第四話 星なき夜
今日は月が出ていない。どうやら新月らしい。
入浴を済ませたエドガルドはガウンを羽織って自室のランプを灯す。
ウイスキーをグラスに注ぎ、口に少し含んだ。
イアンの持ってきた報告書に目を通す。
アメリア・ルシア
やはり平凡な少女だ。
ただ、出自やルクシオンに来る以前の痕跡がまったくない。
あのイアンが調べて何も出てこないというだけで、平凡ではないとも言える。
それに、リオ・ヴァルノクスが執着する女。
それだけでも興味深い。
一度、お目にかかってみたい。
だが、王妃が余計な事をしたせいで警戒が深まっている。
リオ・ヴァルノクスやレオニス・アルフェンが出てくれば面倒だ。
彼らはまだルクシオンに必要だ。
敵に回すと厄介だ。
「さて…どうしてくれようか」
グラスの琥珀色の液体を、ただじっと見つめる。
その時、窓際に置いていた箱が光を浴びた。
禍々しい魔力。
エドガルドは立ち上がって引き出しから鍵を取り出す。
この箱自体に魔法がかかっているので触れても問題はない。
鍵を回して箱の蓋を静かに開ける。
宝箱のような精巧な箱の中には夜空のような黒い鱗と同じ色の鋭利な爪のようなものが入っていた。
星を散りばめたように美しく光り輝いている。
だが、先ほどから漏れ出している魔力の根源であることは明白だった。
そっと手を近づける。
ーーバチッ
音を立てて、弾かれる。
わずかに手のひらに火傷のような痛みが走った。
エドガルドさえ容易に触れることの出来ない魔力。
「どこまでも、私を拒むのか…」
実に忌々しい。
星護の森で手に入れた鱗。
東の国境で得た爪。
この2つが揃った。
多少の被害はあったが、それだけでも収穫があったと言える。
エドガルドは静かに息を吐く。
才能と美しさに恵まれたアウレリア・アルフェン。
彼女であればこの力をうまく使いこなしたのだろうか。
箱の蓋を乱暴に閉める。
10年前の因縁。
自分からアウレリアを奪った竜。
憎き厄災。
強大な力。
きっと使いこなす。
この力を使ってルクシオンに発展と安寧を。
そして強大な国にする。
彼女とした約束を守るために。
そのためなら、多少の犠牲もやむを得ない。
エドガルドはテーブルの報告書を再び手にとった。
公にはなっていないが、アメリア・ルシアはどちらの現場にも居合わせたらしい。
竜と何か関係があるのか。
もしくはーー
ボッと指先から青い炎が現れる。
魔法の炎はみるみるうちに報告書を灰に変えた。
「どうやって確かめようか…」
エドガルドはグラスに酒を注ぎ足しながら、窓の外を見上げた。
今夜は星も見当たらない。




