第八話 木漏れ日の来訪者
深い黒の外套に、目深に被った帽子。
派手な装飾はない。
「どうだ?イアン。どこからどう見ても私は旅人だろう?」
エドガルドが問いかけると馬車の向かい側に控えているイアンは口を開いた。
「はい。しかし……」
「何だ?」
「いいえ。何でもありません」
賢い部下は余計な事は言わない。
だが、やはり旅人を装うにはこの生地は少し上質すぎただろうか。
まあ、良い。
王だと見破られなければ問題はない。
「ここで停めよ」
合図すると規則的な馬車の揺れが止まった。
「イアン、ここからは歩くぞ。馬車で近くまで乗りつけては不自然だからな」
「……本当に行くのですか?」
「不満そうだな」
「……いいえ、決してそのような事はございません」
「ここまで来たのだ。引き返しては無理して抜け出してきた苦労が水の泡になる」
イアンの懸念はわかっている。
主君の身を一番に考える者だからだ。
「安心しろ。お前もいるし、私も自分の身くらい自分で守れる」
実際にエドガルドに傷をつけられるとしたら、リオ・ヴァルノクス、そしてもう一人。
アウレリア・アルフェン
しかしアウレリアなら、自分を傷つけたりはしないだろう。
彼女は強いが無闇に剣を振るわない。
必要がなければ虫も殺さない優しい女だ。
優しすぎたのかもしれない。
近頃、彼女のことをよく思い出す。
理由はわからない。
不本意そうに後をついてくるイアンを先導するように、エドガルドは歩を進めた。
城下を歩くのは久々だった。
王太子時代はもう少し自由だった。
最後に私用で出かけたのはいつの事だったか。
程なくして木を基調とした建物が見えてきた。
木漏れ日という看板に相応しく、茂った木の葉の隙間から光が差し込んでいる。
なぜだろう。
この店の周りの空気は澄んでいるような気がする。
心が穏やかになるような雰囲気がある。
街外れの小さな店に、なぜ多くの人々が通うのか理由がわかるような気がした。
一層興味が湧いた。
客の話し声が聞こえる。
すでに賑わっているようだ。
ドアに手をかける。
ーーカランカラン
ベルの音と共に店に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
薄い茶色の頭髪を束ねた華奢な少女は一瞬動きを止めたように見えた。
蒼い瞳がエドガルドを捉えて確かに一瞬揺れた。
しかし、何事もなかったかのように彼女は笑顔を浮かべている。
平凡な容姿のはずなのに、なぜか目を逸らせない。
この少女が、アメリア・ルシア
いや、違う。
この少女はーー
根拠のない確信に、エドガルドは薄い笑みを浮かべた。




