第十話 重なる影
アメリア・ルシアは平凡な娘だと皆口を揃えて報告した。
だが、なぜかその平凡な娘が気になって仕方なかった。
対面すれば真偽がはっきりする。
そう思ったのだがーー
一目で普通の少女でない事はわかった。
内に秘める魔力を押し込めて巧妙に隠している。
姿も本来のものではない。
おそらく印象操作魔法の類だろうが、エドガルドが探っても何も見えないほどの高度な魔法。
何もわからないことが、逆に非凡である事を証明しているように思えた。
アウレリア・アルフェンはルクシオンの英雄であり、エドガルドにとっても唯一無二の存在。
だが、似ても似つかないアメリア・ルシアが彼女と重なる。
話し方、後ろ姿、ちょっとした仕草。
点と線が繋がるようだと思った。
結界の揺らぎ。
星獣と星護の森の異変。
全て彼女が関わっていた。
そして、初めて対面した時のあの表情。
一瞬、顔をこわばらせたのをエドガルドは見逃さない。
彼女は顔見知りだという事に気づいている。
そして、極めつきはリオ・ヴァルノクスだ。
柄にもなく、職務を全て放り出して、駆けつけてきた。
アメリア・ルシアを守るために。
危害を加えるとでも思っているのだろうか。
王である自分に敵意を隠そうともしない。
まったく、生意気な男だ。
思い返せば、この生意気な男がずっと気に食わなかった。
仕えさせていたのは、駒としてただ使えるから。
アウレリアの育てた弟子だったからだ。
そうでなければ側に置くはずもない。
エドガルドは、まるで目で会話するように視線を合わせる2人を見つめた。
決して弟子から師へ向けるものではない眼差しは、10年前から変わらない。
隠しきれない恋慕を一心に向けている。
気づいていないのは当人達だけで、なんともわかりやすい。
——あれは、アウレリアだ。
エドガルドはカップに手を伸ばして、10年ぶりの茶と菓子を味わう。
この感情は何なのだろう。
アウレリアが生きていたことへの喜びと戸惑い。
再会したことへの高揚感。
英雄を捨てて、ただの娘として生きようとしていることへの苛立ち。
そして、素知らぬ顔をしてエドガルドの前に立っていることへの怒り。
気づかなければ、一生隠すつもりだったのか?
エドガルドは自嘲した。
感情的になるなど、滑稽だ。
アウレリアは隙がない。
動揺を見せたのはあの一瞬だけだった。
ならば、揺さぶるのはーー
「懐かしい味がする……そう思いませんか?ヴァルノクス隊長」
アウレリアはどんな反応をする?
私のために戻ってきたのだろう?
エドガルドは紫色の瞳でじっと見据えた。




