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俺が選んだのは学園一の美少女お嬢様じゃなくて隣のメイドです  作者: 馬海ウム


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第19話 なぜか振られる後藤春道

 あんぱんと牛乳。張り込みスタイルの女性陣は、興味深そうに告白現場を観察している。


 面白半分で来てしまったが、いざ現場を目の当たりにすると気まずいし、ばつが悪い。たぶんだけど、この後に帰ってくる返事もいいものとは思えない。


 いやぁー……あまりよくねぇな。される立場でもする立場でもないけど、息苦しいし、妙な緊張感がある。


 そんな俺と、主の安全のため真剣な工藤と、野次馬根性の莉々葉と違って、原田だけは訝しむ視線を送っている。俺はその原田に声をかけた。


「やっぱり、あー言うの見るのは良くねぇよな」


「それもそうなんだけどさ。あれってどう見てもイキ告じゃんね。される側からしたら、怖いんだよな」


「怖い? 好きですって言われるのって誰でも嬉しくね? しかもあんな呼び出しての告白なんてすごいじゃん」


「春道のそれって告白する側の視点に立ったらね。告白されてる側のこと考えるとさ、好きでもない人に急に好意を伝えられるのって、嬉しい感情より先に恐怖とか驚きが勝つものなのよ」


 なるほどなと原田の発言に頷いてしまった。


 自然と俺は告白をする側に立って、それを勇気ある行動と称賛していたが、それは一面的な考えだった。告白経験もなければモテたこともない俺は、「告白=嬉しいもの」って二次元知識だけで得た偏見があったかもな。


 嬉しくはあるけど、そこには困惑だとか恐怖だとか負の感情が生まれるともいうわけか。


「俺もさ、告白とかその勇気を否定してるわけじゃねぇよ? でも、趣味も好みも分かんない奴に好きって言われても怖いよね、って話な」


「……? 原田の知り合いなの、あの男の人。俺達の知らないところで関わってるかもじゃね?」


「借り物競争で竹原にお願いして玉砕した人。ある意味では関わってるって言っていいかもな」


「あーあの時の……同業他社様でしたか」


 なんというかそれは頑張ってほしい気持ちもある。そもそもあの借り物競争に参加して、竹原のところに行けるだけで相当な勇気を持っている人。


 俺は実際無理を悟って、工藤に声をかけてしまったわけだし。


 これは竹原という友達に寄り添いたい気持ちもあるけど、告白している先輩にも同情したい。なら――。


「……よし帰るか」


「だな。ほら莉々葉、俺達とテニスいくぞ」


「えぇー見ようよ。せっかく張り込み用に牛乳とあんぱんにしたんだから」


 原田は莉々葉の首根っこを掴んで強引に引き剥がそうとするが、莉々葉は全力で抵抗している。俺は残る工藤の方に視線を向けた。


「うちらは莉々葉《これ》連れて帰るけど、工藤は……?」


「私は残ります。何かあった場合、すぐに対処できるように」


 まぁ、そうだよな。


「了解。竹原には、告白現場を見ちゃったことあとで謝っとくわ。んじゃ——」


 ここは色々な意味でも帰った方がいい。ここにいても碌《ろく》なことにはならないし、胸のざわつきをごまかすようなこの気まずさに耐えられない気がした。


 そうして踵を返してテニスコートへ戻ろうとした時、聞きたくない声が聞こえてきた。


「竹原さん、俺と付き合ってください!」


 それは彼らの場所から離れた俺の方にまで聞こえる大きな声。工藤の耳から漏れ出たその音声と、二重に重なり合って耳に入る。周囲の時間が引き延ばされたかのような静寂。俺達の足もピタリと止まって動けなくなる。


「……ごめんなさい。私、好きな人がいますので」


「あ……そうだよね。ごめん……」


 悲痛な声が工藤のイヤホンから流れてくる。やめてくれ、聞きたくない……。


「それでは私はこれで」


「あのさ、好きな人ってもしかして……屋上でたまに会っている男……? 借り物競争で竹原さんのメイドを指名した……あの」


 その「竹原さんのメイドを指名した」っていうのは、間違いなく俺のことだ。屋上でたまに会っているってことも知られているということか。


 屋上へ上がる階段を使う人なんてほとんどいなくて、その階段を毎日のように使う竹原達。そして、そこをたまに上がっていく俺を見れば、気づかれてもおかしくはない。


 少しした後、工藤の耳元から聞こえてきたのは困惑を含んだものだった。


「え……? 何で後藤さん? 私と彼はそういう関係でもないですし、私は彼のこと好きではありませんよ」


  ◇


 告白現場の倉庫から離れた水飲み場。俺はしゃがみ込んで、顔を手で覆っていた。


「春ちゃん、ハンカチいーる? ^^」


「ほれ春道。お前が好きなコーラとワッフル買ってきたから。なんか……うん、どんまいな」


「後藤さん。お嬢様のあの『好きではない』というのは、あくまで異性間の恋愛感情についてだと思います。友愛としてあなたを慕っていることに変わりはないと思います」


「うっせーぇ!!!」


 なぜ他人の告白現場を覗き見しただけなのに、告白していないのに振られないといけないんだ。あ、覗いたからか。神様のバカ野郎。


「それにしても困りました。お嬢様の好きな人というのは、後藤さんだと思っていたのですが」


「ねぇー、予想外しちゃった。じゃあ誰なんだろうね? 学校外の人かな」


「それしかないかと。ただ、お嬢様は社交界の場を毛嫌いしていますからね。この前も『金の匂いしかしない。どぶカス以下の場所』と旦那様へ罵詈雑言を浴びせ、苦情の嵐でしたから」


 ノックダウンされている俺の横で、女性陣が繰り広げる無慈悲な会話も今は頭に入ってこない。


 別に俺だって竹原のことは友達としか思っていない。付き合いたいだとかの感情もないけど、あそこまでバッサリいかれると話は変わってくる。


「屋上での密会の話知られてる方がマズくね? 最近の莉々葉と話すようになったことで、クラス内でも変な噂が立ってるんだし。それにプラスして春道と会ってるってバレてるとな」


「それなー。まぁ、借り物競争なんて目立つものに出て、噂立てんなっていうほうが無理あるけど」


「あれは、クラス内で出る人がいなくてジャン負けだから仕方ない。そうだよなー春道?」


 原田が優しいトーンで声をかけてくるのに対し、俺はコクコクと力なく頷き返した。莉々葉の言う通り、あの場で借り物競争に出てしまった以上、ある程度の目立ち方は覚悟すべきだった。


 自分のことならまだいい。変な噂が立ったとしても、時間が経てば勝手に風化する。


 ——だが、問題はそこじゃない。


「俺と竹原の変な噂が立つの、工藤的にはいやでしょ?」


「嫌ですか……。まぁ、そうですね。……考えてみると心がチクチクと引っかかる感じがします」


 案の定、工藤は自分の胸元に手を当てながら、眉をひそめてどこか腑に落ちないような表情を浮かべていた。工藤としては主の好きな人に見当もつかず、謂れもない俺との噂も流されるなんて溜まったもんじゃない。


 ってか、本当に竹原の好きな人ってだれなんだ。


 俺達の間に新たな疑問と気がかりな噂を残したまま、校庭にはチャイムが鳴り響いた。

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