6.お昼休み
昼休みを告げる鐘の音が響いた。
クラスは一気に騒がしくなり、人の出入りが激しくなる。
「……はぁ」
そんな中、私は気付けばため息を吐いていた。
理由は簡単。
ホワイト様に言われたことがずっと頭から離れてくれなかったからだ。
光属性は人を救う力。
それなのに私は……
(いやいやいや!)
暗い方に考えが進みそうになって、慌てて首を振る。
今更考えたって仕方ない。
(治癒師を目指すわけじゃないんだし。)
そう自分に言い聞かせた、その時だった。
「フローレンス嬢。」
聞き慣れた優しい声が頭上から降ってきて、私は顔を上げた。
「で、でで……殿下っ!?」
その人物を目にした途端、大きな声を出してしまう。
「はい。」
殿下は小さく微笑んだ。
「先程から難しい顔をされていましたので。」
そう言ってから、屋上の方へと視線を向けた。
「良ければ一緒に昼食を取りませんか?」
クラスが一瞬にして静まり返る。
注目されているのは明らかだった。
(取りません!)
そんなことを言えたらどんなに良かっただろうか。
「……え、ええ。私で良ければ。」
* * *
(どうしてこうなったんだろう。)
屋上に着いた私は、現状に頭を抱えていた。
目の前には殿下。
テーブルの上には普段私が食べないような豪華な昼食。
さらに人払いは済んでいるようで、周りには誰もいない。
……非常に困った状況だ。
「あの、殿下? どうして私を誘ったんでしょうか?」
なんとなく気まずい雰囲気をどうにかしたくて、私は率直に尋ねることにした。
「……先程、少し落ち込んでいるように見えたので。」
「そ、そう見えましたか?」
「はい。」
殿下は迷いなく頷いた。
「私で良ければ、話を聞きますよ。」
その優しい笑みに、少しだけ警戒心がほぐれる。
(言っても、良いのかな?)
殿下とはそこまで親しいわけでもない。
なのに、こんな相談までしたら……。
迷惑かもしれない、と思うと手に力が入った。
「もちろん、フローレンス嬢が話したければ、ですけど。」
(優しいな。)
私が言っても言わなくても気を使わないようにしてくれたんだ。
(ちょっとだけ、勇気を出してみようかな。)
「……実は、光属性の使い方に少し悩んでまして。」
「そうなのですか?」
殿下は軽く目を見開いた。
「はい。ある方に言われたことが引っかかってて……」
そこで言葉が詰まってしまう。
「……その、光属性は人を救う力だから、」
一度言葉を切って、不安に思いながら殿下を見た。
「私が今の実力で満足していることが、不思議だったみたいなんです。」
「……なるほど。」
殿下は納得したように頷いた。
「確かに光属性は希少性が高いですし、目に見えて人を救える力です。」
その言葉に、胸が苦しくなる。
(やっぱり殿下も……)
「だから、その方は期待してしまったのでしょうね。」
「期待……?」
「はい。」
殿下は穏やかに頷いた。
「光属性を持つ方は多くありませんから。救って欲しいと、願わずにはいられないんですよ。」
そうはにかむ殿下に、少し心が軽くなった。
「ですが。」
殿下はそこで言葉を区切って、私を真っ直ぐに見つめた。
「フローレンス嬢は違う考え方をしていたから、悩んでるのですよね?」
その瞳に、私は素直に頷いた。
「はい。私は今まで、人を治すためとか考えたことがなくて……えっと、ライブの演出に凄く良いなって思ってたんです。」
「演出、ですか。」
「光魔法って、使うとキラキラして綺麗じゃないですか。だから、ライブでみんなに見てもらって、笑顔にしたいなって。」
殿下は考え込んだ後、「なるほど」と首を縦に振った。
「ライブの演出、ですか。あれは凄く感動しました。」
殿下はそう言ってから、考え込むように視線を落とした。
「……そういえば、ルーチェさんのライブでは、客席全体が金色に輝いていましたね。」
「はい。」
「あれも光属性だったのですか?」
「はい。範囲回復を使ってるんです。」
私の言葉に殿下の瞳が見開かれる。
「スキルとばかり思ってましたが、まさか光魔法だったとは……驚きました。」
考えをまとめたらしい殿下は私に向き合って、笑顔を浮かべた。
「私はその使い方、とても素敵だと思いますよ。」
「えっ?」
まさか肯定されるとは思っておらず、声が漏れる。
「ルーチェさんらしいじゃないですか。」
殿下はとても良い笑顔を浮かべていた。
「私らしい……」
その勢いに押されて、反復してしまう。
「はい。光属性は確かに極めれば強い力となります。それこそ、簡単に手や足を治してしまいますからね。」
殿下は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「それは目に見えて“救われた”とわかりますが、ルーチェさんも、同じことをしているでしょう?」
「わっ、私、そんな大層なことしてませんよ!?」
ギョッとして否定すると、殿下は少し笑ってくれる。
「人を治すことだけが救いではありません。会場で笑顔になったファンの中にも、救われた方はいたでしょうから。」
殿下はそこで少し目を細めた。
「私も、あの光景を今でも鮮明に覚えています。」
「……っ」
ホワイト様に言われてからずっと不安だった。
私がやってきたことは間違っていたのかもしれないって。
(だけど……)
ちゃんと届いてるんだ。
(大丈夫、私はちゃんとファンを笑顔にできてる。)
それを知れただけでも、殿下に相談して良かった。
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