保留検討
前話
ルズベグの提案をオーガ村に伝える
村の東に待機していたオーガ一同は、俺の姿を見てほっとした様子だった。
「ハヤト様、いかがでしたか?」
「ミンカブ、皆を村の広場に集めてくれ」
「想像していなかった話ですな……」
ミンカブは絞るようにつぶやいた。
「もし本当であれば、我らの同族と合流できるわけか」
セフは腕組みをしながら空中を睨んでいる。
ルズベグとの会話の内容を聞いたオーガたちの反応はさまざまだった。
「ここにきて良い知らせばかりですな! 安寧の地をようやく得られると思うと感無量です!」
「本当の話なのでしょうか……」
「我らにはハヤト様がいらっしゃる。本当であってもそこに行くべきではない」
まとまりそうにない雰囲気のため、一度断ち切るように声をかける。
「夕暮れも近い。相手も待たせているし、オーガの集落があること自体は、もう連中はつかんでいる。数名連れていって判断してもらおうと思う」
一同の総意でミンカブ、セフ、オーセが向かうことになった。
「検討する必要ないと思いますけど」
「私もそう思う」
なぜかアオイさんと八木ちゃんは機嫌が悪そうな様子だ。
「無理を聞いていただき感謝します。ルズベグと申します。他のオーガ一族と違って、随分変わったお召し物ですね?」
ルズベグはにこやかに俺たちの再訪を迎え入れた。すでに兵士は遠目に野営の準備をしており、ルズベグの傍には三名しか残っていない。服については俺のプレゼントだと説明し、ミンカブから話すよう視線を送った。
「一家のミンカブと申します。お話は聞き及んでおります」
『一家』という言葉を使ったのはミンカブの慎重さだろう。
「かつてのオーガはラウドル公の『粛清』によってだまし討ちにあった経緯もありますので、信じがたい気持ちもございましょう。何かご不安な点や質問はありませんか?」
「他の土地のオーガを保護していただいているそうですが、その場所についてお聞きしてもよろしいですか?」
早速ミンカブは質問をした。
「はい、まずはそのコルカラ島。もともと私の領地に含まれる海域で探索を命じられ、討伐よりも隠れ里として過ごしてもらおうと思ったのがきっかけです」
ルズベグはすらすらと保護した一族の場所を説明していく。
「それからは人員増加のため、オーガ討伐に積極的に志願しては受け入れをしました。次に保護させていただいたのが、シャモントブラ渓谷の洞穴に住んでいた一族です」
どうやら各地のオーガは住む場所もそれぞれ工夫していたようだ。
「次がチハニ東の森。そして一番最近なのがバトラシュテット山です」
「ルズベグさんがオーガさんについてご存知のこと。たとえば風習とか生活とか種族の特徴とか、教えてください」
なぜか八木ちゃんがくいつくように次の質問をした。
ルズベグは俺たちが知っているようなこと以外にも、さまざまな知識を披露した。
「それと『腹が痛いと雨も降る』というオーガのことわざを教えてもらいました。悪いことは重なるものだという意味だそうですが、軍属の身だと全く同じ状況になることが多くて、気に入ってます」
『泣きっ面に蜂』みたいなもんなのだろうか。ルズベグの笑顔につられてセフがにやっと笑ったので、本当にオーガが使うことわざなのだろう。
「こんなところでしょうか。もしこの場以外にもいらっしゃるなら、今晩検討していただければと思います。私たちもここで一晩野営ですので、翌日の昼までに教えていただけますか?」
「もしもお断りした場合、そちらはどうされるのでしょうか?」
ミンカブが追加で質問した。
「別に何もしません。人里に出てこないでいただければ討伐と変わりませんからね。討伐報告用に、使い古した衣服か……いや頭髪の方が良さそうですね、頭髪を切って束にしたものをいただければ幸いです。」
特攻服やエナメルボンデージが報告用に適してないと気付いたのだろう。
ミンカブは少し考え込み、口を開く。
「明日の昼までに返答するのは難しいかと思います。御察しのとおり、この場にいない者がわずかですがおりますし、一晩で決められません。頭髪については今ここでお渡しできますので、刃を貸していただきたい」
ルズベグは残念そうな顔をしたが、すぐに顔色を戻した。
「ではこれをお使いください」
ルズベグは短刀の刃をもって、柄をセフに差し出す。受け取ったセフは、充分につかめる長さの髪をざっくりと切り、短刀と共にルズベグに渡した。
「ありがとうございます。よかったら、人里に出てこないこと、今後また報告用の頭髪などをいただくことを条件に、物資の支援もいたしましょう。何か欲しいものはありませんか?」
ミンカブが俺のほうに視線を向けた。
「それなら工具と調味料が欲しいですね」
「硬石鹸もほしいです」
俺の希望に八木ちゃんも便乗する。
ルズベグは、野営に使うために持っていた工具をいくつかその場で渡してくれた。
「調味料については一度町に戻ってからですね。五日後の夕方にまたここで野営しますので取りにきてください。塩、胡椒、石鹸とそれといくつか食料などをお持ちします」
「ご厚意、感謝いたします」
ミンカブは鎖骨に手をあてる礼をした。
「当面はこのような形でたまに物資支援を持ってきても構いませんので、先ほどのお話もゆっくりと検討してください。チハニ東の森の一族の方も、何度か物資をお送りしてる間に検討してもらいましたので」
ルズベグは終始にこやかだった。
集落に戻り、その日の夜は灯りをつけないように周知した。そこそこ近い距離でもあり、念のために見張りも順番に立てたが、特に異常はなく、翌日は野営地もすっかり空となっていた。
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