6. 怪力聖女
「……今月の占い12位!」
ロゼは呑気に新聞の占いを見ていた。
「何だろー。うーん、心当たりはないんだけどなあ。噂流されたのも先月だし。ま、気をつけるに越したことはないよね!」
読んでいた新聞を閉じて、目をつぶる。
「今日も行こうかな、ナターシャのところ。ナターシャの誤解を解くこと、まだ諦めてないから!」
そう言ってロゼは、椅子から腰を上げた。
◇◇◇
「……ナターシャ? あれ、【不死鳥の舞】の拠点のドア、入居者募集中のポスター貼られてるけど……」
窓を見てみるが、電気はついてないし家具は何も置いていない。
「どういうこと……?」
ロゼは周りの住民に話を聞いてみることにする。
「あの、おばあさん。この家に住んでいたナターシャってどうなったか知りませんか?」
「あぁ、あいつね。あのナターシャのお嬢ちゃんなら、家賃が払えなくて追い出されたよ」
「その後ナターシャがどこに行ったかわかりますか?」
「確かあっちの方に行ってるのを見たよ」
そう言ってその人が指を指した場所は、ロゼの家の方向だった。
「え……ありがとうございました。では」
「気をつけてね。あいつは、嫌な雰囲気を醸し出してたから」
ロゼが家に戻ろうと踵を返したその時……。
「ナターシャ!」
「ロゼ……」
ナターシャが髪を振り乱し、こちらへ向かってきた。
「ロゼ。貴方のせいで……私がどうなったかわかりますの? いえ、わからないわよね」
「え? ナターシャ、家賃も払えないって、どういう――」
「貴方にわかるわけないじゃない!」
「!」
「貴方のせいで! 私は悪役になってしまいましたの! 私は、見捨てられたんですの! すべて貴方の策略なのでしょう!?」
「違う! ナターシャ、落ち着いて……」
ナターシャは自分の腕を掴もうとするロゼの手を振り払って、にたりと笑った。
「……でも、もういいの。私の邪魔をするやつは、全員倒してやりますから」
「は!? 倒すって、どういうこと?」
「貴方は知らなくていいわ。だってもう、この世からいなくなるんですから。――さあ、消えなさい!」
「え」
「破壊の吼」
……ロゼは本能的に、ナターシャの攻撃を自身に当たる直前に握った。
「なっ……超上位神の攻撃を、握るだけで消した!?」
「あれっ、なんか反射的にやっちゃった」
「反射的に? まあいいわ、次で……! 破壊の爪!」
空間を引き裂く漆黒の爪が襲いかかるが、ロゼはその爪を素手でパキッとへし折ってしまった。もちろんその攻撃も、ロゼにより失敗に終わった。
「何なのよ、こんなの聞いてないわ……!」
焦ったナターシャは他の攻撃も連発するが、すべてロゼに防がれてしまう。
「くっ……こんなの使うはずなかったのに」
「ナターシャ、もうやめよう!」
「いいえ私はまだ抗えますわ! 破壊の終焉!」
ナターシャの立っている地面から黒紫色のオーラが出始め、そこを中心にひび割れていき、周囲の草が枯れ始める。
「貴方に直接攻撃するから防がれるのですわ! こうやって、周りからダメージを食らわせればいい話!」
「ナターシャっ!」
(どうしよう……こう考えているうちにも黒紫のオーラに大地が蝕まれている……)
そこでロゼは、ふと気づく。
「神の欠片!」
「そうですわ。よくわかりましたわね」
(やっぱり……あの時のだ! 色々ありすぎて忘れてたけど、ナターシャもそう言ってるし。きっとあれを壊せれば、ナターシャの暴走は止められるはず!)
ロゼはナターシャのペンダントに手を近づけようとする。
バチッ
「弾かれ……た?」
「これには超上位神の力が入っているんですの! そう簡単に素人が触れるわけありませんわ!」
自慢げにナターシャは高笑いする。
「……超上位神とか関係ない! みんなを危険に晒すような人は、放っておけないから!」
「じゃあどうやって対抗しますの?」
「聖女の力で!」
ロゼには聖女の才能はないが、ちょっとした力は使える。
……例えば、ちょっとした身体能力上昇などが。
「身体能力上昇!」
普通の人にこれをかけたらロゼの力が無意識に入り、身体能力が上昇するどころか傷を負うだろう。
しかし自分自身にかけるとなると、その心配はいらなくなる。
「はあぁぁぁ!」
ロゼは結界を粉々に破壊し、ペンダントを握る。
「なっ、貴方ちょっとした力しか使えないんじゃ……!?」
ロゼには聖女の才能がない。
だからもともとの力を数%あげることしかできない。
「よく考えてみてよ! 100のうちの1割は10だけど、1000の1割は100なの! だから、ちょっとしかあげられなくても私にとっては大きいの!」
「でも、これは超上位神の欠片ですわ! 人間である貴方が神を超えることができるとでも?」
「できないって決めつけるからできないんだよ!」
ペンダントを握る手に力を加える。
「そんな……」
そのままペンダントは、抵抗する間もなく砕け散った。
「ロゼ、やっぱり貴方は敵ですわ」
「そうだね。ナターシャにとってはそうかもしれない。でも、私にとってナターシャはずっと前から友達だよ」
膝から崩れ落ちたナターシャの頭を、ロゼは子供に対するように撫でる。
「やめてくださいまし」
「だってやめたらまた暴走するかもじゃん?」
「……今の私には、何もできることがありませんわ」
「だったらさ、またパーティー組めばいいじゃん。そうしたら生活も援助するよ?」
「断れない提案なんてするものではないですわ」
その返事に満足したように、ロゼは満面の笑みでコクリと頷く。
その後2人はまた、【不死鳥の舞】として返り咲いたのだった――……




