都市ロイム
前話
迂回してロイムに入って投獄。町に入る時の回想へ
山脈の北に位置する都市ロイムは、街道の宿場町として栄える場所だった。
町の東側一帯に広がる畑のあぜ道から入って行ったことが功を奏したのか、誰に咎められることなく街のメインストリートに到着した。
宿は那須じいの希望通り、厩舎付きだ。
その後は那須じいが出かけたがらなかったため、八木ちゃんとピピを連れて買い物に向かった。
まずはアオイさん用の靴を買い、建物の陰で人の姿に変わってもらう。
一応、アオイさんはSM用のハイヒールを出せるのだが、高さがありすぎて安定しないことと「履く側」ではないという理由で拒否していた。
余談だが、鳥の姿になるときに余るキャミソールやジーンズは俺が預かっている。人の姿になるときに裸になってしまうのかと思っていたら、ふわふわの羽毛のワンピースをまとうことができるようで心配はなかった。
野菜などの生鮮食料品市場はすでに露店がなかった。
そのため武器屋と日用雑貨品店などを見てまわっり、オリーブオイルとワインビネガーと胡椒を買っておいた。地球の中世ヨーロッパとは違い、香辛料は安く手に入るようだ。
「石鹸で髪を洗うとすごくぎしぎしになるから、ワインビネガー見つけたのは大きいね!」
「どう使うんだ? 塗るのか?」
「いっぱいのお湯に、ちょっとだけ酢を入れたリンスでサラサラになります。有名なハリウッド女優もやってるんですよ」
やはり女性は美の追求に余念がない。
「ちょっと疲れてきたな」
一日歩いた疲れもあるため、休憩を兼ねて少し屋台で買い食いでもしようと提案する。どの軽食にするか、二人はあれこれと悩んでいた。
「いい匂いです。これは絶対、当たりのやつです」
アオイさんが推してきたフランクフルトソーセージを揚げたような食べ物を購入し、広場にある階段に腰掛ける。
「ご主人様が食べさせてくださいませんか」
アオイさんは目をとじ、口をだらしなく開けた。はめられたことに気付いた俺は、癖にならないよう、カラシをたっぷり塗ってぐいとつっこんでやった。火傷しないよう、熱くないことは確認済みだ。
「ん……ごほっ、あぁ……思った通り、理想のご主人様です」
涙と鼻水を光らせて嬉しそうに言う。ドMとは恐ろしいものだ。
フランクフルトを食べている間、八木ちゃんは貨幣の交換レートについて、調査の結果を報告してきた。
「銅貨四枚で大銅貨一枚、大銅貨二十五枚で銀貨一枚、銀貨八十枚で金貨一枚の交換レートみたい」
「わ、わかりにくい。なんで十倍ずつで上がるレートにしないんだ」
「わかりにくいよね」
「フランクフルトが大銅貨三枚でしたから……うーん、この仮定だと半端だし、うーん……」
アオイさんは空で計算を続けている。
「わかりました」
「何がわかったの?」
「金貨は十六万円硬貨、銀貨は二千円硬貨、大銅貨は八十円硬貨、銅貨は二十円硬貨、と考えるとどうでしょうか。フランクフルトが二百四十円と仮定した場合の価格です」
八十円硬貨の次が二千円硬貨というのも合理性を感じないものだ。
「それぞれの価値がどれぐらいか、という意味だとすごくわかりやすいな、二人ともありがとう」
「お役に立てて嬉しいです」
「えへへ、どういたしまして」
「しかし、それだと無人村で置いてきた金額は随分、見当外れだったな。あんな小さいライ麦袋に銀貨一枚は多すぎた」
「それは多いですね。日本だとお米五キロの袋が買えるお金ですし」
「那須おじさんなんて荷車の場所に銅貨一枚しか置いてなかったよ?」
「それは少なすぎだろ! 某古本屋でももう少し良心的に買い取るぞ!」
「私もそんなものかと思って、食器類と出刃包丁と鍋二つ。全部で、銅貨一枚にしちゃったし」
「八木ちゃんが優勝にゃ」
「強いにょろ」
「うふふ、旅の恥はかき捨てって言いますからね」
「ちょっと違う気もするが、まあだからこそ、貨幣価値がわかって今後は安心だな」
今後はそのような不当な買い叩きはあってはならない。繰り返して強調するが、これは世直しの冒険なのである。




