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十年の眠りの間に、私の弟子は最強になっていた  作者: あさび
第一章

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第ニ十三話 灯りの先に

木漏れ日は、今日も賑わっていた。


昼の営業を終え、アウレリアは食器を洗っていた。


店はすっかり軌道に乗り、今では常連客の顔も増えている。


穏やかな日々だ。


――あの頃の方が、夢だったかのように思えるほどに。


「ねえ、アメリアちゃん」


ふと、セリーナが口を開いた。


「最近、ヴァルノクス隊長が通ってるって本当?」


思いがけない話題に、手がわずかに止まる。


セリーナは今日も行商の途中に立ち寄り、品物を卸した後、そのままお茶を飲んでいた。


商人は情報通だと聞くが、ここまでとは思わなかった。


「え?……ええ、まあ。最近、お茶を飲みに来てくれるわ」


「本当かい?そりゃあ、詳しく聞きたいね」


焼き菓子を摘まんでいたエレナまで、身を乗り出す。


「もう、エレナおばあちゃんまで。そんなに好きなの?」


くすくすと笑うと、エレナは真剣な顔で言った。


「若かった頃なら、何としてでもお近づきになってたね。これでも昔は評判の美人だったんだよ」


「まあ、私もお近づきにはなりたいね。気に入ってもらえたら太い客になってくれそうだし。でも私じゃ役不足か」


セリーナは舌を出して笑う。


元弟子の人気が高いのは、悪い気はしない。


「何と言っても鉄壁のリオ・ヴァルノクスだからね。容姿も実力も地位も申し分ないのに、縁談は全部断る。浮いた噂も一つもない」


「ええ、だから?」


今度はエレナが口を挟む。


「鈍いねぇ、アメリアちゃんは。そんなお方が、街外れの店に通い出したら――何かあると思うだろう?」


――そういうことか。


思わず苦笑する。


こういう話は、いくつになっても好きなのだろう。


だが、アウレリアは昔からその手の話に疎かった。


着飾って、淑やかに笑う――


そういう女性が好まれるのだろう。


けれど。


そういう生き方は無縁だった。


「別に、二人と同じよ。この店を気に入ってくれて、来てくれているだけ」


「本当?何か隠してない?」


セリーナが疑うように目を細める。


「だって、そんな大層な方が、私みたいな街娘を気にかけるわけないでしょう?」


そう言って笑うと、二人は顔を見合わせた。


「そうかなあ。アメリアちゃん、魅力的だと思うけどね」


「ええ?お世辞でも嬉しいわ」


「お世辞じゃないんだけどね」


セリーナは苦笑した。


――そう言われても、実感はない。


だが。


二人にはああ言ったものの。


リオは、近頃あまり間を置かずに木漏れ日を訪れている。


まるで、少しの時間も惜しむかのように。


カップを拭く手が、ほんの一瞬だけ止まる。


――そろそろ、来る頃だ。


日が暮れると、ついドアへと視線が向く。


店を閉めても、灯りを消さずにいることが増えた。


あの扉が開けば、胸の奥が落ち着かなくなる。


それでも。


また「先生」と呼んでほしいと、思ってしまう自分がいる。


もう、師でも弟子でもないのに。


あの日のような危険は、そう多くはないはずだ。


それでも、怪我をしていないかと気にかかる。


――矛盾している。


アウレリアは、そっと窓の外へ視線を向けた。


空は重く、今にも雨が降り出しそうだった。


ここ最近、晴れ間を見ていない気がする。


ほんの些細な違和感。


それだけのはずなのに――


胸の奥が、ざわついた。

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