第六話 賢王の来訪
「アメリアちゃん、心配したよ。風邪引いたんだって?」
薬草や食材を卸しにやってきたセリーナは、アウレリアの顔をじっと見つめた。
「顔色はもう大丈夫みたいだけど、無理は禁物だよ」
王妃に拘束されていた間、1週間ほどアウレリアは店を休んだ。
その間、風邪で寝込んだことになっている。
「本当に大したことなかったの。大事をとって長めに休ませてもらったのよ」
「それなら良いけどさ」
セリーナはクッキーを頬張りながら言った。
「でも、働きすぎなんだよ、アメリアちゃんは。本当に休んだ方が良いぜ」
「だが、怠けるのは禁物だ。休むと何でも勘が鈍る。私も食事の手間が増えるしな」
カウンター席で昼食を取っていたアレンとエリアスも口を挟む。
「研究の虫の教授と一緒にしないで下さいよ。アメリアちゃんはか弱いんですから」
「みんなありがとう。でも本当に大丈夫よ。お店で働くの好きだし」
それに、そんなにか弱くもないし、という言葉を飲み込むとエリアスと目が合った気がした。
彼はアウレリアの内心を読んだかのように薄く笑っている。
ーーカランカラン
他愛のない雑談の中に来店を告げるドアのベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
笑顔で入り口に視線を移す。
だが、その姿を見てアウレリアは一瞬、動きを止めた。
「おや、お兄さん達この辺りじゃ見かけない顔だね」
社交的なセリーナはいつもの調子で声をかける。
ハッと我に返ってアウレリアはカウンターから身を乗り出した。
「すみません。今メニューをお持ちしますので、奥のテーブル席にどうぞ」
コップに水を注ぎながら、アウレリアはもう一度、先ほどの客達を横目で確認する。
帽子と眼鏡を身につけているものの、覗く紫色の瞳、体つき、そして抑えきれない魔力。
彼の纏う魔力には覚えがあった。
汗が額に滲む。
(…なぜここに?)
水とメニューを運びながら、一歩一歩と近づいていく。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
耳を撫でるような穏やかな声は変わらない。
聞き間違えるはずがない。
「おすすめは何ですか?」
「そうですね…お食事でしたらサンドイッチ、甘いものが嫌いでなければケーキやお菓子もおすすめですよ」
「そうですか。迷いますね」
でも、もし彼であるなら甘いものは選ばない。
確認するようにアウレリアは続ける。
「あとスコーンですかね。うちのはジャムとかクリームをつけて食べてもらうために甘さ控えめにしてますけど、そのまま食べても美味しいですよ」
「じゃあ、このハーブティーとスコーンを2つ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
予想が当たり、背中に冷たいものが走った。
茶葉を用意しながら息を吐く。
大丈夫、ポーカーフェイスは得意だ。
いつもの通りに振る舞えば良い。
ーーカランカラン
その時、再びベルが鳴った。
「いらっしゃいませ…」
銀灰色の瞳が、少し慌てたように見つめる。
今、ここに来てはいけないのに。
アウレリアは目配せをしながら、少し安堵している自分がいることに気がついていた。
アウレリア・アルフェン
エドガルド・ルクシオン・レイヴァルド
リオ・ヴァルノクス
この3人が揃うことの意味を当事者達以外まだ、誰も知らなかった。




