カノンの不安
この日の夜いつも通りに晩飯を食べて、体を洗い後は寝るだけとなったとき扉がノックされた。
こんな時間になんだろう。
「ハルキさんまだ起きてますか?」
「カノンか? どうしたんだ」
鍵を開けてカノンを部屋に入れて椅子に座らせ俺はベッドに座る。
「もう気分はいいのか?」
「はい。……えっとハルキさんに少し相談というか、聞きたい事がありまして」
「聞きたい事?」
カノンは頷いただけでなかなか喋ろうとしない。そんな沈黙の中俺は今さらながら部屋で女の子と2人っきりという状況に気づいた。
俺の人生で初のシチュエーションだ。いや、彼女はこのゲームのキャラクターだ。なにを焦る必要がある。
「……あのハルキさん」
「は、はいっ」
ヤバイ、焦って声がうわずってしまった。だがカノンは俺の心情を知らずにそのまま喋りだす。
「ハルキさんが私をパーティーに入れてくれた理由ってなんですか? 今日の戦いを見てハルキさんは1人でも戦えています。なのに私をパーティーに入れても報酬が減るだけでなんの意味もないじゃないですか」
2階層ボス前後での変わりようはそういう事か。
つまりカノンはパーティー内(2人しかいないが)での存在意義がなくて不安なのだ。
でも俺としてはカノンがパーティーを抜けるとシールダー系のスキルがコピー出来ないので困る。
「確かに俺は回復、魔法といろいろ出来るから今は1人でも大丈夫だな」
「なら私なんて……」
俺が本当の事を言ったら目に見えてカノンは落ち込んだ。
「だけどそれは今はの話だ。これから先もっと奥の階層になったらわからない。いろいろ出来るといっても結局1人分のMPだから絶対どこかで行き詰まる。だからその前にパーティーは組むつもりだったんだ」
オンラインゲームでソロだった俺はよく知っている。1人では必ず限界があり、それをカバーするためパーティーメンバーは必要だ。その方が効率もいいし楽が出来る。
「でも私はまだ役に立ててません。それでもパーティーにいてもいいのですか?」
「それは単にカノンの考え方だ。カノンは魔物を倒す事が役に立っていると思ってるんじゃないのか? 俺はカノンが役立たずとは思ってないし、シールダーのスキルは魔物を倒すためじゃなくってパーティーの仲間を守るための力だと俺は予想してる」
うつむき、上目遣いで聞いてくるカノンに言い聞かす様に俺は言う。
「……守るための力」
「そうだ。だから俺にはカノンが必要なんだから、パーティーを抜けたいとか言うなよ」
パーティーを守ってくれるシールダーの力は後々必要になるはずだからな。
「は、はい! 私、ハルキさんのためにもがんばりますね!」
カノンはいきなり元気になり、顔を赤らめて部屋を出て行った。
これでカノンの不安もなくなってくれたかな。にしても落ち込んだり、元気なったり忙しい娘だな。
あれ? 今頭の片隅になにか不安な考えがよぎったが、まあいいか。さっさと寝よう。




