7.友人
「ところで殿下。」
お昼ご飯を食べ終わった私は、改めて殿下に向き合った。
「はい、なんでしょうか?」
殿下は手に持っていたカップを置いて、顔を上げる。
「目立つので、学校で話しかけるのは辞めると言う約束じゃありませんでしたか?」
「……」
笑顔で問いかける私。
すると、そっと目を逸らされる。
「殿下?」
「……そうでした。」
誤魔化すように曖昧に笑う殿下に、私はもしやと嫌な予感が働いた。
「もしかして、忘れてたんですか!?」
「いえ。」
覚えていたのなら、尚更だ。
私は思わず頬を膨らませた。
「じゃあなんであんなことしたんですか。しかも教室の目立つ場所で。」
「すみません。」
殿下は困ったように眉を下げた。
「落ち込んでいるようだったので、放って置けなくて……」
(ずるい)
私は殿下から目を逸らした。
そんなこと言われたら……
「うぅ……今回は特別ですからね?」
許すしかなくなるじゃん。
私の言葉に殿下の顔がぱぁっと明るくなる。
「では、許していただけるのですね。」
その笑顔に、私は言葉を詰まらせた。
「……今回だけです!」
「はい!」
ニコニコと顔を綻ばせる殿下は本当に嬉しそうで、つい甘くなってしまう。
(……気を引き締めないと!)
気合いを入れるために、少しだけ拳に力を入れた。
「殿下。わかっているとは思いますが、あんなことをしたら周りに私が特別だって誤解されちゃいますよ。」
「誤解、ですか?」
首を傾げる殿下に私はガバッと立ち上がった。
(もしかして、わかってない!?)
「そうです! 殿下から昼食に誘われるなんて、普通ならあり得ません!」
私の宣言に、殿下は少し頭を捻ってから頷いた。
「……確かに、誰かを誘うことはほとんどありませんね。」
(やっぱり!)
「でしたら、尚更です! クラスのみんなからしたら、私が殿下の特別な人みたいに見えちゃうじゃないですか!」
「特別な人ですか。」
殿下はその言葉を繰り返すように呟いた。
「はい! ですから、他の人にするみたいに普通に接してくださ——」
「それは難しいですね。」
「へっ?」
さも当然かのように言われて、私は一瞬固まった。
「私は貴女を特別以外の目で見たことがありませんので。」
「!?」
(え、ええっ!?)
突然の特別宣言に頭が真っ白になった。
(……って、違う違う。殿下は私の“ファン”だから……!)
「わ、私のことを推してくれてるのは凄く嬉しいです。でも……!」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
殿下の顔があまりにも真剣だったからだ。
(……いやいや、殿下に限って、ないよね。)
ぶんぶんとあり得ない考えを振り払って、口を開く。
「周りの人はその事情を知らないので、変に思われるんじゃないかな、と……」
「そう、ですね。」
殿下は少し寂しそうに眉を下げた。
その顔に胸がチクリと痛む。
「あ、えっと、殿下と話すのが嫌なんじゃないですよ? でも、せめて友人くらいに留めて貰えたら……って、今のは——」
自分から目立ちに行こうとする発言をしてしまい、慌てて言い直そうと言葉を探した瞬間、
「……友人と、思ってもよろしいのですか?」
殿下の目が輝いたのが見えて、その先を言えなくなってしまう。
「えっと、その……」
ここで友人になっちゃったら、一緒にいることに“理由”ができてしまう。
そしたら今度こそ、私は殿下を拒むことができなくなる。
それは避けなければならないことだろう。
これ以上目立つのは、私の本意ではない。
(……でも、断ったら?)
私から“友人”という言葉を出して、期待させた。
なのに、ここで殿下を突き放してしまったら、きっとこの距離は埋まらない気がする。
目線を彷徨わせていると、私の様子を伺っている殿下と目があった。
私の答えを心待ちにしているような、どこか不安そうな眼差し。
それを見たら、断ることなんてできなかった。
「……はい。」
(言っ、た……!)
ほっと息を吐くと、頭の上でガタッと音がする。
「嬉しいです! ルーチェさんと友人だなんて……!」
視線を上げると、殿下が側まで来ていた。
その顔は今まで見たどの笑顔より輝いて見える。
「……私も、嬉しいです。」
(良かった。)
その顔に、私もつられて笑顔になってしまった。
(……って、これはちゃんと言っておかないと。)
流されかけた私は、少しツンとした表情を作る。
「ですが誤解させるような事はダメですよ? 殿下は友人でも、中々食事に誘わないようなので。」
ちょっと意地悪なことを言っている自覚はあった。
でも、ここで釘を刺しておかないと、殿下のことだから、またお昼を誘いに来かねない。
「……できる限り自重します。」
なんだか間があった気もするけど、取り敢えず納得してもらえたようだった。
「あっ、そろそろ時間ですね。」
不意に目に入った時計が昼休み終了の時刻を知らせようとしていた。
殿下も私の声にゆっくりと立ち上がる。
先に準備を終えた私は振り返って笑顔を作った。
「月1なら、喜んでお供しますよ。」
「……!」
教室に戻る足取りは、いつもよりずっと軽かった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
もし続きが気になる!と思ってくださったらブックマークで教えてくれると励みになります。




