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沈む皇室  作者: 弓張 月


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49/50

婚約記者会見

いよいよ東宮ご結婚になります。

その当時は生まれていなかった方でも、この小説を読んで改めて感じる事はあるかもしれませんね。

どうぞよろしくお願いします。

1月も半分程杉田頃、「皇室会議」が開かれた。

皇室会議というのは、主に皇族の結婚などの時にメンバーで会議をしてその是非を問うのだが、メンバーは皇族が二人の他、内閣総理大臣や衆議院議長や宮内庁長官などが入っている。

大和田幸子嬢入内の件についての皇室会議。

これが終われば「内定」となり、幸子は帝と后宮に挨拶をして記者会見に臨むことになっている。

それを控室で待っている状態だった。

皇室会議はいうなれば「形だけ」のものになっており、誰も異を唱える者はいない筈だった。

が、この時春日宮は「結婚に至る経緯が不明で納得しかねる」と異議を唱えた。

これはささいな「反対」であり、誰もその「異」について説明をする人はおらず実質上聞き流しをして、多数決となり「内定」に至った。

しかし、果たしてこれは本当にささいな事だったのか。

「入内の経緯」について、他の皇族には何も知らされず報道があった後の食事会にも誘われず、宮家はみな蚊帳の外に置かれた。

大人しいお雲井宮や秋月宮は別として、大瑠璃、高砂、春日各宮家は釈然としないというより明確に「おかしいのではないか」と思って居たのである。

桃園家との縁談話は何となく耳に入っていたし、これなら誰も文句はない。

しかし、幸子は「結婚致しません」と大声で言った女性である。

それがどこをどう気持ちを切り替えたのか、いきなりの「お妃内定」である。

しかも宮内庁の面々、「経緯」についてはよくわかっていたなかった。

東宮大夫は心苦しい思いをしながら黙っていなくてはならなかったし、それが長官ともなると、今すぐ死んでしまいたいくらいの気持ちだった。


とにかく、入内は決定したのだ。

それを受けて大和田幸子と両親は皇居に参内し、帝に挨拶をした。

「おめでとう」と帝はその一言で終わってしまった。

他に何を言えばよいのか。

后宮は東宮の思いが叶ったので、ほっとしたし、本当に嬉しい気持ちでいらしたけど、実際目の前の幸子の装いには眉をひそめた。

幸子は、ツヤツヤとした黄色というか全身レモンをまとっているかのようなコートドレスを着ており、頭にはまるで「妃殿下」のようにリボン付きの帽子が乗っていた。

さらに真珠のネックレスをして大きな白手袋をはめている。

一瞬の違和感だったが、この空気の読めない幸子の本質をここで見破れなかった后宮は気の毒でいらっしゃる。

黄色・・・レモンなの?それともかの国の皇帝のおつもりなんだろうか。


「よかったですね」と東宮は幸子に声をかけ、二人で記者会見に臨んだ。

秋月宮の記者会見の時は、記者たちがすぐそばまですし詰めに座っていたが、東宮の場合は一定の距離が取られていた。

「まず、皇室会議でもって婚姻が正式に内定し、私としては嬉しく思って居ます。この間、温かく見守ってくれた方々に対して心からお礼を申し上げたいと思います。また私からの申し出を受けてくれた幸子さんに対しても心から感謝したいと思っております」

記者は「は?」と思った。

最初からこんなに低姿勢なのだろうか。東宮様は。

幸子はとにかく覚えて来たセリフを間違えないように常に節目がちにしており、

「これから大きな責任をお引き受けするわけでございますから身のひきしまる思いがいたします。その一方でこのように多くの方々に祝福頂いていることを大変幸せであると思いますと共にここに私をお導き下さった東宮様はじめ他の・・に・・・様々な形で力をお貸しくださった様々な方への感謝の気持ちでいっぱいです」

これは一応婚約記者会見なんだよね?と記者たちは思った。

嬉しさよりも身が引き締まるというのはどういう事なのだろう。


プロポーズの言葉はと聞かれて東宮は殊更嬉しそうな顔をする。

この質問を受けるのが夢だったのだ。

「鴨場でもって幸子さんに私と結婚していただけますかというようなことを申しました。その時の答えはあの、はっきりとしたものではなかったわけですけれども、その後、年末になりこの仮御所に来てもらってその時に・・あの・・私からの申し出を受けて下さいますかという風に申しまして。そしてそれを受けて頂いたというわけでございまして」

と東宮が幸子を見ると幸子は頷きもせず唐突に話し始めた。

「まずその時ですが仮御所で私から宮様には本当に私でよろしいのでしょうかという風に伺いました。で、それに対して宮様は「はい。そうです」とお答えいただきましたので、少し長くなりますけれども、私の方から次のように申しました。私が宮様の御力になれるのであれば謹んでお受けしたいと存じます。

これまで東宮様にはいろいろと、大変幸せに思える事、で、嬉しいと思えるような事を言って頂きましたので、その東宮様の御言葉を信じてこれから二人でやっていけたらと思います。

お受け致しますからには、宮様にお幸せになって頂けるように、そして私自身も自分でいい人生だったと振り返れるような人生に出来るように努力したいと思いますので至らない所も多いと思いますが、どうぞよろしくお願いいたしますというように申しました」

(随分と仰々しい。まるで結婚じゃなくて転職記者会見みたいだな)と誰もが思ったが、終始下を向いていた幸子は顔を上げ舌で口の中を舐めるようなしぐさをしたので、みな一様に驚いてしまった。

次の質問は「固辞したけどその心の葛藤は」というもので、この時も幸子は横の東宮を見るでもなく、唐突に話始める。

「あの、私がご辞退申し上げたことがあるかどうかという事について」と今にも吹き出しそうに

「今私の方から申し上げるのは差し控えますが、あの、確かに私はその・・外務省で大変やりがいのある仕事をさせて頂いておりましたのでその仕事・・やめるべきかどうかという事についてだいぶ悩んだことはございました。ですからこの新しい決心をするまでに十分な時間が必要だったという事でございます」

隣の東宮が少し笑って幸子を見たが、幸子は東宮を振り返ることはない。


何となく空気が乾いてきたような気がする。

どのセリフも全部父が考えたもので、特に「外務省でやりがいのある仕事をさせて貰って」の一文はマスコミ向けに「わざわざ外務省を辞めてまで結婚してやるぞ」と恩を着せるのに十分だった。

「宮様にお幸せになって頂けるように」とは、また大きく出たものだ。高学歴の官僚というのはこういうものなのだろうかと記者たちは白けたが、これはおめでたい記者会見であるので飽きた顔は出来なかった。




幸子さんの「黄色」は衝撃的でした。

つやつや光って。今まで妃になる方はどなたもこんな色は使った事がないだろうというような感じで。

違和感も国民の間に伝わっていたけど、声を大きくしては言えなかった時代です。

さあ、いよいよ終わりの始まりになっていきます。お楽しみに。

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