町入りして牢入り
前話
野宿
猫の朝は早い。
夜明けと共にトラ美の大きな舌でべろんと起こされ覚醒した。
続いて皆を起こし、朝は残っていたパンを食べる。とうとうパンは無くなったので、今日は町に必ず入らなければいけない。
まずピピは、鳥の姿になって偵察してきてもらう。山道を十五分程下りていくと、早速戻ってきた。
「はーちゃん、南の町の入り口には二十人ぐらい警備の人がいたっピ」
やはり昨日の村の異常事態に対して警戒しているようだ。
「尾根を東に行ってから下りるっピ! そこの林を抜けたら町の東の入り口っピ!」
「わかった、偉いぞピピ」
ほほを人差し指の先で、カリカリとかくようになでてやる。
ピピはお尻を俺にすりつけながら喜んだ。このしぐさは生前から変わらない。
「そうと決まれば急ぐとしよう」
ピピが提案した道程は視界に入ってはいるが、林というより森というべき場所を抜けるのには、かなり時間がかかりそうだ。
とはいえ、なんとか今日の夕方までには町に入りたい。
念のために、既に半獣の姿にはならないようにしているため、ヤマトの頭の上にピピ、背中に俺が乗り、おれの肩にはにょろ助がくるりと乗っかっている。
尾根を移動する際は、ピピが好きだった曲を歌い始め、その曲がわかる人は一緒に合唱する流れになっていた。
食べ物の顔面をしたヒーローのテーマソングは四人で合唱した。
前世で特に思う事はなかったが、今の境遇がそうさせるのか、なぜか歌詞全てが心に響いた。
充分に東に移動した後、再び山を下り始める。山道が少し急な傾斜でもあるため、下馬して歩く。
日が高くなり始めた頃には麓の森に入っていた。
木々の葉が濃く生い茂り、森の中は薄暗ささえ感じる。
「これは……荷車を持っていくのは諦めた方がいいか」
雑草はともかく、腰の高さ程度の小さな木がそこかしこに生えており、どうにもペースが上がらない。
「お昼ご飯を先に済ませて、荷車とか鍋とか食器は、町で買いなおす方がいいかもしれませんね」
「決まりじゃの」
いい具合の石がなかったため、一瞬トラ美の姿になってもらい、狭い間隔で生えた二本の木を膝の高さで折ってもらう。
槍を鍋の取っ手に通し、折った木の断面に乗せればかまどが完成だ。
塩味の野菜入りライ麦のお粥と焼肉を食べた後は、軽い物だけを革の袋に入れ、重い荷は捨てて進む。
夕方になる前には森を抜け、のどかな村に出た。
畑で農作業中の人も特にこちらを気にする様子はない。あぜ道を進んで町に向かい、ようやく市街地と言ってもいい場所へ入った。
「よぉ、兄ちゃんは何やってぶちこまれたんだ?」
隣の牢から陽気な声が響く。酔っ払ったスキンヘッドのおっさんが話しかけてくるが、相手をする気はない。
俺は機嫌が悪かった。硬く冷たい石畳のため、座ると尻が痛い。寝転ぶと頭が痛い。寝転んで肘をつくと肘が痛い。
「俺に話しかけるな」
定番とも言える台詞を返しておく。舌打ちの音が響き、地下牢は再び静寂を取り戻した。
古今東西の小説、漫画、映画、ゲームの王道ファンタジーにおいて、投獄されるイベントはごくごく一般的なものである。ならばこの状態は、王道の冒険と言って差しつかえない。
そう、これは予定通りなのだ。誰が何と言おうと順調なのだ。
石のひやりとした感触で心を落ち着かせながら、牢屋に入れられた経緯を振り返る。
王道この上ない冒険が始まった町には、昨日の夕暮れ前に入った。




