第12話 2回目の屋上呼び出し
言われるがまま向かった屋上には、レジャーシートを敷きながらスマホを見る竹原がいた。
「おーっす。呼ばれたから来たぞ」
「後藤さんありがとう。今回も悪いわね」
「一人? 工藤いないの珍しくない?」
「あの娘には購買に行ってもらってるの。もう少ししたら戻ってくると思うわ」
メイドとはそういう雑務もこなすのか。もしかして俺が呼ばれた理由って、工藤がいない間竹原に危険がないか面倒見てくれってことか? それならそれで楽だからいいけど。
「そういえば、メッセージも送ったけどこの前はありがとうな。いくらお礼でもあんな量はいらなかったけど」
そういえば、竹原と直接話す機会もなかたったので改めて俺は竹原に先日の一件のお礼を言った。あんな量の贈り物に我が家の家族一同ぶったまげたものだ。
「それは良かったです。あの茶葉と水羊羹は我が家でも来客用に使うもの。お客様方にも好評なのよ」
「うちのおふくろもすげぇ喜んでたよ。俺はあのお高い肉が最高だったな。マジでいい経験になったわ」
俺がその言葉を口にした瞬間、竹原の顔が一気に強張った。
「え、……お肉?」
「くれたじゃん肉とかコーラとかメロンとか。あとワッフルも美味しかったな」
「……」
普通の感想を言っただけなのに、竹原の反応は全くと言っていいほど芳しくない。むしろなにか悩むように、顔を伏せて黙り込んでしまった。
そういえば、あの日のメッセージもなにか大量の送信取り消しをしていたな。それに関して「あの時何送ったのー?」なんて聞けるほど俺は肝が据わっていないのでスルーしていたが。もしかして、何か関係しているのだろうか
やがて竹原が顔を上げると、思い詰めたような深刻な表情で俺に尋ねてきた。
「後藤さん。あの日って明日香に家の住――」
「失礼します。今戻りました」
「「うわぁ!」」
竹原が何か俺に聞こうとしたタイミングで、俺達の後ろにはいつの間にか工藤が立っていた。扉を開く音もさせず、いつの間にかそこに立っていた。
「お取込み中でしたか?」
「違うけど……明日香、後で大事な話がある。聞きたいことがたっぷりある」
「えっ……何か、お嬢様の気に障ることをしてしまいましたでしょうか……?」
「自覚なしかー……まぁいいや、とりあえずパンありがとう」
竹原は苦笑いで工藤からパンを受け取るとそれを口に運んだ。ものすごい含みのある物言いだったのが気になる。それにこの後ある大事な話とやらが控えているなら俺は早く退散したほうがいいな。
「じゃあ俺は帰るな。今回来てほしかったのも竹原のこと見ていてほしかったみたいなやつでしょ?」
「違います。今回はこの前同様お願いを聞いていただきたいです」
つまるところ、放課後ファミレス体験会ってのと同じ類のやつということか。そういうなら実質「輝来お嬢様の夢を叶えよう」の会なのだろう。自然と竹原と目が合ってしまい頷いてしまう。
「今回はどんな内容で?」
「お嬢様のお友達作りに協力していただきたいです」
子持ちママみたいなお願いが来たな。当のお嬢様はというと、抗議の視線を工藤に送っている。
「ちょっと! これじゃ私が友達いないみたいじゃない!」
「実際いらっしゃらないではないですか。学校でも周りの方とは最低限の会話しかなさっていませんし」
「それは仕方ないじゃない! ……あんただって友達いないくせに!」
「私は、後藤さんという大切な友人が一人おりますから」
「はぁー!? なっ……私たちだって友達よ! そうですよね、後藤さん!?」
本当に小学生、いや幼稚園児のような喧嘩を始めてしまった。俺は本当に保護者のように対応して、激昂する竹原を落ち着かせた。ファミレスだとか体育祭だとか、いつもの学校で見る姿とは違う様子を見て「あ、こいつって普段猫被ってんだなぁー」って改めて思った。
友達論争はともかく話を本題に戻す。
「んで、竹原の友達作りって話だけど……正直、俺よりもっと適任がいると思うぞ」
「ご謙遜を。誰とでも分け隔てなく接することができ、他クラスの生徒とも気兼ねなく教科書を貸し借りできるほどの関係性を構築されている。これほど適任な方はいらっしゃいません」
「あれはただの惰性というか、去年同じクラスだった奴と話をしてただけなんだが……」
「惰性であろうと、私たちぼっちから見ればあなたは十分に『友達が多い人』です。クラスの方々もそのように噂しているのを耳にしております」
えぇー……そういう噂とかマジで得意じゃねえんだよな。結構苦い思い出もあるしできればやめてほしい。
「ですので私達に友達の作り方を教えてください」
「友達の作り方……かぁー」
大真面目な顔で頼み込まれたものの、「友達の作り方」を言葉で説明しろと言われてもすぐには出てこない。例えば、
「俺と友達になってください」「はい、お願いします」
なんて形式ばったやりとりは現実世界には早々存在しない。大抵はいつの間にか自然発生しているものだし、友達がまた別の友達を連れてきて、気づけば輪が広がっているようなものだ。
趣味や推し、好きなもの、あるいは波長や性格、口調――何か共通している部分や近しい雰囲気を互いに感じ取って、少しずつ距離が縮まった結果として友達になるのだと思う。
待てよ。ハープにゴルフにフルートが趣味の女子高校生なんて、普通のクラスにいるか? 吹奏楽部ならフルートを吹く奴もいるだろうが、現時点でクラスの吹奏楽部の女子達と打ち解けられていない時点で、それが答えのようなものだしな。
諸々考えていくと、紹介っていうやり方が丸いのか。ただここで問題が一つある。
「紹介できるほどの関係の女子友達とかいないな……。女の子のほうがいいよな?」
「そうですね。男性よりも女性の友人を先につくりたいです。私が何かあった際、二人一組を組む時も困らないので」
工藤は淡々と言うが、竹原は髪を指でいじりながら恥ずかしそうにしている。それは確かに深刻なお願いだな。
「他に友達に求める要望はなんかある?」
「テイカー気質……。要するに、家柄や財力を利用する目的で近づいてくるような方は遠慮したいですね」
「それは……そうだな」
多分これが一番大きな条件なのだと工藤の真剣な顔付きで察することができる。竹原達に友人ができないのも根本的に、他の人にない信用に値するかの見わけ作業を挟む必要があるから。
それだったらあいつが適任なのだろう。
「なら一人紹介できるのいるわ。オタクに優しいギャルみたいなタイプだから大丈夫だと思う」
彼女なら形式ばったモノやセオリーをぶっ壊して対等に、他人と接することができる人だ。あと彼氏の影響で最近アニメいっぱい見てるって言ってたし。なんならあいつもクラスで女友達がいないって愚痴ってたな。
「その方って私も知っている方?」
竹原はパンを握りながら不安そうな顔をこちらに見せてくる。
「二人と同じクラスの莉々葉……って苗字なんだっけな。あの、原田といつも一緒にいるやつで分かる?」
俺が言うと竹原はちんぷんかんぷんと言った感じだけど、工藤はどうやらわかったようで納得の表情をしている。
「確かに、後藤さんとも親しそうにしておりましたもんね? お三方でお出かけもなさっていましたし」
「友達の彼氏だし。三人でライブとか行ったりとか……ん?」
俺が莉々葉と原田がライブ行ったのって去年の秋。その頃の俺と工藤はクラスも別で、何の接点もなかったはずなのだが……なんで彼女がそれを知っている?
「あれ? 俺って工藤にそんな思い出話したことあったっけ?」
「いえ。たまたまタイムラインにお薦めとして流れてきた原田さんのSNSアカウントにお写真がありまして。三人でタオルを広げているお写真が投稿されておりましたので、お出かけなさる関係なのだと推察したまでです」
「あーそう言うことね。納得納得」
ファミレスの時もそうだけど工藤って、コミュニケーションのために色々な事メモしてるって言ってたな。これもその一環なのか。なんというか、少し全てを見透かされているようで怖いな。
「では、ご連絡はお願いしてもよろしいですか?」
「オッケー明日の昼とかにする?」
「そうしていただくと助かります。それよろしいですよねお嬢様?」
俺達の視線を竹原に向けると怯えた顔で工藤のことをチラチラ見ていた。
「竹原?」
「あ……はい。それでお願い……」
歯切れの悪い返事に、思わず首を傾げる。さっきから様子がおかしくないか?そう思ったものの、二人の間に何があったのかなんて俺に分かるはずもない。
これ以上ここにいても仕方がない。竹原から工藤に話があるみたいだし、俺がいても邪魔になるだけだな。
「オッケー。じゃあ俺は教室に戻るな」
俺は二人に背を向け、屋上を後にした。
竹原があんな顔をしていた理由は分からないままだった。




