対策
前話
森に軍が入ってきたことを知る
ざわざわと動揺が広がる中、姿を戻したアオイさんが詳細を話しはじめる。
「いつもどおり、まっすぐ西に偵察に行きました。まだ西の支流までの距離の四分の一もいってないと思います。七人組で一人は猟犬、一人は鷹を連れてます。他は兵士の服装でした」
「たった七人?」
拍子抜けする人数を聞き、周囲に安堵の色が広がる。
「そばに行ってしゃべってる内容を聞こうと思ったんですが、鷹を飛ばしたり、戻したりしてるので近寄れなくて……」
「無理はしなくて正解じゃ」
「鷹匠もいるとなるとやっかいですな……一度見つかったら、しばらく上空から居場所を捕捉され続けるでしょう」
ミンカブは追われた経験がありそうな口ぶりだ。
「七名っていうのは意図が全くわからないな。目当てが俺たちだろうが、オーガの集落だろうがどっちにしても少なすぎる」
「手分けして探してるのかもしれないにょろ」
「と、なると行って帰って来たばっかりで悪いんだが……」
「はい、報告も済みましたし、もう一度行って来ます。手分けしてる人たちが他にもいるかどうかを見ればいいんですね?」
「すまない、助かる。もし夜通し進んでくるようであれば、明日にでも見つかるかもしれない。そうなる前にはまた戻って来てほしい。それと、近づいて危険な状況になるのは絶対に避けてくれ。鷹とインコじゃ相手にならないし、人間に戻ったとしても厳しそうだ」
「はい、気をつけて行ってきますね。心のエネルギーの補充が必要なので、よしよしされたいです」
周りの目が少し気になるが、このワードには逆らいづらい。
アオイさんは気持ちよさそうに頭を撫でられながら、昼飯の芋に使うグリセリンをどかどかと出し、一つを自分で吸いながら飛び立っていった。
「規模はまだはっきりしてないが、鷹と猟犬ってことは、このまま連中が進むと、この集落は発見されそうだな」
ミンカブとセフと那須じいが同時にうなずいた。
「ミンカブ、この集落を引き払う場合、ドルバ河を超えて王国側に逃げることは可能なのか?」
「準備なしでは危険でしょうな。本流はどこもそれなりの深さがあり、川底にはヒガンマスの住処があります。そこを歩くと噛まれて毒にやられるものが出るでしょう」
ミンカブの説明にセフも補足を入れる。
「泳いだ経験がない者もいるので、足がつかないところも不安材料です。ここ数日は好天が続いてますが、今は初夏で、本来最も川が深い時期です」
「心配ないにゃ、トラ美が大木いっぱい折るにゃ、くくってイカダにすれば楽勝にゃ」
「クサガモも繋いで連れて行くことになるじゃろうし、イカダは急ぎで作ろうかの」
「河を渡って逃げたとして、向こうも似たような森が広がってるのか?」
「森については同じようなものです。一応、河は国境でもありますので、王国側の方が安泰だとは思いますが、サルナシ高地のような採集物が豊富な土地があるかどうかは存じ上げませぬ」
「相手がどうなってもいいなら、トラ美が全部蹴ちらすほうが楽だにゃ」
「それは無しだ。結局大軍が次にやってくるだけだし、死人が多数出るのは天使の依頼に反する」
俺の否定にオーガたちがざわめく。
「さすがはハヤト様だ」
「自らに敵する者まで思いやる慈悲深さ」
オーガたちの俺を見る目が熱い。
「じゃが逃げるにしても、今からでなくてもいいと思うぞい。最悪逃げることになっても、連中は縛り上げて、野営道具あたりはいただくほうがよかろうな」
那須じいの提案にオーガたちはまたもざわめく。
「さすがはオジキだ」
「いかなる状況でも忘れない貪欲さ」
だんだん那須じいの性格も知れ渡ってきているということだろう。
「集落に連中が来るまで待つのは、とっさの対処ができそうにない。逃げることも視野に入れて、荷造りが必要なものはしておいてくれ」
全員がしっかりとうなずいた。
「では、腹が減ってはなんとやらじゃ、ささっと昼飯を済ませようぞ」
「同感だ」
早飯の後は那須じいからロープの結び方をオーガと共に教わり、いかだを作った。
アオイさんが戻ったら、浮力の補助として空にした大容量のローション容器を亜麻布につめて、底面に縛る予定だ。
アオイさんは夜に戻って来た。
「西の支流までの距離のだいたい半分ぐらいのところで野営をしていました。今日はもう移動はしないようです」
「ってことはだいたいここまでの距離の三分の一ぐらいか」
「はい、そこから二キロぐらいの間隔でたき火が見えました。北に六組、南に四組、正面の組とあわせて全部で十一組だと思います」
「合計七十七名か。那須じい、どう思う?」
「どの組も進行方向に向かって、左右一キロずつを担当しながら進んでおるわけじゃ。生活範囲でついてしまう臭いや鷹の探索力を考慮すると、本当ならもう少し広げてもいいじゃろう。それに進むペースもかなり遅い」
「つまりは絶対見落とさないことを重視で、しらみつぶしに森を探すつもりってことか」
「じゃろうな。もしくは何か理由があって森の中央にあたりをつけておるんじゃろう」
「明日も同じ距離を進んでくる場合、西の支流で野営か。同じペースとも限らないし、明日の夕方にこっちから向かおう。俺と八木ちゃんとヤマトとピピで行く」
「接触は明日になりますか。我らの集落を探しているのか、ハヤト様を探索しているのかがわからぬ以上、我らは同行せぬほうがよろしいですか?」
セフの質問には那須じいが代わりに答えた。
「それがいいじゃろう」
見張りを立てようかと思ったが、トラ美の聴力だけで問題ないそうなので、全員に早めに就寝するように伝えた。
明日は午前はオーガたちにイカダ慣れをしてもらおう。




