キュアの使い方その2
前話
森を東進中
アオイさんが調理をしている間、那須じいは栗田のブラッシング、八木ちゃんは近くでハッカを集めていた。俺はと言えば、変わった形の芋を見つめながら考え事をしている。
「この芋……いっぱいあるのに食べられないのはもったいないな」
にょろ助が見つけた芋は、前世では見たことがなかった。平べったく、真ん中がへこんだ形をしていて、味はエグみが強い。
食べた直後に那須じいが痙攣と嘔吐を起こしてしまったので諦めていた。地中に芋がある事を示すつるは、野営場所の周囲の木にもたくさん巻きついていた。
実は掘ってみるといくつか種類があって、種類によっては食べられる、などはありえるかもしれない。
俺は立ちあがって、鉈をてこにして芋掘りをする。
しかしいくつ掘っても、形もエグみを感じる臭いも一緒だった。
そういえば、ジャガイモは芽が出ると毒性を持つんだったな。それならこの芋も、時期が変われば食べられるだろうか。
そんな事を考えながら芋を眺めていると、ふと閃いた。
「芋にキュアをかけたらどうなるだろうか」
思わず声に出してしまう。
「お芋にですか? お芋の病気が治るってことは、うーん、腐った食材が食べられるようになったりするんでしょうか」
独り言に反応してくれたアオイさんは、考え込みながら言った。
「試してみるか」
へこんだ芋を二十個ばかり置いている場所に手をかざしてキュアをかけた。光が消えた後、芋を割ってにおいを嗅いでみると、先ほどまでのツンとする臭いは消えている。
「これはビンゴなんじゃないのか」
アオイさんに頼んで少し焼いてもらい、那須じいに食べてもらった。
「いけるわい! メークイン系のじゃがいもに近い味じゃ」
アオイさんは早速へこんだ芋を切りはじめた。
「つまりキュアは食材の解毒もできるってことだな。その場合は俺、つまり人間にとっての毒性って事だろうか」
「それじゃと、人間にとっては毒じゃないが、他の動物にとっては毒になる成分は消せない事になるのかのう」
「わからんな。今のところは確かめようもない」
戻ってきた八木ちゃんに話の内容を説明すると、今度はにょろ助が閃いたようだ。
「ボクの神経毒を川に流すにょろ。多分、しびれた魚がいっぱい浮いてくるにょろ」
「なるほど。それで掴み取りした後、キュアで毒を消してから食えばいいのか」
善は急げだ。少し暗くなりかけていたので、急いで大きくなってもらう。にょろ助は牙を紫色に光らせ、どばどばと毒液を出してくれた。
「でも考えてみれば、この毒は口から胃に入っても効かないんじゃないか?」
経口摂取が有効な毒なら、口内で毒を出すにょろ助がなんともないのは合点がいかないからだ。
「それはその通りにょろ。でも魚は口からだけじゃなくて、エラから血管にも吸収してしまうから、効くはずにょろ」
「確かにそうだな」
そしてこっちも実験成功だった。流れがゆるくなったあたりに、木製のボウル一杯に満たした毒を流すと、三十秒もしないうちにたくさんの魚が浮いてきた。
「見た目はアマゴっぽいな」」
「今日はごちそうだにゃあ」
トラ美のテンションが高い。トラ美は鮭が大好きだった。これがアマゴなら味も似ているはずだし、きっと大好物になるだろう。
持って帰ると食べきれないぐらいの食材になってしまった。手頃な太さの枝を突き刺し、アマゴを焚き火の周りにセットする。念のためにキュアもかけておく。
今日はかなりのごちそうになった。
「カモシカ肉のハッカ焼き、臭みもなくてうまいな」
「ライ麦粥の自然な甘みと、アマゴの塩焼きが、お互いを引き立ててます」
「お芋のオリーブオイル炒め、ほくほくで美味しいね。塩と胡椒のシンプルな味付けがいい感じ」
「にゃおぉぉおん、魚うまいにゃあ」
飯が美味ければご機嫌になる、というのは異世界に来ても変わらないようだ。森に入る時は先行き不安でしかなかったが、みんなで力を合わせるサバイバルも、なかなかに楽しいものだ。
「まだまだ魚も芋も残ってるな、取りすぎたか」
満腹になったお腹をさすっている時だった。
「川の方から足音にゃ、四人いるにゃ」
八木ちゃんがトラ美の瞳に変わり、耳もピコンと立っている。
おかしい。追っ手なら俺達が来た方向から来るはずだ。まさかもう囲まれてるのか。そう考えた矢先、足音は無造作に近づいて来た。
鉈を掴んで立ち上がる。現れた長身の四人組は、褐色の肌で手には槍を持っている。頭には短い二本の角が生えており、異種族だとすぐに判断できた。
「ここからすぐに立ち去るなら、命は取らない」
先頭の一番大きな男は、槍を構えながら言い放った。




