第三十四話 選んだ道と、止まらない予感
「アメリア様、お食事です」
この部屋に出入りするのは、サラというメイドだけだ。
食事は豪華で、湯浴みも着替えも出来る。
部屋は広く清潔で、茶菓子やお茶も定期的に差し入れられた。
監禁というには好待遇だが、部屋の外には見張りの兵が常に配備されていて、外に出ることは許されない。
アウレリアの存在自体を、他の誰の目にも触れさせないようにしているらしい。
椅子に座ったまま、ゆっくりと視線を巡らせる。
窓は開かないように作られている。
二階だが、アウレリアなら飛び降りることも出来るだろう。
けれど。
簡単に背を向けられるものではなかった。
ずっと、自分がアルフェンだから戦っていたのだと思っていた。
着飾ることもなく、パーティやお茶会に出ることもない。
買い物に行くことも、花を愛でる時間すらなかった。
人生の大半を、自分のために使うことはなかった。
もし、アルフェン公爵家に生まれなかったら。
強い魔力も、剣の才も持たなかったなら。
きっと、違う生き方をしていたのだろう。
でも。
後悔はしていない。
大切な人を、国を守って生きてきたのだから。
きっと、力がなければと、力があったならと。
そんなふうに考えていたはずだ。
アウレリアは、ゆっくりと瞳を閉じる。
たとえ、十年前あのまま命を落としていたとしても。
あの選択は、間違いではなかった。
自分は、ルクシオンを捨てられない。
ならば。
王妃と向き合う。
彼女の望みを叶えられるとは限らない。
それでも。
全力を尽くすしかない。
そう、決めた。
——ドンッ
不意に、爆発音が響いた。
地面が揺れる。
反射的に身を低くする。
何かが起きている。
すぐに窓へと駆け寄り、外を覗き込む。
煙が上がっている。
火も見える。
遠く——東。
国境の方角。
胸の奥がざわついた。
嫌な感じがする。
理由はわからない。
けれど、このままではいけない気がした。
アウレリアは椅子を持ち上げる。
一瞬だけ迷う。
だが。
振り抜いた。
ガラスが砕け散る。
窓枠に足をかける。
躊躇はなかった。
そのまま飛び降りる。
衝撃を逃がして着地し、そのまま駆け出した。
胸の奥で、何かが鳴っている。
ずっと。
止まらない。
胸のざわつきは、消えなかった。




