クサガモ大作戦2
前話
果物狩り
「あぁん……、そんな、何度も、ひどい、あぁご主人様ぁ……」
昼間から入り口を締め切った室内で、ロウソクの光のみに照らされた白い肌が震えている。
両手両足は繋がれていて、身をよじる抵抗も意味をなさない。
身にまとっていた網の衣装が肩口から首元へ、そして胸元から股下へ順番に引き裂かれ、剥がされていく。
肌が露わになるほどに、嬌声も大きくなっていった。
俺はそれを見下ろして声をかける。
「この手順と体勢、どうしても必要?」
この日は朝、狙い通りの成果を見つけて始まった。
「おっ、卵だ」
家の玄関口につないでいたクサガモは卵を産んでいた。
排卵魔法をかけられてから一日と一晩程度だったので、にわとりとそう変わらないのかもしれない。
クサガモたちは傍にある牧草を食べたり、その草で巣を作ったりなどしていてなかなかに愛らしい。
体が小さい鳥にしては大きな卵を産むようで、ガチャガチャのカプセルぐらいの大きさだ。
「オーセ、クサガモが卵を産んだんだが、これはオーガならどうやって食べるんだ?」
「殻を割って飲んでるね」
朝食時に聞いてみたが、返ってきた答えはやはりワイルドだった。
とりあえず、竹の容器でゆで卵にしてみたが、にわとりの卵と変わらない味だった。
これはできれば量産したいところだ。
「と、いうわけで今日はクサガモ大作戦を行う。これがうまくいけば卵が安定して手に入る予定だ」
「わーぱちぱち、余るぐらい取れるようになったら髪にも使いたいな」
「楽しみですね」
「たくさん飼育するなら囲いと屋根が必要じゃな。訓練兼ねて、わしとオーガ男衆で引き受けようぞ」
そういえば捕まえたあとのことを考えてなかった。こういうとき、那須じいは頼りになる。
「じゃあ那須じいは別行動で頼む。俺たちは捕獲だが、死んでなきゃヒールで治せる。多少手荒くなっても大丈夫だ。トラ美とにょろ助で頼むぞ」
「まかせるにゃ」
「頑張るにょろー」
「捕まえたクサガモの足に紐をつけるのは私がやりますね」
今日中に三十ぐらいは捕まえたいところだ。
「うまくいかないにゃ……」
予想に反して捕獲は困難を極めた。
にょろ助の温度感知で樹上にいるクサガモを把握し、トラ美の猫パンチで楽勝だと思っていたのだが。
「木の上のも近寄ると逃げてしまうにゃ。追いかけて叩いても、小枝や葉っぱを突き破る力でパンチするから、カモが全部死んでしまうにゃ」
無意味な殺生にならないよう、後でスタッフが美味しく――美味しくないらしいが――いただく予定の死亡したクサガモは、もう四羽になっていた。
「死亡確定の怪我でも、痙攣している間にヒールすれば大丈夫だろう」などと考えていたのは甘い目測だった。
これは今後の味方の怪我を治すにあたっても慎重になる必要がある。
「ピピちゃんの姿で横までいって、上で変身して捕まえてみます」
アオイさんも提案してくれたが、こちらもうまくいかなかった。
ピピのほうが小さいにも関わらず、警戒心の強いクサガモは近寄る前に逃げてしまうのである。
「昼飯時だし、いったん作戦タイムだな。ミンカブに追加質問だ」
「ふむ、やはりクサガモの警戒心はやっかいですな」
「何か殺さずに捕まえられるいい案はないだろうか。なくても、生態についてもう少し詳しく知りたい」
ミンカブはいつもの癖で眉間に深いしわを寄せながら言う。
「案は私も思いつきませんなあ。すでにご覧になってきたでしょうが、若い芽や葉がたくさん生えた細い枝の木を好んで住みかに選ぶようです。安全と食料面の両方でしょうな」
「鳥なら巣箱を作ってはどうじゃ。夜行性じゃなければ、夜間は飛んで逃げようとはせんじゃろう。入りさえすれば巣箱の入り口を塞いで捕獲できそうじゃがな」
「工具がな……」
「それは言えてるわい。板を作ることもできんからのう」
「巣箱じゃなくて……『巣網』、ならどうでしょうか?」
アオイさんが期待に満ちた目で提案してくる。
「網か……時間がかかりそうだが、網で入り口以外囲われた空間が作れればいけそうだな」
「時間はそれほどかからないと思います」
アオイさんは俺の正面にくっつきそうなほど体を寄せ、人差し指でくいとキャミソールの胸元を引っ張り、着ている下着を俺に見せてきた。
「この網下着を切って開いて繋げましょう。繋げるところは木々に紛れ込ませやすいよう、さっきの木の細いつるがいいと思います。八木さん、採ってきてもらっていいでしょうか?」
「うん、じゃあ二人で網を必要な分切っておくのをお願いね」
「じゃあ出して脱いでの繰り返しか。家の中で、とりあえず三十着ぐらいでいいか。準備できたら持ってきてもらっていいかな」
しかしアオイさんは俺の発言を聞いてぷいと顔を背けた。
「アオイさん?」
「でも本来の使い方はSMグッズです」
「ここまでほぼ別の用途だったと思うが……」
「はい、でもずっとそればかりはあんまりです。心のエネルギーが無くなって、出せなくなってしまいそうです」
「そういうシステム?」
「はい、そういうシステムです。グッズだって一回も本来の使い方をしてもらえないのは報われません」
日頃、偵察に料理に洗濯に働き詰めのアオイさんから初めてわがままを言われて、拒否できないところも感じていた。
「三十着を使うといってもなぁ……」
「大丈夫です。手早く使えて、目的通りになりますから」
アオイさんはにっこりと笑いながら言った。そして冒頭の状態にいたる。
「上から下まで切り開かれて、この上なく本来の使い方です。それに網にするために、もともと切り開く予定ですから」
アオイさんは荒い息のまま、それらしい理由を言っている。
「……この拘束台の必要性は?」
「私が暴れて怪我しないためにも必須です」
「そもそも引き裂いて開かなくても、出てきた状態のまま繋げていくほうが強度もあるんじゃないか」
「でももう半分は終わってますから。残り半分頑張っちゃいましょう。八木さんのほうももうすぐ終わって戻ってくると思いますし」
「理由になってない気もするが……」
「マンネリ気味なら追加でもう一、二種類道具を追加しましょう」
「それはやめとこう」




