第四十話 疑念の芽
「レオニス・アルフェン、国王陛下に申し上げます」
「申してみよ」
エドガルドは余裕の笑みを浮かべていたが、眉間にはわずかに皺が寄っていた。
「はい。恐れながら、王妃様が連行したアメリア・ルシアはアルフェン家と交流があり、庇護下にある者です。どうか解放いただきたく存じます」
エドガルドは眉を一瞬ぴくりと動かすと、玉座で足を組み直した。
「王妃がその者を招いたことは、私の耳にも入ったばかりだ。さすがアルフェン家にも縁のある者、王妃も随分気に入って引き留めてしまったようだな」
「はい。そのように見受けます」
「心配するな。すぐにその者は家に返す」
「ありがとうございます」
礼をしたレオニスを見下ろすエドガルドの瞳は、酷く冷えていた。
レオニスが去った後、エドガルドは玉座で一人、頬杖をついていた。
「イアン、王妃の様子は?」
「まだ意識は戻っていないようです。医者の話では命に別状はなく、二、三日中には目覚めると」
「そうか……面倒なことをしてくれたものだ」
家柄も、容姿も、魔力も申し分なかった。
だから王妃に選んだ女だ。
だが今回は裏目に出た。
アウレリア。
もし彼女であったなら——こんなことは起こらなかっただろう。
こんな愚かな真似はしない。
「幸い、ガイアス・ゼルヴァーンが処理したため、王妃様の件は外部には漏れておりません」
ガイアス・ゼルヴァーン。
何でも見通す目を持つ、有能な男。
ルクシオンに忠誠を誓っているかは疑問で、食えない男だが、優秀であることには変わらない。
「アメリア・ルシアという娘については?」
レオニス・アルフェンが、アルフェン家の名を使ってまで救おうとした娘。
もし彼が申し出なければ、死ぬまで解放されることはなかっただろう。
「まだ若い娘で、有能ではありますが、出自は平凡な者かと。アルフェン公爵家では、令息を救われた恩義があるようです」
「なるほど……」
「また、娘の店に、近頃リオ・ヴァルノクスが出入りしているとか」
その名を聞いた瞬間、薄れかけていた興味が再び浮かび上がる。
「あいつが? 何かの間違いではないのか?」
エドガルドは、あの男とは相容れないと常々思っていた。
だが、一つだけ共通点がある。
リオ・ヴァルノクスという男は、権力にも富にも固執しない。
貫くのは、ただ武の道のみ。
美女をあてがっても見向きもしない。
それが王女であっても同じだ。
王弟という立場をちらつかせても、屈することはなかった。
あの男は、たった一人を除いて固執したりはしない。
そんな男が、理由もなく一つの店に足しげく通うとは考えにくい。
リオ・ヴァルノクスと、アルフェン公爵家が肩入れする娘。
「イアン、そのアメリア・ルシアという娘について、もっと詳しく調べよ。私も会ってみたくなった」
アウレリア・アルフェン。
なぜか、その姿が脳裏をよぎった。
——忘れたはずの名と共に。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。一旦ここで一区切りとなります。
次回からは少し過去の話を書きたいと思っておりますので、引き続きお付き合いください。
よろしくお願いします。




