3. ナターシャ、逆恨みの逆襲
「……え? 魚、売ってくれないんですか?」
「うちには悪女に売る魚はないよ。店の評判が下がる。さっさと他所へ行ってくれ」
(これで、3度目だ)
『ロゼは無能のくせにナターシャ様をいじめた挙句、追放を言い渡したら逆ギレした』
そんな噂が流れているらしい。
おかげで市場の人達は私に何も売ってくれない。
「誰がこんな噂流したんだろう……?」
そう考えれたら、思い当たる節しかない。
……ナターシャ。私を追放した【不死鳥の舞】のリーダー。
ナターシャは貴族だし、小さな街に噂を流すことは容易いだろう。
しかしなぜ? 犯人がわかるのに、動機がわからない。なんだかモヤモヤする。
「なにか理由があるはず。一度、ナターシャのもとに行ってみようかな」
そうして、ロゼは【不死鳥の舞】の拠点へ向かうのだった――……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ナターシャ、入るよ」
ガチャッ
部屋に入った瞬間、ロゼは息を呑んだ。
高級な家具や花瓶が床に投げ捨てられ、部屋は掃除されていないのか埃が溜まっている。
その中心で、ぼろぼろのナターシャが立っていた。
「……何しに来たの」
「なんであんな噂を流したの? なにか悩みがあるのなら、私に話してほしい」
「……貴方のせいで、貴方のせいで私が今、どれだけ惨めな思いをしていますの!?」
「わからないよ! だから、何があったのか聞きたいの!」
「は? 貴方に話すことなんてないわよ! どいつもこいつも、私を見下して……っ!」
興奮で顔が赤く染めたナターシャが、ロゼの頬を叩く。
「っ……それでも私は、何があったか教えてほしい」
「さっきも言ったでしょう! 貴方に話すことなんて何もない! 貴方に私の気持ちがわかるわけない!」
(なんだろう、話が噛み合わない)
「ナターシャ、あなたはなにか勘違いしてる」
「私が言うことが正しいのよ! 貴方は一人の人生をぶち壊した! まさに悪女という名にふさわしいわ!」
「でも……」
「さっさと出て行って!」
「…………わかった」
ロゼはこのまま会話をしていても無駄だと察してしまった。
「また来るね」
そう言い残し、ドアを閉めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「結局、何も解決しなかったなぁ……」
(ナターシャ、なんであんなに怒っていたんだろう。わからない。全部がわからない)
「でも、今最優先にすべきことは商店街の人々の誤解を解くこと! このままだと何も解決しないまま野垂れ死んじゃう!」
そう言って、覚悟を決めた顔でロゼは商店街へと足を運んでいった。
「八百屋のおばちゃん!」
「……」
八百屋のおばちゃんは、ロゼと話す気もないらしい。
「あの噂、嘘なんだよ! 私、あんなことしてない!」
「……でも、ナターシャ様が言った。それがすべてだろう」
「そんなの間違いです! 貴族の言うことが正しいわけじゃない! 時に間違うのが人間なんじゃないですか!?」
バンッと、ロゼはカウンターを叩く。
「……あ」
ロゼが気づいた時には、もう遅かった。
木でできたカウンターに一筋のヒビが入り、そこから粉々に崩れていった。
「す、すみません! これ、慰謝料です!」
ロゼは今持っているお金すべてを渡す。
「こんなにいいよ……所詮安い物だし、いつか壊れる。それが早まっただけだよ」
「いえ、いいです! 気持ち、です」
無理やりおばちゃんの手にお金を握らせる。
「ほんっとうにごめんなさい! ほんとごめんなさい! これだけのお金で足りるかわかりませんが……」
「い、いや……それに、あんたの言うことは正しかったよ」
「でも……」
何度も謝ろうとするロゼを、八百屋のおばちゃんは手で制する。
「あんたみたいな奴が悪女なわけない。無視して悪かったね。好きな野菜どれか1つ取っていっていいよ」
「ありがとうございます! でも、いいんですか? 私のこと信じても」
「あたしが信じたいから信じるんだよ」
ロゼはまた深く礼をすると、その店で一番安い野菜をとって次のお店へ向かって行った。
そこからいくつかのお店で同じようにカウンターや壁をブチ壊しつつ、どんどん誤解を解いていった。
今や市場では、ロゼが優しい良い人だという噂で持ちきりになっていた。
「今回ナターシャはどうにもできなかったけど、市場の人達の誤解が解けてよかった。またいつか、ナターシャのことも……」
ロゼはそこまで言うと、日が暮れて薄暗くなった空を見上げた。
「さて、明日は何があるのかな」
まだ見えない未来のことを、ロゼは楽しそうに想像したのであった。




