第九話 懐かしい味
リオの態度でアウレリアは確信した。
この男はエドガルド・ルクシオン・レイヴァルドだと。
「ヴァルノクス隊長、こちら空いてますよ」
エドガルドがすぐ近くの席を指して笑みを浮かべている。
どこか無機質な笑顔だ。
昔はもう少し、柔らかい表情をしていたような気がする。
「隊長とお話してみたかったのです。良いですよね?店主」
有無を言わさない態度はやはり王たる所以だろうか。
リオが一瞬不快そうに眉を顰めた。
「ええ、ヴァルノクス隊長がよろしければ……どうぞ」
視線が交わる。
目尻を緩めた銀灰色の瞳が「心配ない」と言っているような気がした。
「いつものものを」
静かに腰を下ろしたリオは、店中の客の視線を集めていた。
そこに居るだけで存在感がある。
「ヴァルノクス隊長は言うまでもないけれど、よく見るとあのお兄さんも随分と男前だよね」
セリーナが小声で言う。
「やっぱりみんな顔がいい男が好きなんだな」
ちえっ、とアレンは不満そうだ。
「おや、あんただって悪くはないよ。愛嬌があるからね」
「はいはい。そうかよ」
普段なら日常的なセリーナとアレンの会話の中に楽しく加わるのだが、今日は余裕がない。
話半分に笑い声を聞きながら、ハーブティーを3人分淹れていると、エリアスが口を開いた。
「おい、大丈夫なのか?」
アウレリアは顔を上げてエリアスを見つめる。
彼もエドガルドの正体に気がついているようだ。
面識があるのかもしれない。
「大丈夫…ではないかもしれませんが…」
こうなってしまった以上なんとかやり過ごすしかない。
アウレリアはトレーにハーブティーとスコーンを載せるといつもの笑みを浮かべた。
「どうぞ、お待たせしました」
重い足取りを気取られないように、エドガルドのテーブルに皿とカップを並べる。
隣の男は随分と若く見えた。
リオと同じか少し上くらいの年齢だろう。
注意深くアウレリアを観察しているようだった。
身のこなしから武の心得があるようだ。
「いい香りですね。いただきます」
エドガルドが躊躇なくカップに口をつけようとすると、護衛の男はギョッとしたように目を見開いた。
しかし、彼は視線で制するような素振りを見せる。
すると、その横でスッとリオがカップに口をつけた。
自然で美しい動作だった。
横目で視線をエドガルド達に滑らせてから、アウレリアを見上げる。
「これは彼らと同じ茶か?」
「ええ。同じポットで淹れましたが……」
「うまい」
「ありがとうございます」
アウレリアはリオが言わんとしたことを言葉にせずとも理解した。
それはエドガルドも同じだったようだ。
口端が皮肉げに僅かに上がる。
彼はカップに口をつけてにっこりと微笑んだ。
「これは美味しいですね」
「ありがとうございます」
「高価なハーブなのでは?」
「いいえ。近くの森のものです。ハーブも水もこの辺りのものは美味しいですから」
「ならば…作っている人が特別なのかもしれませんね…」
「褒めすぎですよ」
表面上は笑っているのに、腹の底が見えない。
普通の会話なのに、探られているような気がして、なんだか居心地が悪かった。
「それに」とエドガルドの視線がリオに向けられる。
「懐かし味がする……そう思いませんか?ヴァルノクス隊長」
一瞬、沈黙が広がる。
その瞳は確信を得ているようなそんな気がした。
その沈黙の意味を3人だけが知っている。




