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十年の眠りの間に、私の弟子は最強になっていた  作者: あさび
第一章

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第三十九話 ほどけない距離

朝陽を受けていた淡い金髪が、ゆっくりと茶色へと変わっていく。


蒼い瞳の奥にあった星のような輝きも、静かに薄れていった。


「先生……髪が……」


「自分で魔法を掛け直したわ。一旦城に戻らなくちゃ。アメリアの姿じゃなきゃおかしいでしょ?」


ガイアスと別れた二人は、森の中を城へと向かって歩いていた。


以前は森で修行することも多かったので、こうして並んで歩くことも、珍しくなかった。


「いつから、気づいていたの? 私だって」


ふと疑問を口にすると、リオは少し考えるようにしてから答えた。


「……星祭りの時に、目が合った時から気にはなっていました」


「それって最初からじゃない」


「先生のこと、わからない訳ありませんよ。でも……違っていたら立ち直れないので、ありえないと言い聞かせていましたけど。実際、ありえないでしょう?」


彼は苦笑を浮かべた。


確かに、死んだはずの人間が生きているなど、普通は考えない。


「確信を持ったのは、先生が夜に剣を振っていたのを見た時です。あれを見てしまえば、疑う余地はありません。あと、先生、手にタコがあるでしょう? ただの街娘が、そんな風になるまで剣を振りますか?」


アウレリアは自分の手のひらを見つめた。


白い肌。だが、確かに可憐とは言い難い。


「娘らしくなくて悪かったわね」


「別に悪いなんて言ってないじゃないですか。俺は好きですよ。先生の手は、今まで守ってきた者の証みたいなものだ」



真っ直ぐな言葉に、少しだけ照れる。


昔のリオなら、こんなことは言わなかった。


それだけの時間が、確かに流れている。



「そういう私も、すぐリオだってわかったわよ。こんなに背が伸びて、大人になっていたけどね。そうよね…わからない訳ないわよね」


離れていても、姿が変わっても。


切っても切れないものが、あるのかもしれない。



「でも、それなら早く言ってほしかったわ」


「途中から、楽しくなっていたのかもしれませんね。先生を励ましたりした事、なかったですし」


「もう、意地が悪いわね」


思い返せば、正体がばれていないと思っていた頃のやり取りが、やけに気恥ずかしい。


リオは、どんな時もアメリアに対して紳士だった。


「リオも大人になったっていうことね。かっこ良くなったし、そのうちどこかのご令嬢と結婚して、家庭を持ったりするのよね。きっと……」


「それは、ありません」


思いのほか強い口調の声に、アウレリアは思わず足を止めた。


「……ああ、すみません。大声を出して」


「それはいいけど……ごめんね。もう師匠じゃないと言ったのは私なのに、なんというか、親気質が抜けていないみたいだわ。もう関係ないのにね」


昔とは違う。


もう子どもではない。


恋も、結婚も、リオの自由だ。


そう思うのに。


胸の奥が、わずかに痛んだ。




「関係ありますよ……」


リオが、アウレリアの手を掴む。


「え?」


「関係ないなんて、言わないでください」


振り返ると、銀灰色の瞳がわずかに揺れていた。


胸が痛い。


今度は、はっきりとそう思った。


自分も、同じことを言われたら、きっと傷つく。


守るつもりで、遠ざけていたのに。


「リオ、ごめんなさいね」


アウレリアは、両手でその手を包み込む。


「今度こそ全部話すわ。でもその前に、この状況をどうにかしないとね。まさか兵士を薙ぎ倒して逃げるわけにもいかないし。このままだと、いつ城を出られるか……」


「それなら、なんとかなりそうです」


「……本当に?」


「ええ。助言してきた者が、少し気に食わないですが……きっとうまくいきますよ」


リオが手を握り返す。


感情をあまり出さない彼の表情が、わずかに歪んだ気がした。


それが一瞬、苦虫を噛み潰したようにも見えた。

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