4.婚約者候補
心配そうに私を見る殿下にこれ以上迷惑をかけまいと手を振って別れ、金髪の美女に連れてこられた場所は校舎の裏手だった。
「貴女、私のことは知っておりますよね?」
「……」
縦ロールを後ろに払いながらそう聞かれ、言葉に詰まってしまった。
私は、社交界にほとんど出ていない。
アイドル活動に専念していた……と言えば聞こえは良いかもしれないが、要は貴族としては問題児も良いところ。
この国の王子も知らなかったくらいだ。
そんな私が目の前の彼女を知ってるはずもなく。
黙り込んでしまった私に、美女は信じられないと眉を上げた。
「上位貴族の情報を押さえるのは貴族として当然の義務ですわ。それすらもできていないなんて……入学まで、一体何をなさっていたのですか?」
呆れたようにため息をつかれ、何も言葉を返せなかった。
「まあ、構いません。私はローザ・ホワイト。ホワイト公爵家の1人娘にして、殿下の婚約者候補ですわ。」
(殿下の婚約者候補……!)
公爵令嬢らしい堂々とした名乗りに、私は一歩後ずさる。
そんな私にホワイト様は鋭い眼差しを向けた。
「貴女、さっき殿下と登校してらしたわよね?」
いきなり本題を持ちかけられ、心臓がドキッと跳ねる。
「……実は足を怪我してしまい、それを見かねた殿下が馬車で送ってくださったんです。」
「そう、足を。」
ホワイト様は私の足へちらりと視線を向けて、眉を顰めた。
「それで見ず知らずの貴女を送迎してくださったと?」
バサリと扇子が広げられ、その向こう側にある表情が読み取れない。
だけど、少なくとも私を歓迎していないことは伝わってきた。
「……確かに殿下はお優しい方ですわ。」
扇子の向こうで、ホワイト様の目が細められる。
「ですが、その優しさは無条件、というわけではありませんの。少なくとも、その相手には何か理由がある、と私は考えておりますわ。」
「ただ、私が目の前で足を挫いてしまったから、心配したんだと思います……! 誰だって、放って置けなくなるんじゃないでしょうか?」
バタンと扇子の閉じる音が辺りに響いた。
「それを信じろと?」
「……っ」
苦しい言い訳だということは、私もなんとなくわかっていた。
(でも、これ以上なんて言えばいいかわかんないんだもん!)
殿下と口裏を合わせたのはここまで。
だから私が余計なことを言って、さらに怪しまれないようにすることが優先だと考えた。
「殿下に聞いていただければ、同じことをおっしゃると思います。」
私の言葉にキッと目つきが鋭くなる。
「……もう結構ですわ。無粋な考えを持っていないのなら、ね。」
ホワイト様は扇子を私へと向けた。
「ですが、行動には気をつけることをおすすめいたしますわ。殿下は貴女が思っている以上に、目立つお方ですから。」
その言葉だけを残して、彼女は踵を返した。
(……怖かった!)
彼女の背中が見えなくなった瞬間、一気に緊張が解けて、その場にしゃがみ込む。
(なるべく殿下には近づかないようにしないと。)
そう決意した私に、試練が降りかかるのは翌日のことだった。
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