訪問
「本日は急な訪問を受け入れてくれてありがとう。」
「ようこそいらっしゃいました。昨日お会いしたところなのに、まさか翌日訪問して下さるとは思ってもおりませんでした。」
今日も嫌そうだねって笑っている。迎え入れた私の手を取り指先に口づけをする。
「今朝無事婚約が結ばれたよ。愛しい婚約者殿に直接伝えに来ないとダメだろう?」
「…わざわざありがとうございます。」
本当何を考えているのだろうか。陛下の元へ向かった時はあんなに淡々としていたのに。用意している部屋に案内をして、向かい合わせのソファーに座る。
「先程エイムズ公爵にお会いしたよ。シアを心配していてとても優しそうだった。交流して無理そうなら諦めて欲しいと言われたよ。」
「…父が失礼をしました。」
本当にお父様は言ってくれたんだ。立場が悪くなるかも知れないし、もしかしたら罰せられるかも知れないのに…。
「いや、良い家族だね。やはりシアを選んで良かった。無理って思われないように頑張るよ。」
「ルカ様…そんな頑張らなくて大丈夫ですよ?お互いを知りながら2人でゆっくり歩んで行きましょう?」
ルカ様が目を見開き驚いている。それに対し私も驚いてしまう。ルカ様は何故か落ち込んでしまい、下を向いて黙ってしまった。しばらく沈黙が続く。気まずい。
「シアは…婚約者になんかなりたくないと思いつつ、なろうとしてくれる。私は婚約者とはこんなものだろうと、勝手にイメージをして行動していた事に気付かされて恥ずかしい。好ましく思い会いたかったのは本当だよ?けど…」
「…大丈夫ですか?」
「シアは良い子だね。急に婚約者にされているのに、会って間もない私にも気を使ってくれる。私が王子だから当たり前だよね。」
「えー…っと?どうですね?」
「私はシアに好かれたい。ずっと王子として取り繕っては来たけど、私個人としてシアから好かれたいと思ってしまう。我儘だよね。断れない命令で婚約者にしておきながら…こんな事を言うだなんて最低だ。」
帰るよって立ち上がり部屋を出ようとするルカ様を引き止める。
「あの!今度一緒に出かけませんか??」
「…シア?」
「私はまだルカ様の事を全く知らないです。だから好きも嫌いもなくて…ただ面倒くさいから辞めたいと思っただけで。好きな人と婚姻出来るなら1番良いですし…先程伝えたように一緒にゆっくり歩みましょ?」
「ありがとう。抱きしめても良い?」
特別ですよって手を広げどうぞってする。ルカ様が近寄り私をギューて抱きしめる。抱きしめられている腕の中はとても甘い良い匂いがする。背中をポンポンってするとさらに抱きしめられる。
「フフッ…ルカ様は甘えたがりですね。」
「私も知らなかったよ。」
腕の中から解放されてがすぐ手を繋がれソファーに戻りルカは隣に座る。一緒にどこに出かける?と話をしながら計画を考える。
「レティシア?殿下が来ているなら挨拶をしたいのだけど」
扉がノックされお父様が部屋に入ってくる。王宮から帰ってきたようで少し疲れているみたい。
「本日は急にお邪魔させて頂き申し訳ありません。朝もお話させていただきましたが、レティシア嬢の事は私が何にかけても守り抜きます。諦めるつもりもありません。必ず幸せにします。」
「よろしくお願いいたします。」
お父様が頭を下げ涙ぐんでいる様子。レティシアは本当昔から良い子でって泣き出した。どうしよう。ルカ様すいませんと謝りながら横を見ると、わかります!本当良い子ですよね!と同じテンションで2人は話を続けている。
侍女にお父様の分もお茶をお願いし、私もおかわりを入れてもらう。1人お茶を頂きながら、私の事で盛り上がる2人を呆れながら見つめる。
あの日以来ルカ様はマメに手紙をくださったり、素敵な贈り物を送ってくれる。出会った日も優しかったけれど、さらに甘さが混じった気がする。
ーーーーー
久しぶりに会う日が来た。今日は一緒に美術館に行く事になっていて、お出かけにドキドキしてしまう。世間に婚約は発表されているが2人で出かけるのは初めてで、何故あんな女が!ってならないといいな。はぁ…面倒くさい。
「お待たせ。今日はさらに可愛いね。久しぶりに会えて嬉しいよ。」
「ルカ様も素敵です。本日はよろしくお願いいたします。」
優しく微笑み手を差し出される。手を取り行ってきますと声をかけ歩き出す。いつもよりラフな格好でもとても優雅で素敵なルカ様を見ていると、令嬢達に憎まれないかと胃が痛くなる。
「何か不安?」
「わかりますか?何故あんな女が!ってならないかが気になって胃が痛いです。」
馬車に乗り込み座ったらルカ様に問いかけられた。わりと何でもすぐに察してくれ、気が利かないと言っていたがそんな事無いと思う。
「最初はあるかも知れない…けどシアが素敵なのも私がシアを何よりも大事にしているのも見たら分かるから、すぐに落ち着くと思うよ。」
絶対守るしと手を繋いでくれる。安易に無いよ大丈夫だよと言わない所は好きだ。美術館に到着し早速見ながら、どんな絵画が好きだとか話をし見ていく。割と趣味が似ていて将来こんな絵を飾りたいねって話にもなった。
微笑みながら私と会話をしているルカ様を見て、皆やはり驚いている。スタッフの方と話す時には無表情になり、私には笑ってくれる。笑顔が素敵なんですよ!って言って回りたいけれど、私だけにしたい気もする。どうしよう。独占欲が出てきたのかもしれない。
「シア?疲れた?」
「いえ!大丈夫です!」
無理しないでね?って指先でそっと頬を撫でられる。赤くなってしまう。
「やはり疲れたのであっちに行ってます!」
恥ずかしくなり慌てて離れる。とりあえず離れるのが必勝法だ。逃げる。その瞬間躓く。あぁ終わった。こんな場でコケるなんて、あんな女の最高峰に登りつめてしまう。ルカ様ごめんなさいと謝りながら、痛いのは嫌だなって目をつむる。
あれ痛くない。大丈夫?ってギュッとルカ様に抱きしめられている。ルカ様が危機一髪で助けてくれた。
「あんな女の称号ナンバーワンになるところでした。ありがとうございます。」
ルカ様の服を握りながらお礼を言う。ルカ様が笑いながら何それって言っている。
「危ないから走らないで。疲れたなら一緒に行くから手を繋いでいて?本当心配になる。」
はい…すいませんと言いながら手を繋ぐ。色々恥ずかしすぎる。
「普段はもう少し落ち着いているんですよ?おかしいのは今日だけなんです…。」
「そうなの?そんなシアも可愛いよ。私だけに気を許してくれてる感じがする。独り占めしたいな。」
そうなんです!私もさっき…あ、これ恥ずかしいやつ。言い出して途中で気づいて止める。もごもごと言い淀む。
「なんでもないです。」
「私を独り占めしてくれていいんだよ?私はシアのものだよ?」
ルカ様はクスクス笑いながら言っている。私もルカ様のものですって照れながら言うと、満面の笑みを向けてくれる。
「私だけに笑ってくれるの嬉しいです。」
「シアは私の特別だからね。」
美術館に居合わせた人達から、あの氷の王子様が婚約者とは笑いながら話をしていたと大いに噂になった。




