責任感
前話
焼肉天使トラ美ちゃん
遅い昼飯が終わると、オーガたちにはまた昼寝をうながした。
「トレーニングなら任せておけ」と那須じいがうるさかったため、内容には口出ししない。今日は夕方から少し体を動かすらしい。
那須じいは栗田と昼寝。
ピピは一日二回ほどの西の偵察へ向かってくれている。
俺と八木ちゃんは二人で集落の周囲を歩いていた。
「えへへ、二人きりだね」
「そうだな」
「手をつないでもいい?」
気恥ずかしさもあって無言で左手を差し出した。
「ふふ、小学生のときぶりだね」
「そうだな」
仲良くなりだした小学二年生のころは、今みたいに手をつなぐことも多かった。
学年があがるにつれ、同級生に冷やかされたりして敬遠するようになっていたことを思い出す。
八木ちゃんを結婚相手として受け入れているのに、手をつなぐことが恥ずかしいなど、俺はそのころから成長していないのかもしれない。
八木ちゃんはぽつりとつぶやく。
「わたしんちの庭で見つけた仔猫たちのこと、思い出してた」
「クロエの子か」
俺は前世で世話していた黒猫のことを思いだす。
「うん、親からも先生からも『動物愛護センターに電話しなさい』って言われて、どうしたらいいかわからなかった」
地方自治体にもよるが、俺達が住んでいた市の野良猫保護施設は、一週間程度の引き取り手募集のみしかしてくれない。
それが過ぎれば安楽死となってしまうことを、八木ちゃんも俺も知っていた。
「私、何もできなくて悔しかった。でもハヤト君が『絶対なんとかする』って言ってくれて本当に嬉しかった」
両親の動物病院と野良猫保護団体のネットワークを頼って募集をかけ、最終的に仔猫は全匹、信頼できそうな里親が見つかった。
そして母猫のクロエだけは安心できそうな引き取り手が見つからず、親に頼んで俺が世話することになったのだ。
「大したことはしてない。なんとかしてくれる人の力を頼っただけだ」
八木ちゃんは俺の顔を見てくすりと笑う。
「そういうところが、好きなんだなあ」
もう片方の手も俺の左手に添えて八木ちゃんは続けた。
「今だって、オーガさんたちに何をしてあげられるか、ずっと考えてる」
俺もかなりわかりやすい人間のようだ。
「クロエちゃんのとき、私は何もできなかった。けど今回は私にできることをがんばりたいの」
「オーガたちを猫扱いするのはどうかなと思うが……でも頼りにしてるよ。助けられてるのは俺のほうだ」
帰り道を歩いていると、前方の木の根元で動くものが目に入ってきた。翼が折れた鳥のようで、力なく羽ばたいてはすぐに地面に落ちてきている。見た目は細いカモのようだ。
日本ではこの状況で「食料だ」とは思わなかっただろうが、やはり環境が変わると人間も順応するものらしい。拾いあげて持って帰ることにした。
「この鳥を治せば、鮎の友釣りみたいに同じ鳥を捕まえたりできるかもしれない」
今は支援Bのとっかかりを得るためにも、いろいろ試したり情報を集めたりするべきだろう。
「夕方は、ぞうりの作り方を女性陣に教えてあげようかな」
「それはすごく助かる。さすがに裸足は危険だしな」
夕方、八木ちゃんはオーガの女性陣を集めてぞうりの編み方を教えている。
材料は屋根の柳を乗せるのに使っている葛のつるだ。
オーガたちが森で集めて乾燥させていたため、材料には困らなかった。
問題は制作のほうらしい。
オーガは手先が器用ではないとセフは言っていたが、器用であっても難しそうな編み方で、俺も横で見ているだけで諦めた。
「手順の本とか動画を見たりできないから、オーガさんたちも大変だと思うよ。気長に、毎日一足ずつ一緒に作っていくことにするね」
「そのうちには覚えられそうだな。ありがとう」
「そしてこれは旦那様にプレゼント!」
アオイさんの出す綿の紐で俺用のぞうりを作ってくれていたようだ。
「ありがとう、足の開放感がいい感じだ」
「うふふ、また作るからいつでもいってね」
こういうのを果報者というのだろうか。
はき心地に満足しながら、那須じいとアオイさんのほうに足を運ぶ。




