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俺が選んだのは学園一の美少女お嬢様じゃなくて隣のメイドです  作者: 馬海ウム
1章 一学期編

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第14話 インスタフォロー

 雲が太陽を覆い、薄暗い青白さが漂っている踊り場。


「莉々葉さんと後藤さんが、どのようにしてそのようなお仲になられたのかをお伺いしたいです」


 そんな空間で工藤が口にした質問は、意図の読めない不思議なものだった。重要だと彼女は言うけど、この場で何の役に立つのか、俺にはわからなかった。


「えーっと、うちと春ちゃんが仲良くなったのは一年の丁度これくらいかなー」


 困惑している俺を尻目に、莉々葉はあっけらかんと答えている。


「どういうきっかけですか?」


「うちが今の彼氏に一目惚れして。どうしても落としたかったから、春ちゃんに協力してもらったの」


「ほうほう……なるほど……」


 工藤は顎に手を当ててそう頷くと、スマホを高速でフリックし始めた。これはたぶんファミレスで見せた、「お嬢様ご学友づくりメモ」の更新だろう。なら、今の質問も、今後の竹原の友達作りの参考にしたいという真面目な理由だったわけか。


 なんかホッとした……。……ん? なんで俺は安心してんだ?


「今の彼氏と春ちゃんが特に仲良かったっぽいから、外堀を埋めたくてね。だから、好きな物とか趣味とかを一緒に勉強してもらった」


「一年生……そんな早くからお友達を……。すごい……」


 竹原がそう言いながら、関心と尊敬の混ざった眼差しを俺へ向けてくる。別に大したことではない。


 俺と原田が仲良くなった一番のきっかけは、プロ野球。結局、今仲がいい男子のメンツも、この野球好きから派生して広がった輪だったりする。こと男子高校生のコミュニティにおいて、プロ野球というのは、それほどまでに使い勝手のいいカードだ。この趣味を持っているだけで、クラスで一人か二人は、最低でも話せる相手ができる。


「なるほど。理解はできました。が……」


 工藤は手を止めると、スマホの隙間から俺達の方を見てくる。その視線は鋭い。


「付き合ってもいない方とその距離感……。お二人のコミュニティでは、それが普通なのですか?」


「いやー? 私、柴田の膝の上になんて座りたくもないし。他の男も無理だよ?」


「……?」


 莉々葉の返答に、工藤は腑に落ちない様子だ。


「では、何故後藤さんにはできるのですか?」


「お互い、完全な友達枠だからじゃない? うちって春ちゃんのお姉さんに似てるらしいし。それに一応、友達の彼女だからね。ぬいペニは――」


「せい!」


「痛っ!?」


 ぬいペニという単語が出た瞬間、俺は莉々葉の頭を、さっきよりも強くチョップした。これを赤の他人に見られたら、女性暴力で非難されて当然だが、こればかりは正当防衛として許されるはず。


 ぎりぎり、聞かれていないよな?


 と、思い確認すると工藤は見当がつかないといった顔で、首を傾げている。対する竹原は、気まずそうに苦笑いしている。お嬢様、意味知ってんのかよ……。


「お姉様に莉々葉さんは似ていますかね?」


「なんか、パーソナルスペースにずかずか入り込んでくる感じとか……。強引に物事を進める感じとか……。中身が結構近いんだよね」


「あぁー……」


 工藤もこれには納得した様子を見せる。


 見た目だけなら、二人の雰囲気は正反対だ。けれど、中身はめちゃくちゃ似ている。人たらしで、強引で。周りの空気やコミュニティ、周囲からどう見られるかなんて一切気にせず、自分のやりたいように振る舞うくせに、なぜか誰からも嫌われず、人に好かれる。


「だから、工藤も仲良くできると思う。うちの姉貴とも仲良くできてたわけだし。てなわけで、竹原もそんな無理して会話デッキとか考えなくて大丈夫」


 俺は置いてきぼりになりそうな竹原へ、あえて話を振った。うちの姉のことなんて知らないだろうし、コミュニケーションの取り方がわからないってさっき言っていたからだ。


 竹原は目を見開いた後、膝の上でぎゅっと握りしめていた手を少し緩め、不器用そうに視線を泳がせた。


「私……莉々葉さんと何を話せばいいのか、ずっと身構えてしまっていて……」


「えー? そんな気負わなくていいのに! うち、マジで何でも話聞くよ? 輝来が好きなことってなんなの?」


 莉々葉が膝を乗り出して目を輝かせる。竹原は一瞬ビクッと肩を跳ねさせたが、意を決したように小さく口を開いた。


「私……本を読むのが、好きなの。小説とか……あとは漫画とか」


「へぇー! どんな本読むの? 小説のおすすめとか知りたいかも!」


「……! 私が最近読んでいるのは……」


 拒絶されるどころか、想像以上の食いつきで見つめられ、竹原の瞳が一気に明るくなった。工藤もその様子を見ながら優しそうな表情を見せていた。


 やっぱり二人に紹介したのが、莉々葉でよかったな。


「私が最近見ているのはね、ヒロインが巨乳でめっちゃんこエロくてー……」


 ……頼むから、俺の顔に泥を塗らないでくれ。



 その後は竹原を中心に話が進み、あっという間に時間が過ぎていった。気づけば、休み時間終了まであと十分。結局、楽しみにしていた久しぶりのバレーボールに行くことができなかった。


「あ、やば……そろそろ時間。俺は先に戻るわ」


「えぇー、一緒に戻ればよくない?」


「いやぁー、この面子だと周りがうっせぇーじゃん?」


「気にする必要ないって。勝手に言わせなよー」


 一度立ってしまった変な噂を消すのがどれだけ大変か。気にしないなんて俺には無理だし、余計なトラブルが起きる未来しか見えない。俺は教室に戻る準備をするため、手に持っていたゴミをまとめて立ち上がった。


「そろそろ私達も戻りましょうか、お嬢様」


「えー、まだ話し足りなくない? そうだ、インスタとライン教えてよ!」


「うん、ちょっと待ってね」


 竹原は恐る恐る自分のスマホを取り出し、カメラを起動した。そういえば、二人のインスタのアカウントは俺も知らないな。気が向いたらフォローしておこう。


「移動教室だからもどるわ、ほなー」


「ほなーバイバーイ」


 背中で手を振りながら、俺は今度こそ一足先に踊り場を後にした。


「今度三人で遊びに行きたくない? 土曜とかどう?」


「いいー! 明日香大丈夫よね?」


 階段を下りていく俺の背中に、頭上から楽しげな会話が聞こえてくる。紹介しておいてなんだが、ここまで竹原と莉々葉の相性がいいとは思わなかった。工藤は……まあ、竹原が楽しそうなら大丈夫だろう。うん、ちょっと自信はないけれど。


 俺は歩きながらスマホを取り出し、莉々葉のフォロワー欄を開き、新しく追加されたであろう二人のアカウントを探しながら画面をスクロールしていった。


 一番上に「kirara」というアカウントが、たぶん竹原。その下にある、本名フルネームでアイコン設定なしの「工藤明日香」も、工藤だと一発でわかる。フォロー2・フォロワー2の鍵アカウントということは、身内だけに絞って交流しているのだろう。


 そういえば、原田のアカウントを偶然見かけたって言ってたけど、これでおすすめに出てくるのか。


 竹原の異様に多いフォロワー数が、アルゴリズムだかアナリティクスだか、よくわからないけど、そこら辺に影響したんだろうか。最近のAIはすごいっていうし。


 ……それより、無事に二人の友達づくりの第一歩は見届けられたんだ。こんなことはどうだっていい。


 バレーボールし損ねた不完全燃焼の身体を少しだけ伸ばし、俺は移動教室へ向かって歩き出した。


 ◇


 そして――土曜日のこと。久しぶりに朝から入ったバイトで、その事件は起きた。


「学生三人、フリータイムで。機種は何でもいいでーす」


「……」


「店員さーん」


 カウンター越しに、ニヤニヤと小馬鹿にしたような笑みを浮かべてくるお客様。


 接客業において、お客様は神様だ。どれだけ理不尽な状況でも、笑顔で対応しなければならない。俺は引きつりそうになる口角を、無理やり持ち上げた。


「……なんでこちらにいらっしゃりやがるのですか? お客様方」


 俺の目の前には、いつもと違う私服姿の莉々葉、竹原、そして工藤の三人が立っていた。。

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