第三十七話 再会の余熱
爆発の方向へと駆け抜ける。
徐々に魔力の気配が強くなるのを感じた。
すでにまとわりつく空気が重い。
肌に張り付いて不快だ。
先程から爆発音はところどころで続いている。
急がなくては。
息を吐く間もなく走る。
辿り着いた先に、見知った後ろ姿があった。
最初からそこに居る気がしていた。
彼は苦戦を強いられているようだった。
当然だ。
実体のない相手に剣士は不利だ。
一刻を争う。
だが、不思議と迷いはなかった。
きっとリオはすでに気がついてる。
『アメリア』を見つめる眼差しが、言葉にせずとも告げていた。
もう何度もアウレリアは名を呼ばれている気がしていた。
隠す意味は、もうなかった。
「大丈夫?」
目の前に飛び出すと、リオは驚いたように目を見開いた。
また、怪我をしている。
リオは昔から他人の為に怪我をしがちだから、心配だ。
彼はアウレリアの姿を頭からつま先まで見つめると、少しほうけたように言う。
「たった今……問題が解決しました」
アウレリアは微笑を浮かべて頷く。
「剣はある?」
「はい」
リオは腰の剣を差し出した。
黒い剣身の長く重い剣だ。
青い宝石が埋め込まれている。
よく使い込まれている良い剣だと思った。
アウレリアは手にとって魔力を込める。
手から光が発せられて、黒い剣身が光を纏った。
「これでアレが斬れるわ」
アウレリアは視線を無数の亡霊へと向ける。
リオは両手で恭しく剣を受け取ると、もう一本の短い剣を差し出した。
「これは…」
アウレリアには見覚えがあった。
星の装飾がついた細身だが軽くて力が弱くても振れる剣。
「弟子入りした時に初めて師匠からもらった剣です」
当時子供だったリオでも扱えるようにと選んだ剣だった。
アウレリアが幼い時に使っていた剣でもある。
手に取ると剣が覚えているかのように馴染んだ。
「行きましょうか」
「はい」
アウレリアも剣に魔力を込める。
二つの剣身が、星のように光を帯びた。
容易い相手ではない。
だが——
不思議と、恐怖はなかった。
無数の亡霊へと、地を蹴る。
リオが踏み込み、剣を振るう。
今度は確かな手応えがあった。
霧を裂くような感触。
だが、亡霊は確かに断ち切られた。
淡い光に包まれ、そのまま霧散する。
爆発はしない。
「……斬れる」
リオは小さく呟いた。
続けて迫る亡霊を斬り払う。
今度も同じだ。
光に包まれ、そのまま消える。
「後ろ」
振り返るより早く、身体が動いた。
背後から迫っていた亡霊を、振り向きざまに斬り裂く。
その先で揺らめいた亡霊を、アウレリアの剣が先に断ち切った。
遅れて、光が霧のように散る。
「無理はしないで」
穏やかな声だった。
だが、その瞳は鋭く戦場を捉えている。
二人の間に、言葉はいらなかった。
次に狙うべきものも、動きも、自然と重なる。
リオが踏み込み、アウレリアが補う。
アウレリアが斬り、リオが間を埋める。
数は多い。
だが——
不思議と、負ける気はしなかった。
夜が明ける。
流石に疲労が濃い。
そこに立っているのは、二人だけだった。
汗と泥と血で満身創痍だが、不思議と爽快感がある。
「終わったみたいね」
「はい」
リオが上着を脱いで、アウレリアに着せかけた。
「汚れていますけど、その格好よりましでしょう」
アウレリアは自分の姿を見下ろした。
動きにくくて、ワンピースの裾を破ったことを忘れていた。
足が太もも近くまで露わになっている。
さぞ見苦しかっただろう。
「ごめんね。みっともなかったわ」
「……あなたは、相変わらずですね」
呆れたような眼差しが、アウレリアを見つめる。
彼は静かに口を開いた。
「……先生」
「……もう、教えることはないし、先生でもないわ。言ったでしょう。破門するって」
リオは静かに歩み寄り、両腕を伸ばした。
「俺にとって先生は、ずっと先生です」
アウレリアを抱きしめる腕が、わずかに震えている。
その背に手を伸ばしながら、懐かしいと思った。
ずっと昔に、逆にこうして抱きしめたことがあった。
「大きくなったわね。リオ」
十年ぶりに呼んだ名は、どこまでも愛おしく、尊い。
気がつけば、夜は明けていた。
しばらく、二人はそのまま——
お互いの体温を確かめていた。




