5.実技テスト
「では、魔法の実技の授業を行います。」
先生の声に、教室の空気がぴんと張り詰めた。
(来た……!)
入学して最初の実技授業。
属性ごとの適性や魔力量を確認する、いわば実力テストのようなものだ。
しかも今は入学して間もない時期。
ここで活躍すれば、自ずと高評価を得られるし、逆もまた然り。
(……だから、なのかな。)
普段よりも生徒の表情が固いように見えた。
「まずは、ローザ・ホワイトさん。前へ。」
真っ先に名前が呼ばれたのは、首席入学を果たした公爵令嬢——ローザ・ホワイト様だった。
(すごい、1番手だ。)
ホワイト様は迷いなく前へ出る。
背筋は真っ直ぐ伸び、堂々とした立ち姿はそれだけで絵になっていた。
「さすがは首席!」
「公爵令嬢なだけあって、雰囲気が私達とは違いますわ。」
周囲から感嘆の声が漏れる。
「好きなタイミングで始めてください。」
先生の言葉に頷いた彼女はすぐに杖を構えた。
「炎球」
杖の先から放たれた炎はまるで一本の線のように真っ直ぐ伸びていく。
(すごい。綺麗!)
的どころか周囲の視線まで奪ってしまうような正確さだった。
「……満点です。」
教師の低い声が響いた。
「えっ!?」
「満点ってすげぇ!」
その声に封が切られたようで、ざわざわと周囲がどよめいた。
ホワイト様は何事もなかったように杖を下ろして、口角を上げた。
「当然の結果ですわ。」
その自信に満ち溢れた姿は、見る者の心に何かを残す、そんな魅力があった。
その後も次々と呼ばれる名前に怯えながら順番を待っていると、
「次、マリア・フローレンスさん。」
(うそ、もう私!?)
自分の名前が呼ばれ、ドキドキと心臓がうるさくなる。
「はい」
前に出たものの、私の魔法は光属性。
今まで見てきたみたいな攻撃には向いていない。
それでどうしたら良いか分からず、先生の方を見ると、困ったのが伝わったようで、記録していた紙を机に置いた。
「フローレンスさん。貴女、回復は?」
「え、あっ使えます。」
「そう。それはどのくらいの効果?」
「かすり傷を治す程度、です。」
私の言葉に、教室が妙に静かになった。
先生は何か言いたげな顔をしたが、すぐに記録用紙を手に取った。
「……それ、今から見せてもらえる?」
「は、はい。大丈夫です。」
「じゃあ、その子。怪我してるから治してくれる?」
「は、はい。わかりました。」
前に出た私は傷口のある膝へ両手をかざした。
「回復」
その言葉を合図に柔らかな光が傷口を包み込む。
そして——
その傷も数秒後には跡形もなく消えていた。
「確認しました。」
先生は記録用紙に何かを書き込む。
「次の方。」
(よかったぁ……)
何事もなく終えて、安堵の息を着く。
その矢先のことだった。
「ちょっと貴女!」
先にテストを終えていたホワイト様に呼び止められ、私は恐る恐る振り返った。
「さっきのは、どういうことですの?」
手に持っている扇子は握りしめられていて、かなり怒っていることが伝わってくる。
「どう、と言われましても……」
私は何が原因か分からず、聞き返した。
「回復のことですわ! 貴女、あれだけしかできませんの!?」
「え、えっと……はい?」
「はい、ではありません!」
教室中の視線が一気に私達へ集まった。
「では、超回復や範囲回復は使えますの?」
「範囲回復なら、一応。」
範囲回復——実はこの魔法、ライブにめちゃくちゃ役に立つのだ。
光属性は発動時に金色の光が放出される。
ライブで範囲回復を使うと、ライブ全体に光を届けることができるとても便利で汎用性の高い魔法。
「……では、その効果は?」
「疲れを癒す程度、ですかね。」
私がこの魔法に求めているのは範囲と光のみ。
だから、傷を治すなんて大層な効果には興味がなかった。
ホワイト様は私の返答に、しばらく黙り込む。
「……は? 貴女、ご自分が何をおっしゃっているのかわかってますの?」
フリーズが解けた後に言われたのはそんな言葉だった。
「えっと……?」
ホワイト様が何を言いたいのか、私には分からなかった。
「光属性は貴重なんですよ!? それなのに、どうして平然としていられるのですか!」
バサリと扇子が開かれる。
「回復なんて初歩中の初歩ですわ。光属性の保有者でありながらその程度の実力だなんて……。」
ローザ様は信じられないものを見るように額を押さえた。
「本当に今まで何を学んでいらしたんですの……?」
多分これは、アイドルとして魔法を使ってきた私の弊害なのかもしれない。
だから答えられなかった。
今まで何を学んできたのか、と聞かれても。
私が覚えているのは、
光をどうやって綺麗に見せるか。
どうすれば客席の一番後ろまで届くか。
そんなことばかりだったのだから。
(……うん、これは怒られるやつだ)
すぐに答えない私に、ホワイト様は冷たい視線を向けた。
「貴女、光属性は極めれば欠損さえ治すことができる、素晴らしい属性ですのよ。……もう一度聞きますわ。貴女はなぜその程度で満足していますの。」
「……っ」
言葉に詰まる。
確かにローザ様の言うことは正しいのだろう。
——でも。
(だって、私……)
治療師になりたかったわけじゃない。
人を治したかったわけでもない。
光魔法を練習してきたのだって、
客席いっぱいに広がる金色の光が好きだったから。
みんなが笑ってくれるのが嬉しかったから。
ただ、それだけだ。
「……もういいですわ。貴女のことはなんとなくわかりましたもの。」
「え?」
「まったく……信じられませんわ。」
そう言い残して去っていく。
(行っちゃった……)
入学してまだ数日。
だというのに、私は首席の令嬢に呆れられてしまったらしい。




