなんて前代未聞」

「幸子さんの言葉はわかりづらい」

「オーケストラ発言には参った」

等など。けれど、最も疑問を持たれたのは

「僕が幸子さんを全力でお守りします」と幸子の言ったセリフ。

無論、東宮もその後で「私が全力でもって幸子さんをお守りしようというわけです」といっているので、確かにそのセリフは東宮の発言だったのだろうと思われる。

しかし、「全力で守る」というのは何から幸子を守るというのだろうか。

記者会見において、后宮が東宮妃の頃に苦労した話は東宮は全く聞いていないと言ってるし、后宮は温かく迎えると言っているし、他に反対勢力がいるのか?

そうなると敵は「国民」という事になってしまうではないか。

皇室というのは常に国民の喜びや悲しみに寄り添う国家鎮護の存在である。

それが個人的に「婚約者である幸子を守る」というのは、東宮としてはふさわしくないのではないか。

東宮が守るべきは国であり国民であるのに、「幸子」と限定した事に相当な反発があった。

それは宮内庁でも話題になったのだが、ついに東宮は国民より幸子を選んだんだなと誰もがさらりと思っただけで、そこに重大な何かがあるとは思わなかった。

女子が好む「守る」という言葉を「かっこいい」と思った職員もいたようだった。

女性週刊誌などはもろ手を挙げて「さすが東宮様」と持ち上げたし、「帰国子女で外交官の幸子さんの言葉が固いのは常にお役所文書と向き合っているから」などといい加減な言い訳を書いたりしていた。

梶東宮大夫は、皇室内の空気が重く感じられ、実は誰も東宮の結婚を喜んでないのではと思った。

宮内庁長官ですら、「東宮様を立てるとか、控えめにするという意思の全くない女性」幸子に幻滅し、今から頭を抱えている状態。

秋月宮家も蓮宮も、なるべく東宮の事は触れないようにしていたし、異常な持ち上げ記事に眉をひそめた。


「東宮妃」になるためには家柄がよくて血筋のはっきりした女性、処女であること、そして働いた経験のない人などの条件が多々あったが、幸子は見事にその条件をひっくり返した。

「大和田家」は北ノ庄の武士の家系であると発表された。

実は宮内庁がいくら大和田家の出自をたどっても、4代前までが不明であった。

なぜ不明なのかも不明なので、本来であれば「妃」の条件には当てはまらない筈である。

しかし、それを調べている間に部落解放同盟が街宣車を赤坂に持ってきて「出自を調べる事自体憲法違反で差別だ」と延々と演説し、宮内庁に直電して脅すような態度に出たため、慌てて出自を探ることは止めた。

結局は脅しに屈する気の弱い役所、それが宮内庁だった。

あの街宣車を追求したりすれば、きっと大和田哲也が乗り込んでくると本気で思ったからだ。

その代わりに「大和田家の正式な出自」として出て来たのが「北ノ庄の武家」という肩書だった。

マスコミはすぐにそちらに飛び、「本家」とされる大和田家に突撃したのだが、

「うちとは関係ありません」

「聞いた事ありません。関係ありません」

と繰り返されるばかり。

哲也には兄弟が何人かいて、長兄は歴史学者だった。

その彼が最初で最後に弟に助言したのは「嘘はいつかばれるもんだからそのへんにしとけ」だった。

その言葉に哲也は激高し

「兄貴に何がわかる。あんただって姪が東宮妃になるんだから少しは敬意を払え」と怒鳴った。

しかし兄は「親戚と言わなくていいから。その代わり祝いもしない」と言った。

この言葉に哲也は怒りが収まらなかった。

なぜそんな風に他人事になるのだ?

本来なら長兄から早々に祝いに駆けつけ、他の弟や妹達へ「祝儀を持って集まれ」の号令を出してもいいくらいだ。

それが「親戚とは言わなくていい」とは何なのだ。

他の兄弟も沈黙を貫いた。

本当は誰もが大和田家は北ノ庄の武家などではない事をよく知っていたのだ。


哲也は「何が何でも我が家は武士の家系なんだ」と自分に言い聞かせた。

幸子の学歴にしても、職歴にしてもマスコミは持ち上げるがそのほとんどは嘘で、幸子は留学してもただ一人修士論文を出せなかった劣等生であり、無論、外交官でもなかった。

結婚の花道に、と外務省が用意した総理大臣とあちらの要人との会談の通訳も途中で泣きながら投げ出してしまう娘だった。

しかし、それらの事は全部「なかったこと」にされた。


2月末。幸子は外務省での最後の日を迎えた。

少しハイになっていた幸子はいつになく機嫌がよく、同僚から「おめでとうございます」と言われると嬉しそうに「ありがとう」と答え、花束を受け取った。

幸子としてはもう得意で得意で仕方がない。

コピー番長なんてあだ名をつけられ、同僚からは避けられていたのに、そういう人たちが口々に「おめでとうございます」と羨ましがっているのだ。

「羨ましがってる」と幸子は勝手に思って居たが、実際はそんな人は誰もいない。

ただただ、課からいなくなるのを喜ぶか、今後、妃になったら威張るんだろうなとうんざりするかのどちらかだった。

幸子は父と二人で外務大臣の部屋に挨拶に向かう。

マスコミがカメラをパシャパシャやるなかで、向かい合って座る。

いつものように幸子はうつむいて笑っていた。

大臣は「あ、写真撮ってやって」とマスコミに言い、椅子にどかっと座ると「何年いたかね」と聞いた。

「6年ですがずっと大学院や留学していましたので、2年程でしょうか」

「ああ、そう。頑張って」

外務大臣はわりとそっけなく言ったが、最後の「頑張って」は大きな声だったので、幸子は「外務大臣にまで惜しまれる自分」を満喫していた。


大和田家は元々官舎暮らしをしていたが、帝が即位し、お妃候補に今一度幸子が浮上するタイミングで江田家の土地に屋敷を構えた。といってもコンクリート打ちっぱなしの冷たい印象のする家だった。

哲也は過剰な装飾を嫌い、この家で一生を送るわけでもないと思っていたのであえてコンクリートの打ちっぱなしにしたのだ。


さらに次男の為、墓を持っていない哲也は、北ノ庄の寺に大急ぎで墓を建てた。

先祖代々の墓は兄が守っていたが哲也は「大和田家」がさももう一つあるかのように、大和田何某という先祖不詳の名前が彫られている非常に古く、しかも割れ目ばかりの墓石を持ってきて、真新しい台座の上に乗せた。

哲也からすれば祖父までははっきりしている。

この「大和田何某」はその前の世代だという事にしたのだ。

何もそこまでと兄弟たちは呆れて何も言えなかった。


さらに春の納采の儀の為に振袖が必要だったが、大和田家には一枚もない。

洋服ではダメなのかと思ったが、后宮から帯を下賜され、それは菜子も付けた后宮納采の儀の帯だった。

仕方なく急遽振袖を作ることにしたのだが、呉服屋につてもなく着物のよしあしもわからない一家は、単純に「綺麗だから」という理由で金色に派手な花模様の振袖をあつらえた。

美容師に着付けに・・・次から次へと物入りで江田家から資金を都合して貰わないといけなかった。


桜が散るころ、帝と后宮の結婚記念日があり、菜子は手作りの料理を持って皇居へ向かった。

これは毎年の慣例になってる行事で、帝と后宮の結婚記念日にはは菜子と蓮宮が手作り料理を持って、ささやかな家族パーティをするのだ。

何日も前から菜子はメニューを作り、小さな理子をおんぶしながら試作をして、それを飽きても食べさせられたのは二宮だった。

また、蓮宮もやってきて二人で楽しそうに料理をする姿は本当の姉妹のよう。

「今日もまた二人の料理なの?」

二宮は理子をあやしながらため息ついていう。

「そうよ。お兄様。我慢してね」

「昨日よりはうまく出来たわ」

菜子も蓮宮も家庭的で料理や手芸が大好きだった。


そして当日。

テーブルの前に広げられたのは、金色のコンソメスープやローストビーフ、和食の総菜として肉じゃがや旬のたけのこご飯、菜子が頑張って焼いたタイのおかしらつきなどなど、大膳課も驚く程の品々がならんだ。

「こりゃあ立派だね」と東宮は驚き、嬉しそうに笑った。

帝も大変喜ばれ

「二人ともご苦労様。また腕を上げたようだね」

「そんな・・・」と菜子は謙遜したが蓮宮は「そうよ。頑張ったの」と自慢した。

「毎日同じ料理を食べさせられて大変でした」と二宮が嘆くと帝は

「こんなおいしいものを毎日食べられるのは幸せだな」とおっしゃる。

東宮は嬉しそうにウイスキーのグラスを傾けながら

「僕も幸子さんの料理を飽きる程食べられるのかしら」と言った。

みな黙っていたが后宮は「そうね。すぐですよ」とにこやかにおっしゃる。

「東宮妃になれば蓮宮や菜子妃とも仲良くしなければならないわ。菜子、先輩風をふかしたりしてはいけませんよ。あちらは兄嫁になるのですから」

いきなり名指しされて菜子は驚き

「勿論でございます」と言った。

「私もそう信じていますよ。けれど、人間というのはどこかで本音が出るものだし。なにせあちらは学歴も資産も大違いなんですからね」

「・・・」菜子は答えようがなくてうつむく。

「私達は日々忙しくしておりますし、理子もいますから兄嫁をいびってる暇なんかありませんよ」と二宮が返すと菜子は思わず目くばせで「やめて」と言った。

后宮はそれでも笑って

「そうでしょうね。心配しすぎね」とおっしゃった。

「お母さま。菜子お姉さまは人とご自分を比較したりはないませんわ」

蓮宮もぎりぎりの所でかばう。

東宮は酒が入ってご機嫌なのか「まあ、よろしく頼むよ。あちらは働いてきた人だからのんびりはしてないと思うけどね」

と、またグイっとウイスキーを飲み干した。



今回もお読み頂きありがとうございます。

大和田家の「偽り」は学歴、職歴、墓に出自・・とありとあらゆることに及んでいました。

しかし、国民にはそれがわかりませんでした。

週刊誌しかなかった時代ですから。


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