ルズベグの提案
前話
ルズベグと対面
「オーガの集落とはなんのことですか?」
演技力には自信がないが、全力でとぼけてみた。
「はは、お互いに腹を割って話しませんと、無駄な時間が多くなります」
「そう言われても、オーガの集落なんて知りませんが」
あくまでとぼけ倒す路線の俺に、ルズベグは軽く残念な表情を見せた。
「では、先にハヤト様への用事からお話しましょう。率直にお聞きしますと、何者で何が目的なのか、ですね」
言葉通りの率直な質問に面食らうが、その場で煙に撒ける自信もない。
「信じてもらえるかはわかりませんが、俺たちは異なる世界から来ています。天の使いから『救われない魂の安寧のために引き受けてほしい』と言われ、先日こちらに着きました」
「突拍子もないお話ですが、信じましょう。救われない魂は誰のことで、どのように救うのでしょうか?」
とにかく話が早いのを好む男のようだ。
「それは具体的には聞いてないですね。ゆっくり見極めようと思ってたら、町で騒ぎを起こしてしまったので。救うための力を教えるのは勘弁してください」
ヒールやキュアについて教えるのは現時点ではリスキーだと判断した結果、このような言い方になった。
「その一つがお仲間の巨大な猫に変身する力で、人相書どおりであれば、そちらの女性ですね?」
「そうです」
打ち合わせでここは隠さないと決めていたため、八木ちゃんが素直に認める。
「そのとおりです。ただし誓って言いますが、俺たちは世を乱すつもりはありません。もめごとになったのはこちらのせいですが、相手の暴力に仲間が腹を立ててしまってあのようになりました」
「お騒がせしてすみませんでした」
俺に続いて八木ちゃんも謝った。伝わるかどうかはわからないが、これは偽らざる本音でもある。
「わかりました。こちらも人数を見てわかるとおり、手荒なことを目的として来ているわけではありません。では次にこちらからの提案です」
提案の内容を話し始める直前に、また左右から七名ずつの小隊が現れ、副隊長らしき男が後方待機を命じていた。どうやら、合図の狼煙を拡散し、それをたどって発信元に集合する運用らしい。外周側にいた部隊がここを目指して集まっているようだ。
「話を中断してしまい、申し訳ありません。では提案なのですが」
ルズベグは咳払いをして再開する。
「ハヤト様とオーガの集落を保護させてください」
「保護……ですか」
できれば話を聞いてもらいたいと思っていた部分もあるが、オーガの保護などとは思ってもなかった提案で、面食らってしまう。
「はい。魂の救済を目的とされているのであれば、大陸で広く信仰される創世教のもとで活動されるのがよろしいかと思います」
町で聞いた話、オーガから聞いた話で判断すると、正直、創世教に力を貸すのは目的に反する。なるべくやんわりと断りたい。
「力を組織のために使うように求められると、天の使いの意にも反してしまうので……」
しかしルズベグはなかなかに押しが強い男のようだ。
「創世教がドムンド帝国を支え、さらには大陸中で広く信仰されるようになって、永きに渡る戦乱が終わっております。民の安寧は創世教の教義そのものです」
「……それでも、すみません、今のところはそちらにお世話になることはできません」
あまりスマートな断り方ではなかった気もするがしょうがない。
「いえ、こちらの世界に来られて間もないのであればご存知なくて当然です。ですので、返答を急ぐこともいたしません」
「理解してもらえて助かります」
どうやら俺たちだけ言うなら、逃亡はこれで一区切りということにはなりそうだ。
とはいえオーガたちと別行動をするわけでもないので、ここからが話の本番かもしれない。
「では次にオーガの保護についてです。ご存知かどうかわかりませんが、実はオーガは人間からは討伐対象となっています」
「それは町で聞いて知っています」
「ですから、人里近くで目撃されてしまうと私どもも捨て置けません。ただし先ほどもお伝えしましたが、私は手荒なこと、血なまぐさいことは苦手です」
オーガの集落など知らないと言い張った俺だが、ルズベグは無視して話を進めている。
「実は私は教会職のみならず、帝国の騎士爵でもあり、領地を持っています。……おい、あれを出してくれ」
ルズベグは後方の兵士の荷物から小さな陶器の瓶を取り出し、中の茶色い粉を手に取ってぺろりと舐めた。
「毒味済みです。これは私の領地の特産品です」
それからひょいと瓶を投げてよこした。開けて同じように粉をなめてみる。
「砂糖ですね」
「はい。私の領地の一つ、南洋のコルカラ島は地形と海流の影響で、門を構えた港からしか入港できない自然の要塞になっています。まあ、地図にも載ってませんけどね」
「そこにオーガたちを保護するということでしょうか?」
「そのとおりです。オリーブ、さとうきび、ぶどう、サフランの花などの栽培、それとワイン蔵をしてもらってます」
ルズベグは驚くべきことを言った。後方の兵士も目を大きく見開き、驚いた表情をしている者がいる。




