クサガモ大作戦1
前話
訓練とオーガの服
夕飯は盛大に肉祭りとなった。串焼きの肉が焼けるのを待ちながら、またもトラ美の賛美歌の合唱が始まる。
俺は少し離れたところにいるミンカブと捕まえた鳥について話していた。
那須じいも全く知らなかった鳥だが、ミンカブはすぐに教えてくれた。
「この鳥はクサガモといいます。植物が多い陸地なら大陸中どこにでもいる鳥ですが、その中でも森に住む種ですな」
「味はどうなんだ?」
「味は鳥にしては臭みが強いですな。残念ながら食べられる部分が少なく、肉質も固いものです。あまりうれしい獲物ではありませんが、今までの我らであればごちそうでした」
肉の部分が少ない鳥なので、ダシ的な使い方を考えていただけに『臭みが強い』情報はがっかりだ。
「けっこう獲れるものなのか?」
「さっぱりです。耳がかなりいいようで、近寄られる前にさっさと木の上に上がってしまいます。投石などで狙っても骨折り損のくたびれ儲けになりがちですし、食べるものもそこらの草なので、罠にかけることも困難です」
「そうか……あまり獲物としての魅力がなさそうだな」
臭い、小さい、獲りにくいではこだわる意味も無さそうだ。
「ただ肉は臭いのに、卵は美味ですな。春は木の上に巣を作り、そこで卵をかえします」
「なるほど。それなら鳥を食べるより、たくさん卵を産んでもらったほうがいいのか」
「それがなかなか難しいものでしてな。卵もあまり狙えません」
ミンカブは苦々しい顔をして頭をかきながら続ける。
「巣の場所です。クサガモはなるべく高くて枝が細い場所に巣を作るんですな。ですので、狙うなら子供が採りにいかなければいけません」
「じゃあ子供が頑張りすぎると細い枝が折れて、転落事故になるわけか……」
「そのとおりです。かといって先端を曲げた枝などでひっかけ、こちら側に寄せようすると、巣が傾いて卵が落ちてしまいます」
少考して、思いつきを挙げてみる。
「巣がついてる枝を折って降ろすのはどうだ?」
「揺れて卵が落ちるでしょうな。慎重にゆっくりと折ればいいのでしょうが、産んでから卵がかえるまでの日数も短いです。時間をかけて可食部がほぼ無いヒナだけだったときの徒労感たるや……」
「ということはすでに試したことがあるってことか」
ミンカブは眉間に深いしわを寄せながら大きくうなずいた。
「昨日のセフの話でもご理解いただけたと思いますが、我らも決して、何もせずこの窮地となったわけではありませぬ」
「いや、それはもちろんわかってる。なにか安定して食料自給ができるネタがないかと思ってさ。いろいろ教えてくれて助かった」
「もったいないお言葉です。なにかあればお手伝いさせてください」
ミンカブとの話を終えて、俺は一人で考え込んでいた。
卵がうまいなら、養鶏ならぬ養ガモ……とはいえ卵が採れるのは春だけ、か。
「あ」
閃いた俺は追加で肉を焼く手伝いをしていた八木ちゃんに声をかけた。
「八木ちゃん、排卵コントロールの魔法を頼みたい。排卵を止めるほうじゃなくて排卵させるほうだ」
八木ちゃんはびっくりした顔のあと、目をつぶってお腹に手を当ててほほえんだ。
「う、うん……。とうとうだね。私、元気な赤ちゃんを産むからね」
「違う」
逃げられないよう足に紐をつけていたクサガモを、目線の高さに持ち上げる。
「こいつにかけてみてくれ」
「あ、なるほど! 飼育して卵を産ませるってことだね!」
八木ちゃんが手をかざすとオレンジの光がクサガモを照らした。
「はい、これで大丈夫」
「ありがとう。体の中で卵が大きくなって産まれるまでの期間はどれぐらいだろうか」
「知らないっピー!」
「わからないなあ。那須おじさん知ってる?」
「そもそもこの鳥のことを知らん。じゃが地球の養鶏場のにわとりは四日に一日ぐらい産まない日があるそうじゃ」
「ってことは三十二時間に一個ペースか」
メス鳥の四分の三の卵が毎日食べられたら大きいのではないだろうか。
もっとも排卵魔法が前提になる以上、これも支援Bにはなりえないが。
「卵は栄養的にも料理のレパートリー的にもでかいのう」
「でも調理器具と調味料がないと他のお料理はむずかしいですね」
アオイさんがしみじみとつぶやいた。
「これだけ使ってると、塩も胡椒もすぐなくなりそうだにゃ」
たしかに塩と胡椒はなんとかしなくてはいけない。さすがにどちらもSMグッズでは出てこないだろう。
「オーセ、この集落は今まで塩はどうしてたんだ?」
「うちらの集落に塩はないね……塩っけをとるなら獲物の血だよ。血抜きするとき、竹にいれておいて後から飲むんだ」
やはりオーガは見た目どおり、ワイルドだ。
「ふむう、塩が固まっておる湖なぞ、近くにないかの?もしくは岩肌から塩が出てくるところはどうじゃ」
「湖や岩から塩……うちは見たことないよ」
「調理器具もなんだが、無いものをなんとかしようとするより、買うほうが楽かもしれないな」
オーセが困ってしまった雰囲気になっているので、助け舟を出した。
「お金はどうするにょろ?」
「何か町で売れそうなものを持っていって、売れたお金で買ってくるしかないな」
「簡単そうに言うが、失敗しそうな気しかせんぞい」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
まあ次の貨幣振込までちびちび使って、それから買いに行ってもいいだろう。
今晩も夕食の時間はにぎやかに過ぎていった。




