東進しながらハッカスプレー
前話
通報されて森へin
森の中まで探索に来るかはわからないが、俺達は一心不乱に進んだ。俺が先頭で鉈を振り、時には靴で踏みつけ、背の低い植物を薙いでいく。
天使から授かった槍と魔法を振るって世を正す予定だったが、なぜか今は錆びた鉈を振るって山歩きしている。人生はままならないものだ。
後ろでは那須じいが荷車を引き、八木ちゃんは荷車後部でハッカの葉を刻んでいる。
「オリーブオイルと刻んだハッカで精油すれば、虫避けになるんだよ。蚊とかゴキブリも来ないから、家で栽培してたの」
八木ちゃんはガーデニングが好きだったせいか、植物の知識に詳しい。
「おお、ハッカ油ならダニやヒル避けにも役に立つぞい」
「でも猫にハッカとかペパーミントオイルは毒なはずだ。キュアがあるとは言え、トラ美は大丈夫か?」
藤家ではアロマオイルなどの植物性の精油は厳禁だった事を思い出す。
「それがどうしてか、全然、平気なんにゃ」
「同じ体の誰かが平気なら、大丈夫なのかもしれないにょろ。ちなみににょろ助は色んな毒性に強いにょろ」
そういえば那須じいが死にかけていた野草試食でも、八木ちゃんはおいしくないと言いながらけろりとしていた。まあ不快感とか即死がなければ、キュアで何でも治せるし心配は要らないだろう。
薄暗い森なので、早めに野営準備をする事にした。
「ここで野営をしよう。みんな準備を頼む」
今となってはみんな慣れたものだ。トラ美がならして、那須じいが牧草を生やしていく。
「ほんとはゆっくり抽出したいんだけど、今日のところは、とりあえず煮詰めて作ったよ」
八木ちゃんは、シーツのすぐ外側の牧草にハッカオイルを振りかけている。爽やかないい香りだ。
那須じいは焚き火の中にもハッカの葉をくべていた。ヒルはここまで全く出なかったが、用心に越したことはないだろう。
「香りが飛ばないように、入れ物が欲しいなあ」
「媚薬スプレーの中身を使い切って、洗ったものはどうでしょう」
アオイさんは手のひらサイズのスプレー容器を取り出し、俺に振り始める。
「オイルだからねっとりしてるんだよね。スプレー容器に入れるなら、グリセリンと水に混ぜてさらっとさせれば大丈夫なんだけど」
「む、なら浣腸を使ったらどうじゃ?」
「浣腸にょろ?」
「タイプによるが、グリセリン浣腸は名前通り、グリセリンと水が半々でできておる。防腐成分も混じっておるがの」
また那須じいが変なことを言いだしたかと思ったが、そうではないらしい。
「なんでじじいはそんな事知ってるにゃ?」
「仔馬は生まれた直後に胎便が出ず、危険になる時があるんじゃ。かかりつけの獣医が色々教えてくれたわい」
「こっちの薄めて使う純度百パーセントタイプが、分量の予想をしやすくていいかもしれないです」
アオイさんがピンクの光から取り出した箱には「浣腸用グリセリン要希釈 指定医薬部外品」と書いていた。
「薄めるならピピがシャワー出すっピー!」
「ピピちゃん、ありがと! メントール虫除けスプレーの出来上がりー」
早速、八木ちゃんはスプレーから爽やかな香りを振りまいている。
「百パーセントのグリセリンなら色々使えそうじゃのう。そのまま塗ればあかぎれの薬。薄めると保湿化粧品にもなる。あと人工甘味料でもあるぞい。砂糖ほど甘くはないが、高カロリーじゃ」
浣腸用と書いているが、百パーセントグリセリンなら特に気にする事もないかと思い、ぺろりと舐めてみる。
「おおう、ほんとだ。これは甘いな」
「サルビアのハチミツみたいな食感ですね。卵と牛乳があれば、ライ麦粉でパンケーキみたいなものを作れそうです」
「みんな物知りだな。しかしSMグッズは案外、用途が広くて便利だ……」
「『三人寄れば文殊の知恵』というからのう。わしらは四人と二匹と一羽と一頭じゃ」
「協力って素敵だね」




