10.ダンスの評価
「では、次のペア。」
「はい。」
前の順番の人のダンスが終わり、傍観していた私は立ち上がった。
指定の位置まで移動すると、ゆったりとした音楽が流れ始める。
(緊張する……でも、ダンスなら!)
足が音に流れて自然に動き、リズムに合わせてターンを決めると、静かな教室に感嘆が広がった。
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ステップを踏むごとに教室が静まり返っていく。
「はい、そこまで。」
先生の声に音が止む。
動きを止めた私とペアの男子を厳しい目つきで見た先生は、腕を組んだ。
「そこの貴方。リードが全くなっていません。」
「申し訳ありません……」
冷たい声で隣にいる男子生徒が注意され、私も体を固めた。
(わ、容赦ない。)
「そして、貴女。」
「は、はい!」
今度は私に視線が向けられて、緊張しながら返事をした。
「筋は良いです。特に軸のズレがほとんどありませんでした。」
(褒められた!)
「ですが、もっと相手を信頼してください。」
「え?」
喜びを噛み締める暇もなく、先生にバッサリと切られて、固まった。
「今の貴女は1人で踊ろうという意識が強いように見えます。」
「わかりました……」
自信があっただけにその言葉は胸に突き刺さった。
「以上です。次のペア。」
呆気なく終わった評価。
私はそれをすぐに受け入れることができなかった。
* * *
「フローレンス様。」
教室を出たところで、後ろから呼ばれた名前に振り返った。
「ホワイト様……!?」
どうして声をかけられたのかわからず戸惑っていると、ホワイト様は私の顔を見つめた。
「随分落ち込んでいらっしゃるようですが、先程の評価に納得できない点がおありで?」
冷やかすでもなく、事実を淡々と確かめるような口調だった。
「えっと、ダンスは自信があったので、それだけにショックで……」
「なるほど。」
ホワイト様は納得したように頷いた。
「貴女、先生は技術について何と仰っていたか忘れてはいませんよね?」
「……技術」
確かめるように聞くと、ホワイト様は首を縦に振った。
「ええ、先生の技術に対する評価ですわ。」
(えっと……)
『筋は良い』
『軸のブレが少ない』
先生はそう褒めてくれた。
(でも……)
視線を落とすと、頭の上からため息が落ちてきた。
「全く、悪い方にばかり目が行きすぎですわ。先生は技術に対しては評価していた。……違いますか?」
顔を上げると、試すような視線とに息を呑む。
「あの方は全員に助言をなさっていました。ですが、貴女への指摘は技術そのものではなかったでしょう?」
「……はい」
ホワイト様は口角を上げた。
「では、誇りなさい。貴女は技術だけならトップクラスだと認められたのですよ。」
「えっ!?」
「少なくとも私はそう判断しましたわ。」
私が驚きの声を上げると、冷たい視線が少し和らいでいるように見えた。
「……それこそ、王族と踊っても遜色ない程に、ね。」
「えぇっ!?」
(ホワイト様が……褒めてくれた)
目を見開くと、その綺麗な顔はまた無表情に戻ってしまう。
「……ですが、1人で突っ走ってしまうのは紛れもなく貴女の弱点ですわ。精進なさい。」
「は、はい。」
(やっぱりそこはダメなんだ。)
「頑張ります!」
ホワイト様の励ましにやる気が出た私は、そう宣言する。
「良い心がけですわ。」
心なしか声色が優しい気がした。
「……そう言えば。」
思い出したような声に視線を上げる。
「貴女、今日も光魔法の練習をなさるのかしら?」
「はい。そのつもりです。」
「そう。」
一拍置いてから、ホワイト様は口を開く。
「昨日の練習について、少々気になることがありますの。」
「昨日の練習ですか……?」
思わず聞き返してしまう。
「ええ。あれは一体何をしていたんですの?」
少しの変化も見逃さまいと、視線が鋭くなった。
「えっと、回復を使う時に流す魔力量を変えたらどうなるのかなぁって実験してました……」
すると、ホワイト様は興味を失ったように目を伏せる。
「それなら治癒の効果が向上したでしょう?」
ホワイト様の言葉に私はキョトンと首を傾げた。
「そうなんですか?」
「貴女、それを確かめたんではなくて?」
ホワイト様の目が開かれる。
「い、いえ。えっと、魔力量を増やしたら最初は白い光だっのが金色に変わっていって……」
「まあ、それは中々に面白い着眼点ですわ。」
私の説明にホワイト様の目が一瞬光ったように見えた。
「効果ではなく、現象の実験でしたのね。……同じ魔法でも流す魔力によって性質が変化する、というのは聞いたことがありますわ。」
「そうなんですか!?」
身を乗り出すと、ホワイト様は軽く頷いた。
そして、わずかに眉を寄せる。
「……ですが、独学は危険です。もし魔力が暴発でもしたら、どう対処するおつもりですの?」
「えっと、それは……」
楽しさのあまりそこまで考えてなかった。
ハッとすると、ホワイト様の呆れたような顔が目に入った。
その視線に耐えきれず、目を逸らす。
「今回は大事には至らなかったようですが、気をつけることですわ。」
「はい……」
(それならこれからどうやって練習すれば……)
危ないことならこれ以上続けられない。
ガックリと肩を落とすと、ホワイト様のため息が聞こえてきた。
「仕方ありませんわね。」
顔を上げると、胸を張ったホワイト様がいた。
「今日も練習なさるのでしたら、私が見て差し上げますわ。」
「……えっ!?」
驚いた後、慌てて首を振った。
「で、ですがご迷惑なんじゃ……」
ホワイト様はクスリと笑う。
「殿下に頼まれるよりはマシですから。」
そう言って去っていく背中を見送りながら、私はしばらくその場で固まっていた。
(ホワイト様が、教えてくれる……?)
そんなとんでもない状況を心の中で復唱しながら。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ホワイト様が初めて認めた!?となれる瞬間、書いていてとても楽しかったです。
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