森へ 〜八木ちゃん視点〜
前話
北上する前に民家で物資交換したい一行
「ごめんください。小麦かライ麦か野菜をわけてください。代わりにカモシカの毛皮と、血抜き処理が済んだ肉を出せます」
農作業の休憩をしていた男の人に頼んでみる事にした。ピピちゃんを肩に乗せ、ハヤト君と那須おじさんは森の中で待機してもらっている。
女の子だけで行動させるのは心配だ、とハヤト君は言ってくれたが、何かあってもトラ美ちゃんに変わればいいし、ピピちゃんは飛べるので心配は無さそう。
「あっ、ああ……大丈夫だよ。すごいな、カモシカを獲るだなんて。罠で仕留めたのかい?」
驚いた顔をされた事で嫌な予感がしたけど、どうやら心配ないみたい。
「はい」
「ちょっと待っておいてくれ。うちは分ける程は取り置きがないけど、私の伯父さんの家にあるから、もらってきてあげるよ。そこに座って待っておいてくれ」
台所に通してもらい、椅子を勧められる。
「ありがとうございます。待ってます」
男の人は馬に乗り、家が少し集中している方向に走っていった。
そう言えば何を、どれぐらいの量と交換してもらえるのか聞いてなかった。
「ちょっと今の人、追ってみます」
何となく感じた嫌な予感は、アオイさんも一緒だったらしい。
「うん、お願い」
しばらく待っていたら、ピピちゃんは急ぎ気味で飛んで帰ってきた。
「さっきの人が入った大きな家の人が、慌てた感じで狼煙をあげてました。追っ手がここに来ると思います。早く逃げましょう」
すでに街道周辺一帯に知らされているみたいだった。
肉と毛皮はそのままにして、代わりに必要になりそうなものをもらっていく事にする。
「美味しい肉と綺麗な毛皮だし、きっと良心的な交換だよね」
ライ麦袋を手早く革の袋に入れる。「他はどうしようかな」と見渡した時、入り口横に、肩にかけられる籠と切れ味の悪そうな古びた鉈を見つけた。籠の中には小さな葉っぱの植物が入っている。その葉っぱの山に顔を近づけると――
「これ、ハッカだ」
森にも生えていた葉だけど、小さい葉だったので無視しちゃってた。思わずにんまりとしてしまう。
革の袋とは逆の肩にかけ、ついでにブラシや小さい籠など、近くにあった雑貨も放り込む。欲張り過ぎないうちに森の待機場所に戻った。
「手が早いな」
「ちゃんと肉と毛皮は置いてきたから、盗んだんじゃなくて交換だよ!」
「八木ちゃんの事じゃないにょろ」
「ハヤトは追っ手の手際の事を言ってるにゃ」
「上から見たら、このあたりにたくさん兵隊が集まって来てるっピ!」
ピピちゃんが羽ばたきながら降りてきた。
「森の奥に入る方がええかもしれんな。鎧を着た連中には、まともに入ってこれんじゃろ」
「じゃあほとぼりが冷めるまでは野外ですね」
私たちはカプラーン大森林を東に進む事にした。ハヤト君は不安そうにしてたけど、幼い頃からキャンプに憧れていた私は、二回目の野宿に早くも胸を膨らませていた。




