第三十六話 斬れぬ敵
実体のないそれは、月明かりに照らされると、ぼんやりと人の形をしていた。
あれは、魔力だろうか。
リオは魔力を持たないが、感じることはできる。
魔力が実体化するなど聞いたことがない。
だが、そう考えるとしっくりくるような気がした。
ゆらめきながら、同じ方向へと向かっているように見える。
木々の合間、遠くに王宮の灯りが見えた。
意思はないように見えるが——
何か目的があるのか。
剣を構えたリオにも、見向きもしない。
周囲に危害を加える様子もない。
そう思った、その瞬間だった。
亡霊の輪郭が崩れる。
次いで、光に包まれた。
まずい。
リオは咄嗟に後ろへ飛び退き、身を低くする。
――ドン
爆風に、身体が持っていかれそうになる。
衝撃音が響き、周囲で何かが砕ける音がした。
土埃が舞い上がる。
顔を上げると、木々は薙ぎ倒され、地面が抉れていた。
まるで爆弾だ。
不安定な魔力は、いつ爆発するかわからない。
人の多い場所で、この数が爆発すれば——
リオは地を蹴った。
剣を振り上げ、亡霊を斬る。
だが、剣は空を切った。
やはり、実体がない。
その瞬間。
斬った亡霊が、光に包まれる。
――来る。
爆発する。
リオは身を翻したが、間に合わない。
爆風が、身体を吹き飛ばした。
「ぐっ……」
受け身は取ったが、強く打ち付けられる。
やはり威力が高い。
どうする。
どれだけ剣の腕があっても、斬れない相手では意味がない。
魔術に長けた者へ応援を要請するべきか。
――いや、時間がない。
その間に、被害が出る。
八方塞がり。
そう思った、その時。
懐かしい気配がした。
はっとして、目を見張る。
風のように現れた、光。
月明かりに照らされ、淡い金色の髪が揺れる。
彼女は、いつもそうだ。
颯爽と現れる。
「大丈夫?」
澄んだ青い瞳が、わずかに揺れた。
「たった今……問題が解決しました」
アウレリア・アルフェン。
その姿を見るのは、実に十年ぶりだった。




