第13話 竹原輝来の直球勝負
今日はお友達作り面談会。俺達は購買部で昼飯を調達して、待ち合わせ場所の屋上に向かっていた。
「いやぁー楽しみー! 春ちゃんが紹介したい友達がいるって何よー? どんな子?」
「普通……でもないけど、いい奴らだよ」
妙にテンションの高い莉々葉は、俺と並んで楽しそうに階段を上っていた。昨日メッセージを送ったら「面白そうだから行くー」と快く引き受けてくれた。フッ軽ギャルマジ助かる~。
「旦那達は?」
「体育館にバレーしにいった。柴の天敵の先輩が今日は午前授業らしいから、みんな大はしゃぎしてた」
「んなこと言ってたな。原田の先輩経由で情報入手したみたいな」
そんな雑談をしながら、一階から四階までの階段を上がっていく。ようやく屋上という手前まで上がりきったところで、俺達は足を止めた。
扉前の階段の小さく開けた踊り場スペース。非常灯の薄灯りの下、広げられたレジャーシートの上にちょこんと座っている二人の女子の姿があった。雨だからここにいるのか。
「呼ばれて飛び出てジャジャ――えぇ!? 竹取姫じゃん!」
「てい! 莉々葉、デリカシー……!」
俺はノンデリ莉々葉の頭にチョップを入れる。ここで昼飯を食べていること自体が秘密にしているだろうし、竹取姫というあだ名も当人が認めているわけがない。実際にレジャーシートの上でお上品にお弁当を広げていた竹原は、固まったまま目を丸くしていた。
「あーごめんごめん!」
流石の莉々葉も、慌てて両手を合わせて頭を下げた。莉々葉をチョイスしたのは、もしかしたらまずったかもしれない。
「お気になさらないでください、莉々葉様。学内で最近そのように呼ばれていることを、お嬢様も重々承知しておりますので」
「明日香、余計な追撃いらないから……」
竹原はすぐにコホンと小さく咳払いをすると、立ち上がり表情を切り替えた。
「後藤さん、ありがとうございます。莉々葉さんも是非こちらへ座ってください」
「はーい! 何かよくわかんないけど、座りまーす!」
言われた通り空いたスペースに莉々葉が座ると、俺も紹介する立場だからか隣に座ることにした。工藤も立ち上がると俺の正面に来て、莉々葉と竹原が対面するように自然な動作で場所を入れ替えた。
……流石できるメイドだ。動作が自然すぎる。
「本日はどのように、後藤さんから聞いておりますか?」
「春ちゃんからは、紹介したい友達がいるって言われて来たの。そしたらまさか二人だとは思わなくて……ねぇー?」
莉々葉は二人を一瞥したあと、ニヤニヤとした意味深な笑みをこちらに向けてくる。……言いたいことは分かる。
体育祭の借り物競争以来、周りから「あの後工藤となんかあったー?」「工藤とどうよ?」「お前工藤好きなの?」っていうのを学校で死ぬほど聞かれ続けて、その度にノーと否定し続けてきた。
ただ実際にはこうして顔見知りの関係なので、茶化したくなる気持ちも分からなくはない。
「こっち見んな。今日の目的は竹原だから」
「はいはーい。諸々は後で話そうねー」
俺と莉々葉は向き直り、改めて正面に座る竹原達へと視線を戻した。工藤はいつも通りの無表情だけど、竹原の表情はカチコチに強張っていた。昨日の昼に見た時も怖い顔をしていたがそれとは何か違うような……緊張したものだ。
「んで。要件って何よー?」
「あ、あの……莉、莉々葉さん……っ」
そこにいたのは、いつもの自信と気品に溢れた竹原輝来ではなかった。その形容しがたい空気感を、さすがの莉々葉も感じ取ったらしく背筋を伸ばす。
「は、はい! なんでご、ございましょうか……!?」
「わ、私と……お友達に、な、なってくれませんでしょうか……っ!」
「へっ……へぇ?」
踊り場に広がるは数秒の沈黙。直後莉々葉は俺の膝の上に倒れ込み、大爆笑し始めた。どうやら竹原の真面目すぎる告白がツボを直撃したようで、腹を抱えながら体を揺らしている。
「あはははっ! やばい、私そんな真剣に告白されたの初めて……っ! ふぅー……輝来って、顔だけじゃなくて性格もめっちゃ可愛いんだねー」
「き、輝来……っ!?」
「ありゃ、ダメだった? うちのこと下の名前で呼ぶし、いいかなーって思ったんだけど」
「嫌じゃないです……ううん、嫌じゃない!」
目の前で可愛らしい会話が繰り広げられているが、俺はそれどころではなかった。莉々葉の全体重がかかって膝が地味に痛い。こいつは彼氏持ちのくせに相変わらず距離感が近すぎる。こんなんだから男子どもに余計な勘違いをされるんだ。
莉々葉の図々しさに気を取られて二人の様子を見るように、俺は横目で正面へと視線を送る。竹原は顔を真っ赤にしながらも、どこかこの状況を嬉しそうに噛み締めているようだった。……だが、その隣に座る人物は違った。
「……」
俺の前にいるのって般若じゃないよな? 背後に真っ黒いオーラ見えるんだけど……。
「え、工藤どしたの?」
「いえ……莉々葉様は、随分と後藤さんとの距離感が近いのですね」
……なるほどな。
確かに莉々葉のこの距離感は、工藤からしたら警戒対象になり得るのかもしれない。自分の主が新しく作る友達が、異性とこんな至近距離で接するタイプだと、将来的に余計なトラブルに巻き込まれる懸念もあるのだろう。
俺は莉々葉の体を無理やり起き上がせた。
「ほーら! 邪魔だから早く起きろって!」
「ちょっと春ちゃん、髪傷んじゃうから乱暴しないでー! あ、でもごめんね輝来ちゃん。私、嬉しすぎてついテンション上がっちゃっ」
俺に押し戻された莉々葉は、悪びれもせずにケラケラと笑いながら、今度は竹原の方へと向き直った。
「ううん……驚いただけだから、気にしないで。その……輝来って呼ばれたの、初めてだったから」
竹原は真っ赤になった顔を隠すように、手持ちのハンカチで口元を覆っている。けれど、その瞳はあきらかに歓喜で揺れている。よっぽど嬉しかったんだな。
「明日香ちゃんもよろしくねー。うちも敬語外して、下の名前でいいよー?」
「長年の習慣ゆえ、敬語を外すのは難しく……」
「ほぇーやっぱメイドさんってパネェー。とりあえずそんな固くなくていいからね。うちのことも川村でも莉々葉でも好きな風に呼んでいいから」
「分かりました。莉々葉さんよろしくお願いいたします」
「ほいほいー」
どうやらこれで万事解決のようだ。なにか堅苦しいお見合い形式のように、「趣味はなんですか?」「休日はどうお過ごしに?」みたいな会話が繰り広げられると思っていた。蓋を開けてみれば竹原のど直球を莉々葉が素直に打ち返すあっけないものだった。
まぁどんな展開であれ、莉々葉は趣味オールマイティー。何でも話せるし、何でも興味を持つやつなのでどんな話題提供でも簡単に対応できると思う。
これなら俺もお役御免だ。あとは女子同士でじっくり打ち解けてもらうことにして、俺は余った時間で体育館のバレーに混ざりにいくとしよう。
「んじゃ、俺はバレー行くからあとは女性陣でヨロー」
「待ってください」
「……へ?」
立ち上がりかけた俺の袖を、工藤が体を乗り出してキュッと引っ張ってきた。
「もう挨拶も済んだじゃん。あとは女子同士で話した方がいいだろ?」
「後藤さんがいなければ、まだ何の話をしていいのか分かりかねます。それにお聞きしたいことが一つあります」
工藤の言葉に、竹原も激しく首を縦に振って、
「そ、そうよ後藤さん! 私……まだ莉々葉さんと何を話せばいいのか、頭が真っ白なの……! 会話デッキも組めてないし……!」
と必死な目つきで縋りついてくる。小動物か何かか。あの体育祭のときに容赦なく人を切り捨てていた威厳はどこへいった。
「そうそう春ちゃんダメだよー。うちもせっかくの機会だから聞きたいことあるし」
莉々葉にニヤニヤしながら腕を引いてくる。こんなかわいい女の子の中に、男一人! なんて、男子高校生なら誰もが一度は夢見るようなシチュエーションだろうが、全く嬉しくない。どうせこの後に待っているのは、茶化しと詰問の嵐なのだから。
「……はいはい、分かりましたよ。じゃあ工藤からなんですか」
俺は結局、元の位置にドカッと座り直した。まずはマシそうな方からさばいていくとしよう。
「じゃあ工藤からな。聞きたいことって何?」
「はい。私からは……莉々葉さんと後藤さんが、どのようにしてそのようなお仲になられたのかをお伺いしたいです」
「俺と莉々葉? それってなんか重要なことなの?」
「……はい、とても」
工藤は無表情を崩して小さく微笑んだ。
でも、俺からはその目は全く笑っていない風に見えた。




